Ⅰ層攻略、暁の瞬き
「...さて、と。
やっとここまでたどり着いたね。
みんなの平均レベルは14、本当ならまだlv,5くらいで来るところだから死ぬ事は無いだろうけど、念には念を入れて挑んでくれ。
―――俺達はきっと、いや絶対死なないし死ねない。
...かつぞ!」
その声に、皆は素直に受け取るか「恋人のためだろ!」とヤジを飛ばすか、だった。
まあ、俺達はその間に扉の目の前までそそくさと移動しているのだが。
Ⅰ層守護塔、最上階。
俺達は、攻略会議から約半日でここに着いていた。
俺が24階からたった一時間で<グランリッヒ>まで到着したのが異常だとよく分かるペースだ。
「じゃあ、入ろ―――ちょっと!入るのが早いぞ―――!?」
そんなことなど気にせず、「お前らの御託が長い所為だろ!」とだけ返しつつ、俺達は走る。
アイツらの平均レベルは俺達よりも低い。
また、その分フード=アリスが遅れるものだと思ったのだが―――
「いやあ、君、早いねー。
AGIに殆ど振ってる私と同じくらいってことは、結構振ってるの?」
「...!?
―――あ、ああ。そうだぞ」
「そっか。じゃあ、高速戦闘スタイル?」
「いや、どっちかと言うとそれにプラスで攻撃力もあるぞ」
「そっか。じゃあ、頑張ろっ!」「あ、ああ…。」
どうやら、彼女はスピード重視だったらしく、俺に余裕で付いてきていた。
......スピードを落としている必要はないらしい。
「わあ!相当早いね!私もちょっと限界かも―――。」
「と言いながら付いてきてるだろ!まあ、俺も結構きついが...。」
そんな事を言っている間にも敵の影は近づく。
そのモンスターの目の前に着くと、多少驚いたような顔をした牛頭の人型モンスターがいた。
所謂、ミノタウロスだろう。
たしか、本物は地下の迷宮に封印されていたはずだが...。
そんな伝説など、この世界は知らないのだろう。
桜地 斉太の怠慢に感じた。
「おー、大きいね。
......17Ⅿ位?」
「かもな」
名前とフォントが調整され、体力バー3段が見えてきた頃、やっとほかのメンバーが到着した。
「...ちょっと急ぎ過ぎじゃないかい?」
「「俺(私)はそのくらいがちょうどいいから」」
「そうか。まあ、今回は不問にするよ」
「「有り難う」」
「......君たち、息ぴったりだね」
「「そんなことない!......あ」」
「諦めな」
「「そんな...。」」
「お前のせいだぞ!」
「何言ってるの!貴方が合わせるのがいけないんじゃない!」
そして、鼻息一つ顔を背けるアリス。
そんな事をやっていると、後ろから咆哮が聞こえた。
《 Minotaurs-asterios》。
やはり、アイツはミノタウロスだったみたいだ。
そう思いながら、戦闘は開始された。
―――
中々に奴は強敵だった。
範囲攻撃+スタン攻撃は見切れるようになってきたが、最後までタックルは見切れなかった。
だが、そんな奴も数には勝てず―――いま、奴は全体と向き合う形で、倒れていた。
「...仕方ないか。
誰がとどめを刺す?」
「じゃあ、私が」
「仕方ないなあ、我が妹よ」
今回、なんだかんだで頑張っていたのはこのグレアと言う槍使いだった。
「......と言うことだ。
譲っていいか?」
その声に皆は賛成した。
ただし、俺達だけは関わるのはいやだったから、ミノタウロスを見ていたのだが。
突然、奴はどこからか斧を取り出し、皆が集まっている方に振りかぶろうとしていた。
「グレア、後ろだ!」
「兄上、何を―――」
その瞬間、グレアの視線は真っ二つに裂け―――る寸前、グロウが防いでいた。
ギャリギャリと、少しづつグロウが押されている。
グレアはようやく気付くと、グロウもろとも右に飛び出した。
だが、無傷な筈がなく―――
「......助かった、兄上」
「なんの、妹のためなら死んでみせるさ。
......誰か、回復ポーション持ってる奴は?」
そういうと、皆はその手にポーションを出した。
そして、彼女の無くなった右半身にかけると、何とか彼女は肉体を取り戻し、またHPも全快したようだった。
「......助かった。
では、次は―――」
再び、斧が投擲された。それも、5本同時に、だ。
1本は俺達の所へ、残りは―――またしても、集団の所だ。
今度は全員が回避し、勢いで俺達がとどめを刺した。
「...すまない、グレアさん。
俺のせいで最後に攻撃できなかった」
「いや、いいのだ。
私があれ以上に攻撃をしようとしていたら、命がいくつあっても足りなかった。
...兄上、私は前線から退くことにしました」
「...なんでだ?」
軽く詰問口調なグロウに対し、グレアは平然と答える。
「私の力では、生き残ることは難しいと判断いたしました。
...許してくれ、兄上」
「...お前が生きてくれるならなんだってするさ。
......いつか、屋敷を買ってやるからな」
「それで兄上に死なれては困るな」「ははは、大丈夫だよ」
皆が、そうやって和んでいる間に、俺はアリスとのチームを解除した。
一応フレンドに残しておく理由は、いつか彼女にお世話になるかもしれないからだ。
それが、すぐそこに迫っていることなど知らず―――
レアドロップ品、《星夜のコート》を装備し、俺は人知れずつぶやく。
「......またな、攻略組。
グロウ、あんたとはまた縁がありそうだ」と。
その呟きの意味を理解したのは、アリスだけだった。