真章PART15『崩壊のスケアクロウ』
【...君たちは誰かな?
僕は自分の姿を信じたくないんだけど】
「ッ!?」
【...僕の事を知ってるのかな?じゃあさ、なんで僕がここにいるのか教えてくれないかな?】
そこにいたのは―――聖霊王としての一面も持ちながら、本当に王族と言う少女(に見えながらも実際は6000年以上生きている妖怪のような物)のシグレだった。
「なんでお前がここにいるんだよ!?」
【...その声、イヴェンシアかな?
僕にだって分からない事には答えようがないからね、分からないて言っておこうかな】
そこでいったん声を区切ると、少しだけ向きを変えてこう切り出してくる。
【...僕はどうでもいいんだけど、ユキちゃんは大好きなイヴェンシア君に勝利と愛の告白を捧げたいのかな?】
「...!?」
『...ッ!』
少女もどきの柔らかな顔には、してやったりと言う子供らしい感情が見え隠れしていた。
―――
何とか皆の殺意の目線を鎮めてもらうと、俺はシグレに言う。
「...さっさと死んでくれないか?」
【え!?ひ、酷いよ、イヴェンシアぁぁ...!】
...伝え方がまずかったかもしれない。
そう思ったが、今までのコイツの行動を振り返ると―――死んでもいいと思えるような場面がいくつかあった。
「...むう」
「...そう言って俺の腕に爪を立てるのはやめてくれ、由紀」
「だって―――」
「だってじゃない」
「......」
「...無言はやめてくれ」
それに対する由紀は、俺に爪を立てることでシグレに対する嫉妬の火を燃やしていた。
...俺だけ、割に合わないのだが。
―――
【...じゃあ、僕はこの世界においては悪い奴だってことかな?】
「そうなるな。さっさと消えろ」
【酷ッ!?ま、まあ、そういわれるのも分からなくはないけど...。】
「そうか。さっさと消えろ」
【...それしか喋れないの...?】
「そうかもな。サヨナラだ」
【え!?サヨナラってなに―――】
話している間にその首を刈り取る。
本来ならこれでも余裕で復活しているのだろうが、この世界では一撃で死亡する。
...かくして、ⅭⅩⅬⅠⅤ層の戦闘は幕を閉じる。
―――つまりは、この世界でのすべての戦闘が終了したと同義だ。
―――
【...いやはや、何と言うかすぐに終わったものだな】
何処からか、そのような声が聞こえる。
...いや、俺達はそれが誰かは分かるのだが。
『...あのフード野郎か?』
『ああ、そうかもしれないな。...なんなんだ?』
―――と、そのフード、という言葉を聞きとがめた俺達はそちらを見る。
そこには、黄土色の外套を着た老人のような物が立っていた。
―――
なんだこりゃ、と思う間もなく、その老人は言葉を紡ぎ始める。
【...あれから12年が経った。
現実世界準拠だと、4秒...と言いたいところだが、この層の時間のみは現実と同化させてもらっているからな。2週間程度だろうか、経ったのは】
俺達が言葉を挟む暇もなく、斉太―――いや、恐らく桜地 斉太をイメージさせようとして作られたそのアバターは言葉を放ち続ける。
【これより、この<Scarecrow>は崩壊する。その際、この世界の崩壊を眺めていただいてからいったん現実に戻ってもらう事にするから、楽しみに待つように】
それが地獄の拷問だという事は、誰にしても明らかだったが。




