ⅬⅩⅩⅡ層の奇蹟
「...くそう、なんで俺がこんな羽目に...。」
「それはイアが悪いんじゃない?」
「そうだよ。まったくもってベルの言う通り」
「二人で責めるなよ、なあ、ヴァイテル?」
「まあ、どっちもどっちなんじゃないかなと...。」
「評価厳しめだな」
ⅬⅩⅩⅡ層守護塔、最上階。
俺は、これから待ち受けるボスに向けて、最後の忠告を行っていた。
「なんだかんだでここが半分だ。
...ⅩⅩⅩⅥ層みたいに、“人”の可能性もあるからな、気を付けてくれ。
じゃあ、最後の締めはベルに任せる!!」
「えー!?...まあ、いいけどさ。
......何事にも焦らず、幻覚系の魔術を使ってくるかもしれないことに留意しつつ、戦闘を行うように!以上!」
その声がもとになって、全体が動き出す。
―――
「...ん?」
俺は目を疑った。
なぜなら、そこには螺旋階段が落ちているからである。
真円の四分の一地点特有のフロアに、皆が入った。
「...じゃあ、俺に続いて上に行くぞ!」
そう言って、連なる面々。
だが、俺は突然謎の感覚に襲われた。
何処からか、アリスの声が聞こえた気がしたのだ。
しかし、隣にいるアリスは口を動かしていない。
何故だろうと思っていると、突然ベルが襲い掛かってきた。
難なく倒したのだが、今度は全体が襲い掛かってくる。
俺は、全体をさばききれずに少しづつ苦しめられていったが―――
何故か、再びベルがよみがえった。
次は、俺の味方としていてくれる。
ベルは、なんだか光を放って見えた。
いつか、その光に手を伸ばせたのなら―――
そう考え、俺は戦い続けた。
―――
「......。......?...イア?大丈夫?」
「ん......。...ああ、おはよう、ベル。大丈夫って、何がだ?」
「...なら良かった」
そうして、ベルは抱きついてきて―――そして、倒れた。
次の瞬間、俺の腹部にも激痛が走り―――俺は意識を失った。
―――
『イアさんが突然中央に引き寄せられるように動いていって、そうしたと思ったら突然ボスゲージが現れて、イアさんが襲い掛かってきた。
激戦になったけど、ベル副団長様がイアさんを止めてくれた』。
それが、俺のⅬⅩⅩⅡ層攻略の時の感想らしい。
...俺が見た、最初から降りていた螺旋階段。
あれは、俺にあそこのボスが見せていた幻覚らしかった。
そして、それにまんまと引っかかった俺は、現実の俺が襲い掛かっていたために夢では皆が襲い掛かってきているように感じ、皆が消えるまで俺の弱体化は無かった。
そして、ベルが俺をもどしてきてくれたらしい。
...それを聞くと、俺がどれだけ間抜けなのかを思い知らされる。
―――
「...で、なんでお前がここにいんだよ」
「へへへ、監視目的でーす」
「嘘くせえな...。」
「まあ、監視はホントだよ。
...また、あの時みたいに暴走しないためのセーフティとして、私を使ってるだけさ」
「...そうか。迷惑をかけるな」
「気にしなくてもいいよ。それに...。
前から迷惑はかけられてるしねっ!」
「...それを言うな」
ⅩⅩⅩⅣ層、俺のプレイヤーホーム。
そこで、なぜか俺より先にベルがいることが不思議でならなかった。
「大体、お前の家もあるだろ?」
そういうと、悪びれもせずベルは言う。
「私の家なんて、最初からないんだ。
...それに、あっても『鉄楼団』の本部くらいだし。
......いや、本当は...。」
「本当は、何だよ」
途中で顔を赤くして言い淀むベルに、俺は追及する。
「...私、あなたの家も実質私の家だと思ってるんだよね」
その言葉に、俺は心底あきれていた。
「俺の家はお前の便利道具じゃねえんだよ。分かったら、さっさと帰れ」
そういうと、少しだけ彼女は怒りを見せた。
「...私が言ってるのはそういう事じゃない!
......まあ、いいよ。どうせ、イアは鈍感だって知ってたし」
途中であきらめの言葉を発するベルに、俺は心外だとばかりに言う。
「俺が鈍感だってどういうことだよ。
鈍感だったら今頃俺は生きてないぞ」
その俺の言葉に、ベルは溜息を付く。
「もういいよ。ほら、早く攻略の続きに行くよっ!!」
「お、おう...。」
何故か、ベルが怒っているように思えた。
何故なのだろうか。
奇蹟と書きましたが、あれは皮肉です。




