《ヴァルカニア》跡にて
《―――旧王都、ヴァルカニア。
嘗て、イヴァルカン王国だった時代にイヴァルカンと言う家名を持った一族が王都としていた場所である。
英雄皇帝と呼ばれるイヴェンシア=ホロウリア・ヴァルカリアが中央国家ヴァルカリアを成立させる前までは王都だったが、ヴァルカリアを成立させ、人類最終防衛都市と呼ばれるイヴェルカを王都と定めてからは旧王都として、また観光地として賑わった。―――》
なんでこんなことを知っているのかはさておき、俺はその跡地にいる。
謎の抉れた中心地―――曰く、何か巨大な質量を持ったものが落下した跡らしい―――に集まった亀は、「いちいち倒す必要はない」と言われたが、それでもちまちま倒したくなるのが俺だ。
その為、近づいて倒そうとしたのだが―――
「なんだこれ...。」
「これが倒さなくていいって言った理由よ。
勝手に自滅してくでしょ?」
「まあ、そうだけどな...。これはあまりにも惨い気が…。」
「知らないわよ、3時間すればこうなるんだから。作った人に直訴すれば?」
その内、鈴に直訴するのもいいかもな、と思いつつ、俺のレベルが見る見るうちに300の大台を自動的に超えていることに驚いていた。
優の言ったように、亀に近づくと起動し―――そして、ほかの亀を傷つけた。
その事によって傷ついた亀が誤爆を起こし、それが広がり―――そして、今に至る。
―――
「あれ?なんだか一匹だけ残ってるような...。」
俺は全滅したはずの亀の群れに一匹より大きな亀を見た。
その為、近づいてみると―――
その亀は、遠くを狙撃した。
その轟音は、近くにいる者にステータス《恐慌》を起こすのだが―――俺には効かない。
どうやら、レベル差で効かないようだ。
それでも、当たったら一撃必殺なのだろうが、それは相手が移動のためにAGIを上げている場合だ。
俺の場合は近距離・速攻討伐以外できない。
その為助かった。
―――
約15分後。
俺の体力は満タン、武器―――再びターミナル=バルクと何故かエターナル=ゲイルだった―――も耐久値は9割以上が健在だが、要塞ガメも残り体力は高い。
そんな中、俺はその亀の弱点をついに発見した。
それは、主砲にチャージ時間が有る事と、其の主砲に攻撃をすると暫く行動不能になる事、そして副砲周りの装甲が数mmしかないことだ。
分かったところでどうやるか、と言うと―――
「亀野郎、こっちだよこっち!のろまの壁野郎!」
その声に反応したかのようにこちらを向くと、自らが攻撃に晒される事を顧みず主砲―――所謂メガ粒子砲―――をチャージし始める。
その猶予時間は約27秒間。
実はその27秒間と言うのは鈴―――ベルが俺に会話し始めて、そこから俺のギルドに入る、と言ったまでの時間なのだが―――そんな事を知る物は本人と俺しかいないだろう。
ともかく、その間に近くにある槍を取り、投げる。
この槍には自動追尾システムでもあるのか、一直線にメガ粒子砲の砲身の中に入り―――そして、内部が破裂した音が聞こえた。
それだけでコイツの3段HPバーの3段目の半分が消し飛び、体勢を崩して副砲―――落下式対地ミサイルと27㎝2連装砲―――が目の前に来る。
そこをザクザクと斬りつけると、コイツは小気味いいようにHPを減らす。
試しに一回やってみよう、と思っただけのこの一回でもHPは残り一段、それもあと一撃で倒れるところまで削れた。
そのため、一撃で倒そうとし―――既視感を感じた。
―――あれは確か2年と4か月前。
第Ⅰ層攻略の時だ。
ミノタウロスを誰が倒すか、と言う話の途中でミノタウロスが斧を投げてきたことがあったような―――
そこまで感じて、俺は吹っ飛ばされていた。
嘗ての事を思い出すのが遅すぎたようだが、何故吹っ飛ばされたのか。
その答えは、俺が十字に剣を構えても多少圧されるような剣圧―――?を持った目の前の蜘蛛だ。
どうやらあの状態は遠距離用だったらしく、近距離用になるとあの二本の脚のダミーを棄てて8対、16本の太い剣脚を持った蜘蛛―――と言うよりはバッタに近い―――型の姿になるらしい。
幸い体力は変わらなかったものの、倒せるものも倒せなくなりそうだ。
そう思い、攻撃を続けていると―――
「【俺の転生語がこんなに貧弱になってるなんて、本当に柚はゲームしてるのか?いや、この世界だと藍理栖だったか?
...まあいい。おらっ】」
その一声と共に蜘蛛が討伐された。
口を開けている俺に、軽く霧で包まれた灰色の人は嗤う。
「【おいおい、俺を見てビビってるのか?俺はお前の許だと言うのに】」
何を言っているのか分からず、俺は。
「...おまえ、誰だよ!?」
と、軽く絶叫するのだった。