苦渋の決断
前回同様、前半はベル視点ですが、中盤からはイア視点に戻ります。
「ハア...。」
「大丈夫ですか、ベル副団長?」
「大丈夫に見えるの?」
「まあ、大丈夫でしょう。副団長は強いですから」
そう言ってくれる男―――いや、男に見える女の子なのだが、私は続ける。
「そうかな、ヴァイテル君?」
そういうと、私にヴァイテルと呼ばれたプレイヤーは言う。
「はい。大丈夫ですよ、副団長。
―――さしずめ、イア元団長の事でしょう?」
「...うん」
私は、昨日アリスに言われてイアと仲直りに行くことになった―――けど...。
「...今更あっても、きっとイアは私の事なんて忘れてるか、私に罪悪感を持ってるし...。」
そういうと、ヴァイテル君もアリスと同じ様に立ち上がったために、また叩かれるのかと思ったけど、ヴァイテル君は深呼吸して、吐いただけだった。
「......仕方ないですね。
それは、言わなかった副団長も悪いですし、接触が無かったイアさんも悪いです。
それなら、私が会う機会を作るので、それで会わない、もしくは会えない場合はアリスの再加入は無かったことになります」
やはり、ヴァイテル君も厳しい。
「......でも、私なんて今更あっても...。」
「今更、じゃありません!
今会わなければ、貴女はもっと拗れて会うことになりますよ!」
「でも...。」
「いいから、強制敢行、ですっ‼」
私は、仕方なくイアに記録結晶を飛ばすのだった。
―――
「...グレアさんか。
今日も釣りしてるのか?」
「そういうお前はたまに最前線に行っては、昔に囚われたまま進まないのだろう?」
「グレア、あまりいじめてやるな。コイツはな、最近生きてるってことを知ったんだ」
「...そうなんだよ。
アイツが生きてるなんて、信じられないんだが...。」
「私は信じていたぞ」
「なんでだ?」
「兄上が復活させたからな」
「何!?」
俺は、ⅩⅩⅩⅣ層にある湖で釣りをしていた。
プレイヤーホームが近いからなのだが、最近はグロウ、グレア兄妹も見るようになった。
山の上にある豪邸が、二人の家なのだろう。
そんな時に、俺はこんな話を聞いてしまった。
グロウを問い詰める事しかないだろう。
「...本当か?」
そういうと、彼はさも当たり前だというふうに首を縦に振った。
「なぜ今までいわなかった?」
「言ったとしても、お前は聞き入れなかっただろうさ」
確かに、グロウの言うことも一理ある。
実際、ダグラスに生きていることを知らされていなければ、それを俺のための気休めだと思って信じなかっただろう。
だから俺は認めることにした。
「...そうだな。確かに、あの段階だったら信じる事は無かっただろう。
だが、言ってくれる優しさと言うのがあるだろ!」
「そんなん言ったところで、お前がちょっと前みたいにふらふらになるだけだろ?」
「ぐっ、まあそうかもしれないが...。」
「それに」
グロウは妹を指さす。
「...こいつがいたから、教えるのも面倒臭くてな」
「私が重荷だと言うのか!?」
「違うのかよ!」
「まあ、そうだが...。
それにしても、言い方は酷いと思うぞ‼」
「二人とも、魚が逃げるから静かにしろ」
「「...ああ」」
結局魚は逃げていた。
それを二人のせいにしたため、俺は悪くないだろう。
《ピロン 釣りスキルの熟練度がコンプリートされました》
―――
《ピロン 宛先不明 より記録結晶が届きました》
そのアナウンスに、俺は頭を傾げていた。
誰から来たのだろう。
迷惑電話―――ならぬ迷惑アイテムかなんかだろうか。
【......ゴメンね、イア。
私が何も伝えなかったせいで、心配かけちゃったかな?
...こんな軽いノリで会えないなー、って思ってこれをイアに出したの。
今月の最終日に、ⅩⅬⅧ層で待ってるから。
最後に...】
「...最後に、何だよ」
俺は、苦笑していた。
胸の内に秘めていた物など、もうなかった。
ただ、正直、一言だけ叫びたかった。
「......なんでアイツ俺に何も伝えなかったんだよ――――――ッッ‼‼‼」
ただ、その一言を、悲しみと共に内から吐き出したかった。