『鉄楼団』の一幕
今回の主人公はイアではなく、ベルです。
私は、昔一度死んでいる。
Ⅴ層で、大好きな二人が死にかけて、それを助けようとして逆にやられたのが原因だった。
その時、私は(残念だな...。)と思いながら消えるのを待った。
...でも、私の意識はⅤ層の空間に取り残された。
これが、昔に聞いた小説のような死に方だったら、もう私は此処には存在していないのだろう。
そして、二人が私の敵討ちに燃えて、何とか斧を持った山羊の顔を倒した時に、ほかの人たちが来た。
きっと、扉は開かなかったんだと思った。
そして、もう誰も見えないまま、私は消えてくんだ、と思ったときに、一人の男の人の顔が見えた。
彼は笑顔を浮かべていたけど、それは空元気だと何となくわかった。
...その後、私に《復活行為を行いますか?※行うとレベルが12低下します
《Yes 《No 》と言う画面が表示された。
私は、それにすがった。
―――そうして、私は此処に生きている。
あれから、なんだかんだで9ヶ月が経った。
最前線はⅬⅩⅤ層まで進み、団員も増えた。
...でも、黎明期のような向上意識はそこには無かった。
きっと、彼等は安全を求めて、大きなギルドであるここに入ってきたのだろう。
でも、彼らが思うような安全は存在しても、昔のように大きくなるのではなく、少しづつ内部からこのギルドが腐っていっているように見えた。
私は悲しかった。
だから、私はある人を呼び戻すことにした。
―――
「......ベル!?なんで貴女が―――」
「細かい話はあと!ちょっと話を聞いてくれない?」
「......うん。貴女が生きててよかった」
私は、アリスの許に来ていた。
アリスは、私の少ないフレンドだ。
...本当は、もう一人いたけど、私が生きてるってことを知ったら罪悪感でつぶれてしまうと思って、フレンド登録を消している。
「......で、何?『鉄十字騎士団』―――今は『鉄楼団』って名乗ってるんだっけ?
それの立て直しなら協力させてもらうけど」
それを聞いて、ひそかに私は悦んだ。
きっと、アリスは鋭いんだろう。
そう考えて、私は続けた。
「...うん。そうだよ。
今のあそこは腐ってて、保身的な連中ばっかり。今攻略組としているのは、昔の『鉄十字騎士団』時代にいた人たちか、『歌狼』の連中だけだよ」
それを聞くと、アリスは驚いたような顔をしていた。
「そうなの!?最近グロウの周りに誰もいないって思ってたけど...。」
その発言で、案外アリスって抜けてる子なんじゃないかとおもえてしまった。
「うん。あいつはイアみたいに団長をやめたよ。そっちの方が金も集まるしね。
...そういえば、どっかの層でグレアと一緒に館に住んでるって噂だけど」
「...そういえば、グレアさんもたまに見るよね。グロウさんが良く許したこと...。」
私は、やっぱり彼女が抜けていると確信した。
「......横にグロウがいるのを忘れたの?
グレアはね、グロウの監視の下でやってるんだよ。まあ、その代わり、いけるのは最前線のⅤ層前位までだけど」
「結構許されてるんだね。......あ⁉そうだ、なんでイアには伝えないの?」
そういったアリスは、少しだけ怒ってるようにも見えた。
「......だって、イアに伝えたら罪悪感に押しつぶされるんじゃないかって...。」
そういうと、アリスは立ち上がって私の頬を張った。
「...アリス?」
私が聞くと、アリスは多少怒りをにじませて言った。
「...ベル。
それは、貴女が彼から逃げてるだけでしょ?」
「.........!」
何故か、胸に刺さった。
それは、きっと私がその通りだ、とわかっているからなのだろう。
「イアはね、もう軽く壊れてるの。
だから、一人で誰とも関わらずに、ソロで活動を続けてる。
―――あなたみたいに、また仲良くなったらその人が居なくなるって思ってるからだよ?」
その言葉に、私は何も返せなかった。
そんな重い空気を断ち切るように、彼女は言った。
「―――でも、うん。
団には戻ろうと思うよ」
「ほ、本当!?」
でも、それだけで飲む様な優しいアリスじゃなかった。
「...でも、その代わりに。
―――あなたがイアと仲直りしたら、だよ。
あなたがイアから逃げたり、イアがあなたを拒絶したのなら、私は団に戻らない。
それでいいなら、私は戻るよ」
そう伝えたアリスの目には、私の行動を促す光が存在していた。




