銃の世界、Iaの剣+謎の場所にて
「...俺がこんなことをしなきゃならないなんて...。」
「まあ、いいでしょ。実質稼働テストって事だったら」
「よく言うよ」
「ま、頑張れ、威亜。問題ないようだったら私も後で行くから」
「ハイハイ...。」
2040年、3月29日。
俺は自分の部屋にいた。
鈴はこんな事を言っているが、どうせそのうち同じように自分の作った世界に一プレイヤーとしてログインするのだろう。
そんな考えが間違えだと言う事、もっと言えば俺の力の抜けた(と鈴が言っていた)ログインしているときの顔をずっと見て居たいと思っていることなど、この時の俺には図り得ない物だった。
―――
「...ハア。...うわあ、そういえば俺の声って高くなってるんだった。
見た目のせいで絶対女と間違えられるだろ」
其の世界で思った感想は、その二つだ。
今の俺の見た目は、どう見ても女だ。
紫の長髪(腰辺りまで)に、銀と紫のオッドアイ。
それに、気持ち添えられたような2本の片手剣。
それは、かつて俺が目指していた姿。
そして、βの時、最後に俺がなっていた姿だ。
この姿を知る人はいないだろう。
そう思い、俺は動くことにしたのだが―――。
「...貴女誰?」
「...!?」
突然、後ろから聞こえてきたその声に驚く。
そして、そのイントネーションに気付く。
嘗て、鈴―――ベルと初めて会った時に、そのようなことがあった。
『私が、貴女のギルドに入ろうって言うの!』
その時の後のような反応になるだろうなあ、と思うと笑いがこぼれる。
「何笑ってるの?」
どうやら、後ろから聞こえる声の持ち主は酷いらしい。
...どこかで聞いたことのある声のような...。
「...いや、俺は男だぞ?」
「嘘言わないで頂戴」
「いや、嘘じゃないんだが...。」
そして、振り返り目を見開く。
その見た目は、いつぞやに一度だけ見た事のある物。
あの忌々しい諸悪の根源で面倒ごとを引っ張ってくる疫病神の《Destiny Plan》を有効化した時だ。
その少女の名は、氷華 優。
あの疫病神の娘の名だ。
―――
「...そんなに驚くことないじゃない。
...もしかして、女に間違われたのが嫌だったの?」
「...いや。妹がお世話になっている」
「......何言ってるの?」
俺は、その少女と俺達との関係を覚えていた。
柚が世話になっていることを鑑みると、当然礼から始まる。
それほどに、俺は妹たちを大事に思っていた。
―――相当後、俺の身に、いや、氷華 斉太に伝えられたことを考えると、このことは少しおかしいともいえるのだが。
「柚って奴がいるだろ?妹でな。
お世話になってるようだから、礼を言おうと思ってな」
「...ってことは......。...いや、何でもない」
彼女は何を言おうとしたのだろう。
俺に関しての事だろうが、生憎俺には思い当たる節がない。
「宜しく、Ia」
「なんで俺の名を知ってるのかは聞かない事にしてやろう。宜しく」
俺の名の下に、<〔V〕>と言う名前がと言う名前が出現した。
なんとなくだが、コイツにはお世話になるだろう。
―――氷華 斉太の言うことは本当だったようだ。
―――
「...私の思った通りだな」
彼は暗闇の中嗤う。勿論、氷華 斉太の事だが。
彼は、2月三日に優の許を離れていた。
自らを彼女を脅かす鬼とし、二人が暮らしていた家からいなくなっていた。
同時に家を売り払い、7月二四日には強制立ち退きが実行される。
彼等からすれば、その家は二人の―――いや、三人だったころの(彼が渡した子のことは数えない)思い出がこもった場所であり、捨てられるものではない。
だが―――。
彼にとってはその家は彼の妻、佑子がいてこそ成立するモノであり、彼はその家をすぐに捨てたかった。
そこに、氷桜 威亜と言う希望が現れた。
彼は、そのことにほくそえんでいた。
そして、良いように育っていると喜んでもいた。
彼の可能性と言う物は、全てが予定されており、氷桜 威亜と言う人物がいてこそ成り立つ。
そんな彼は、威亜がどのように動くか、理解していた。
それは、グレン=ヴァルカリアと名乗った男がもたらしたものだったが―――彼にとっては、その終局にある自らの死すらも計画の一つと―――威亜と言う人物を形作る一つのきっかけになると思っていた。




