Destiny Plan
そして、俺はいつしか気づいた。
何故か、一つだけポツンと浮いている物が有る事を。
そして、その物―――浮遊石が近づいてきた。
浮遊石が近づき、上に載った人が下りると、その役目を終えた、と言うように浮遊石はもう水の残っていない滝+ため池跡の大穴に落下していった。
そして、その上に乗る人は、と言うと―――
「......またあんたか。お前の娘に妹がお世話になったようだが」
「久しぶりだな、イア君。娘...いや、もう名は聞いただろう?優は確かに私の娘だ。
最近、氷桜 柚依と言う少女に世話になっている、と聞き直ぐに分かったよ」
「なんですぐわかるんだよ」「まあ、私の超能力のようなものだ」「マジかよ」
―――もちろん、氷華 斉太と言う名の者だった。
どうやら、俺の勘は当たったらしいが、そんなもの嬉しくない。
「どうやら、お前の娘が世話になるのは俺ではなく柚の方だったらしいが」
「ふふ、私がすぐお世話になるだろう、といつ言った?優が世話になるのはこの後だ。
きっと、次君が新たに入る世界で最も多く共に過ごす者が優となるだろうさ」
何を言っているのか分からないが、そのような勘など外れるに決まっている。
そう思うと、上に影が出来た。
不審に思い、上を見ると―――とてつもなく巨大だろうと思える、謎の物が浮いていた。
とてつもなく大きいと推定できるのは、雲の隙間から気持ち程度見える外周部にゴ―レムや砲台が―――
と、そこまで考えたところで、『途轍もなく巨大な外周にゴーレム』と言う組み合わせの物を思い出していた。
しかも、それを作り出したのはコイツだ。
だが、いくらどう考えてもそんな筈は―――
そこまでを思ったとき、不意に奴はこういった。
「君が思う通りの物をよういした」と、その悪魔の言葉を。
―――
「...いやあ、今から君に渡す物のスケールを考えると、実演した方が早いと思ってな。
《Destiny Plan》。いい名だろう?かつて、何かしらで聞いたことのある名だが。
ま、そのようなことはどうでもいい。この影は、私が召喚した、偽のスケアクロウ。
命名、Fake Scarecrow、と言ったところか。
直訳だが、まあいいだろう。私には命名センスがないものでな」
それを聞いた俺の感想は、ごく単純なものだ。
「...話が長えよ!」
「すまない、私の悪い癖だ」
「すまない、じゃねえよ!ったく...。」
「こんな悪い子になるとは、優を見習ってほしいものだ」
「見た事ねえよ!」「では、来週のクリアパーティに優を活かせようか?」
「なんで知ってんだよ...。あと、アイツはだめだ。柚もつれてかねえのに、なんで連れてく必要がある」
そして、俺は今までのインパクトで忘れていたことを思い出した。
「ベルはどうしたんだ!?」
それを聞くと、忘れていた、と言うように頭をかくと、軽く苦笑しながら彼は言った。
「おお、すまない。君との談笑が弾んだせいだ、イア君も悪いということを覚えてくれたまえ」
「いや、お前の話が長いからじゃ…。」「優みたいなことを言うのだな」「...。」
そして、相変わらず疲れているように見える氷華 斉太は懐からある者を取り出した。
霧のようにつかみようがなく、だが確かにそこにある。
小さな人型だった。
「これが非活性状態のシステムだ。
...最後までログアウトしていなかった少女の肉体を依代としたものだが」
「swンjktがアッツts目うkウェ!」
「日本語でしゃべり給え、イア君。......まあ、仕方ない、か。
今回の件は私が悪いのだからな。だが、これを受け取らなければ彼女は戻ってこない。それでもいいのか?」
「......!‼」
「おおっと、嘘だと思うのか?だが、これを破壊してしまえば、あの世界でベル、と言う名を持っていた少女は戻ってこないぞ?」
俺は、一撃でこいつを殺せばベルが戻る、と確信した。一撃のもとに倒せなければ、ベルが死ぬことも。
「私を襲わず、これを受け取るのなら安全に彼女を現実世界に戻すことを約束しよう」
その言葉で、俺の動きは停止した。
そして、彼が俺のアイテム欄にそれが入ったことを確認すると、突然こういいだした。
「いや、君をからかったのは楽しかった。
だが、君のあの少女への想いがこれほどとは。
私も、なぜか不具合で残ってしまった彼女の事をどうしようか悩んでいたのだが、こうすれば戻るだろう。
君のおかげで、一つの命が助かったのだよ」
何故か、今すぐにでもここを出たいと思い、ログアウトを行おうとしたが―――
あの時と同じように、<強制イベント中のため、ログアウト不可となっています。ご了承ください>と言う文が出てきた。
「少し待ってくれてありがとう。
お陰で、彼女のログアウト、及び《Destiny Plan》の待機状態の移行が完了した。
是非、手に取って使用してくれ給え」
その狂人男の言葉で俺の意識は覚醒し、俺の手にあったアイテム―――先ほどとは違い、人型ではなく、8の字を描く赤い線に、中心を貫く青い線、そして8の字の先端に足を延ばそうと斜めの線を伸ばす空色の線が作り出した薄い板のようなものを使用―――砕くと、その先に靄のような映像が浮かび上がった。
それを見た瞬間、俺はログアウトしていた。
そこに写っていたのは、少女とそれより少し大きな少年が原っぱをかけている、そんな仲睦まじい二人を見る氷華 斉太ともう一人の女と言う、一組の家族の絵だった。
そこにいた少年は見た目が透けており、女は灰色になっていたが。
―――
「...。
ん、涙...?
なんで、だ?俺は、泣いた覚えなんて久しくないんだが...。」
俺は、何時の間にかログアウトしていたらしい。
だが、システム、と氷華 斉太が言ったものを使わなくては。
そう思い、俺は一週間後のドゥームデイ・ナイツクリア記念の打ち上げに向けて動くのだった。




