プロローグ 『終わりの始まり』+昏い場所にて
この小説は『少年の手記~異世界の出来事~』の後の、異世界組二人が記憶を失い時代設定はほとんど変わらず二人の年齢と置かれた状況が変化されている世界観の物語です。
また、二人の記憶の戻る話も執筆予定です。
『......このため、今作品におきましては、今までの様な致命的なバグは存在しません。
ー--グラフィックさんがしっかりと仕事をすればね。
...もちろん、ベータテスト時よりもモンスターは上方修正させていただきましたよ。
あれだけ殺されるとは思ってもいなかったのでね』
軽い笑いを持ちつつ、俺はテレビを消した。
そのタイミングで、「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ただいまー」という声が聞こえたため、俺は玄関の方に向かった。
俺、こと氷桜 威亜は最近ある悩みを抱えている。
妹の藍理栖に嫌われてしまったようなのだ。
特に変態的な行動をしたとかそういったわけではないのだが、なぜか最近は避けられるようになっていた。
妹が危ない目にあったら、危ない目に遭わせた奴は殺す!とまで意気込んでいる俺にとっては、3週間寝込むぐらいのショックだった。
ー--が、最近はすっかり慣れてしまい、去年の誕生日には俺が最近買ったある物を渡したため、俺達の仲は悪すぎるほどではない...のだが...。
「...お兄ちゃん、そんなふうになってるからお姉ちゃんに嫌われるんじゃないの?」
「そういうもんなのか、柚?」
「案外そういうもんだと思うよ」
「そうかあ...」
俺は、先程学校から帰ってきたもう一人の妹、柚依に事情を聴いてもらっていたが、案外辛辣だ。
正直に言えば、これが中一だとは信じたくないぐらいに。
「でも、そうだなあ。来月に始まる、何とかナイツ「ドゥームデイ・ナイツ」それナイツで一緒に遊べば仲は戻るんじゃないの?」
我ながら良い案だと思ったのか、気持ち鼻を伸ばしている柚依。
今回ばかしは柚依に軍配が上がるため、俺は黙らざるを得ない。
「...でも、ドゥームデイ・ナイツかあ。あと3週間で始まるなんて、信じたくねえなあ」
「なんで?」
「いやあ、また壊れるんじゃないかとな」
「ああ...」
新進気鋭のプログラマー・桜地 斉太。
毎回内容はいいのに何処か壊れているキャラが出たり、大きなバグが発見されてネタ扱いされている雪華社のプログラマーの名であり---Doomsday Knightsを作った人でもある。
夏休みと丸々被ったベータテスト期間では、500人がフルで一か月入りっぱなしだったのもあり、Ⅹ層も半ばまで攻略されていた。
ベータテスト終了後、Ⅰ層中央広場に集められた俺達は、『まったく、次はもっと強いボスにしておくから、せいぜい楽しみに待っていてくれ給え』と、最近テレビからも流れてくる彼の声によって、俺達はげんなりとさせられたのだった。
「そういえば、柚。お前はやんなくていいのか?」
そう聞くと、またもやドヤッ!と言う効果音が合いそうな顔をした後、
「おうおう、お兄ちゃんは私があそこのゲームが嫌いなことをお忘れで?」
と言った。
それだけ聞くと格好いいのだがー--
「......確か、ファインラストⅢでバグが出て、月光の珠とかいう必須アイテムを消されたから嫌いになったんだよな...」「うぐっ」
そう。
柚依はこの家の中ではおっちょこちょいな部類に入る。
藍理栖にもその気質はあるのだが、柚依は群を抜いてそれが強い。
一度は入学式なのに幼稚園に行こうとしたほどなのだ、先が思いやられる。
......のだが、最近はその気質が薄れてきたような気がする。
「...最近は柚がまともだよな...」
「...なんででしょうか」
「......好きな相手が出来た、とかか?」「...!?」
確実に柚依は動揺したのを見せたが、俺は優しいと自認しているので見逃してやる。
そして、自室に戻り、俺はスノウ・クラッシャーを見やる。
これも桜地 斉太が開発したヘッドギア型と呼ばれているヘルメットのような形の超高速脳波計測装置...とかいう、よくわからないものだが、要はこれを被っていれば現実で動かずにVRと呼ばれる仮想現実で動けるわけだ。
最初のうちはこのシステムが法律的にダメなんじゃないか、とか思い、独特なシステムに四苦八苦したりしたものだが、今では慣れ親しんだゲームハードである。
そして、俺は昏くなってきた外を見て、
「寒くなってきてほしいな...」
と、なぜかまだまだ暑い10月ならではの愚痴を付くのだった。
―――
「...私の世界も、もうすぐ始まる。始まるのならば、プレイヤー諸君はどう踊るのだろうか?
ー--楽しみだな」
「お父さん、それは流石に趣味悪いわ、私は知らないからね?」
「優、私は偽名を使っているのだ。私に罪はないさ」
「ああ、旧姓の桜地を使ってるんだっけ?でも、お父さんはどこまで言っても趣味と心は最悪だわ」
「厳しいな」
とある昏い場所にて、彼は娘である優と呼ばれた少女と会話をしていた。
優はその男に非常に厳しいが、口調は3年前に死んだ彼女の母・佑子の物な為、彼は少しうれしかった。
「...まあ、いいさ。私は優に何と呼ばれたとしても父親に変わりはないのだからな」
「私の戸籍を本来とは別の戸籍にしたお父さんが何を言うかと思えば、そんなつまらない事?」
「つまらないとはなんだ」
実は、その男は優の言うように戸籍を偽造しているのだが優はそれを良しとしてしまっているので、
此処にいる彼は桜地 斉太ではなく本当の父として偽の戸籍を持つ氷華 斉太なのだ。
そんな重い法律違反をした男がいるとは皆知らず、時間はDoomsday Knights事件まで進むのだった。