鋼の鍛錬師、ダグラス(もともとはハロウィーン企画だったお話)
今回は3人称視点となっております。
ⅬⅠ層にある<D's Shop>(イア命名)。
そこに、今日も客―――もとい、常連さんが来ていた。
イア。
鎖頭巾と布のフードを被った男であり、フードの耳がとがっていること、そして常に一人でいることから孤独なオオカミ、『孤狼』と呼ばれていた。
この店の店主、ダグラスは彼を昔から知っていた。
なぜなら、イアを始めてみたのが彼だったからである。
そんなイアだが、今日は珍しく女子を連れていた。
彼に縁がある女子と言えば、アリスと、―――。
そんな事を知っているからこそ、彼は困惑した。
「よう、旦那。
...その嬢ちゃんは何だい?」
そういうと、旦那と呼ばれたイアは苦笑する。
「ああ、ちょっとコイツを預かっててほしい」
ダグラスは目を丸くした。
「珍しいな、旦那が置いてくなんて。
...分かった。コイツに鍛冶をやらせるんだな?」
そういうと、イアはまたしても苦笑した。
「相変わらず、俺の心は読まれるんだな」
その男は、店主であるダグラス以外にも同じことをされていたらしい。
だが―――
彼等に言わせてみれば、イアは考え事をしているときにすぐ顔に出てしまう。
そのため、理解できるのだ。
「―――ってことだ、旦那」
「そうか。
...いつも俺の代わりに参加してくれて助かる」
イアがそう言うと、かつて―――いや、今も時々最前線にて活躍している斧使い兼鍛冶師は苦笑する。
「いや、最近はたまに攻略にも顔出してるのは知ってるだろ?」
「まあ、最近はよくお前を見るな」
「それはな、気分転換もあるが昔を忘れねえためでもあんだよ」
「......。」
「旦那みてえにな」
「...余計だ」
最後の言葉でダグラスに殺意を一瞬膨れ上がらせると、何事もなかったかのように彼は続ける。
「...明後日、15時、ⅬⅣ層守護塔、か。
......意外だな。もう少し遅くなると思ってたんだが」
「俺も同感だ。だが―――」
途中で言葉を切ったダグラスに、イアは少しだけイラついたような声をにじませる。
「......なんだ?
まさか、俺達が作ったギルドを疑ってるんじゃないだろうな?」
再び殺意をダグラスに向けるコイフの男。
それに、ダグラスははぐらかすのは無駄だと感じたのか、正直に話し出す。
「いいや、疑ってるんじゃなくてな、本当にあんたのギルドの奴の独断なんだよ」
「...誰だ?団規に逆らった奴は―――」
「ベル」
「死―――............。」
言葉を止めてしまったイアに、グテルと言う新鍛冶見習いを置いてけぼりにしたままダグラスは続ける。
「俺もな、生きてるとは思ってなかったんだよ。
たまに見たのは、俺の幻覚だろうと思って、俺も今まで確信が無かったから言ってこなかった。
旦那もだろ?」
そんなダグラスの言葉に、イアは立ち尽くしていた。
彼は、彼女の最期を知っている。
自らともう一人の少女が独断で動いた結果、それを助けに来た彼女が双山羊頭の悪魔の持つ斧に潰されて消えたのだ。
―――もっとも、彼があそこで消えずにずっといたら、もしくは、会議に毎回出席していたのならば。
彼女が、グロウの手によって復活させられていたと知っていただろう。
だが、グロウは現在の彼にとってはかつての友であり、たまに会うソロ仲間だった。
「...生きているわけがない。
大体、アイツは死亡エフェクトの、アバターの消滅があったんだぞ?生きているはずが―――」
そこへ、再びダグラスが割り込んだ。
「だから、生きてるんだよ!
...何なら、俺が今度ⅬⅩⅢ層位に拠点を建てるように言うから、そん時に見に行けばいいと思うぜ?」
話が飛躍し過ぎだ、とグテルは思ったが、分からないことだったために何も言っていなかった。
「......分かった。
今度、訪ねてみる」
イアは、それだけ言い残してふらふらと帰っていった。
その姿は、まるで幽鬼のようだったと言う。




