ハロウィーンの一幕
俺は、久しぶりに何も被らずにⅩⅬⅧ層主街、<グランダース>に来ていた。
此処に初めて来たときは、犬でもいるのかと思ったが、本当にこの町には犬が存在する。
それも、肉を与えると、《此処掘れワンワン》と言うスキル(地面から食物、宝箱、装備が確率で採掘できるようになるスキル)を入手できるために、俺は前一回ここに来て、そのスキルを習得して川から水を引いて畑を作り、序でにそれ以外の派生で出なさそうなEXスキル、《農耕》を入手していた。
なんだかんだでそれを火で炙ったり、それを生で食ったり。
時には、それを撒いて魚を取ったりしている。
その二つのスキルレベルはどちらもマックスな為に、掘り出すとレアな野菜しか出ず、土地がふかふかになる。
そんな事は半ば関係なかった。
今回俺がここにいるのは、ベルに呼び出されたからだった。
2039年、10月31日の事である。
「......久しぶり、イア」
「ああ、久しぶりだな、ベル」
「案外軽いんだね」
「まあ、グロウがお前を復活させてくれたって聞いて、すごくうれしかったぞ」
「...そっか」
微笑むベル。
何故か、その顔は俺の頭から離れなくなった。
「...イア。私の事、怒ってないの?」
そう聞くベル。
まあ、答えは一つしかない。
「...生きてるのに、俺に何も伝えないで」
「...え?」
多少ビビっているようだが、俺の今までのベルへの悲しみは、その程度では収まらない。
「俺に、今まで無駄な手間をかけさせやがって」
「い、イア、ちょっと!?」
「俺の手間と時間と悲しみを返せ――――――っっっ‼‼‼」
その俺の怒りの咆哮は、一時ベルを卒倒させ、周りにいた犬が驚いていなくなり(俺は犬に好かれているのかすぐ戻ってきた)、周りにいたプレイヤーが驚いて俺の方を見ていた。
―――
「......いう事は?」
「ゴメンナサイ」
「よろしい、これ以上は俺に迷惑をかけないな?」
「...いや、いっぱいかける」
「なんでだよ」
「だって...」
「...戻ってきてよ、イア。
イアが居ないと、私おかしくなりそう」
俺は、その言葉に発狂しそうだった。
お前のせいで俺はおかしくなってたんだぞ!と言いたい心があった。
だが、どうにか堪え、俺は言う。
「...お前のせいで、俺は苦しんだ。それは分かってるだろうな?」
「...うん」
ベルがしょんぼりしている。これはまずい。
「...だから、お前が望む形にはしない」
「そんな...。」
「だが」
俺は、いつこんなに素直じゃなくなったのだろう、と思いつつも俺は言う。
「...お前が望むなら、仕方ないから戻ってやらんこともないぞ」
「...イア......!」
ベルは、感極まっているようだ。
「......イア―――ッ!」
「おい!?」
ベルは、俺の身体に腕を回してきた。
この勢いだったら、何をされるかわかったもんじゃない。
だから、何とか逃げようとあがいたのだが―――
「―――!?」
ベルは更に身体を強く抱きしめ、俺は動けなくなった。
そして、ベルは―――
「―――っ‼‼」
「...ふふ、私がこんなことしないとでも思ったのかな?」
突然、キスをしてきた。
「...いや、なんとなくそうかもしれないとは思ったが...。」
「えへへ、私ね、なんで今日にしたか分かる?」
そして、俺は日付の行事を考える。
すると、どう考えてもこれしかないと言うのが一つだけあった。
「...ハロウィーン、か?」
「そうだよ。なんでそうしたかは簡単、お菓子をくれなかったから、悪戯だよっ!」
「...悪戯にしては酷いだろ。俺は帰るぞ」
「...許せるとでも?」
「私の初めてのだから、ね?」
その笑顔には、なぜかどこまでも冷たい空気を纏ってるように見えた。
「あ、ああ...。わ、分かったぞ......。」
「へへ、有り難う!」
その顔には有無を言わせぬ力があったのを言いたかったが、言っても無駄になっただろう。
そう思ってしまった。