国防総省地域管理局冒険科~新婚の俺は妻に殺されるかもしれない~
なろうでは初めての投稿です。
誤字脱字が多い事で有名ですが、お手柔らかにお願いします。
評判が少しでも良ければ連載も考えていますので、評価の程をお願い致します。
国防総省地域管理局冒険科
~新婚の俺は妻に殺されるかもしれない~
「課長!結婚して早く家に帰りたくなるでしょ!」
「あ、ああ。そうだな。」
科の同僚などから囃し立てられる。
先週、俺は独身生活にピリオドを打った。
『35にもなってまだ結婚もしないの?!』
昔からの悪友に言われたのが切っ掛けとなったのか、女性を口説く事をした事がない俺は、お見合い相談所へと相談をしに行った。
国防総省地域管理局冒険科、課長。
年収は1000万近く貰っている。危険手当込みだがな。
冒険科とは、魔物を倒す事で得られる肉体強化され続けていく冒険家達を取り締まる国の機関だ。
すなわち国防に関する法改正で、警察よりも上位に位置する殺傷権限を持った違反者を取り締まる係。
国防総省地域管理局冒険科。
軍とは違う国内での違反する冒険家に対する科であった!
余り俺に説明をさせるな。恥ずかしい。
スパルタな親に空手道場へ連れていかれ、通うのは男子校!
喧嘩に負ければ勝つまで帰って来るなと叩きだされる毎日。
父の一族全員陸軍。母は空軍管制官。
勝って兜を締めるのではない!勝つために兜を締めろ!と物心がついた時から鍛えられた。
趣味は丸と言う雑誌を読んで国防に構える事。
女性士官のポスターで若い青春時代を乗り越えた戦士一家に育つ。
妹は短大調理科から海軍へ入り、管理栄養士として潜水艦の極秘任務に世界中を駆け巡っている。
そんな妹にも昨年結婚相手が見つかり、両家一堂に顔合わせがうちの実家で行われた。
そこも軍隊一家だった。
相手の漢は海兵隊で特殊任務に就いているらしい。
例え、家族だろうが、妻だろうが、極秘任務の詳しい話は出来ない事を全員分かってるだけに………
「職場は?」
「海兵隊で極秘任務に。」
「こいつと何処で知り合ったのか?」
「どこかの海で。」
「この男勝りの妹のどこが気に入ったのか?」
「水深300mからの緊急浮上で潜水艦がジャンプし、総員倒れている中、カレー鍋を守り切った姿を見た時、こいつしかいないと思いました!」
上出来な答えだ!
家族もウンウンと頷いていた。
身長は185ある俺よりも少し高く、腕は三周りはゴツイ!
だが、そう簡単に妹をくれてやる訳にはいかん。
「お前、妹を一生守れるのか?」
「サー!出来るであります!」
「じゃあ、俺と腕相撲するぞ。」
その瞬間、男はニヤッと一瞬だけ笑みを浮かべた。
一般人よりはデカいが、俺が務めるのは軍ではない。国防総省地域管理局冒険科と呼ばれる科だ。
そう、一応事務所内が俺の勤め先だった。
俺の勤める科を聞いていたんだろう。
漢はジャケットを脱ぎ、パツパツのワイシャツを捲っていく。太ももの様な腕を見せつけるように。
「遠慮しなくていい。思いっきりやってくれ。」
「いいのか?」
「ああ。」
俺のそこそこの腕を見てからマウントを取ってきやがる。
一応年上だぞ。
握手をすると思いっ切り握ってきやがった。
分厚い手の平が俺は危険だぜと言ってくるようだ。
だが、俺も負けてない。男に合わせてそれなりに握り返していく。
眉がピクピクしだした。 舐めるな。
畳の部屋で仰向けに寝転がり腕を組む二人。
「レーディ――― ゴゥ!」
一気に体重を掛けて腕をへし折らんばかりに猛獣の腕が押して来た!
「!! クソッ!」
「見た目だけで判断するなとか上司に言われなかったのか? なあ!」
一瞬で奴の腕を巻き込み畳に叩き突けた!
「そんなバカな!」
「俺をブルーカラーだと思うな。」
「だって兄さんは地域管理局冒険科の事務所………」
「俺はな、地域管理局冒険科の実務部隊長、キラーバッチを持ってる取り締まり官だ。ランク10位は持ってないと相手にはならんぞ。そこら辺の海兵隊が俺に勝てる訳がない。これじゃ妹の話は……………」
「反則だ! キラーネーム持ちに勝てる訳がない!」
「戦う相手が実務部隊だったら反則と言って戦う事を止めるのか?」
「それは……………」
「休みの日には俺の所に来るが良い。一月鍛えてやろう。それを乗り越えられたら認めてやる!」
「ミュラー!チャンスよ!兄に鍛えられるなんて!これであなたも部隊長に一歩近づいたのよ!」
「こんな化け物と訓練が出来るか!この話はやめだ!やめ!この家は狂ってる!」
漢はそう言って出て行ってしまった。
「すまんな妹よ。俺は見てくれだけの漢が許せなかった。」
「良いって、瞬兄ぃ。あんなに気合が入ってないとは思わなかったわ。股を開く前で良かった。サンキュー!」
そう言いながら俺の腕にキックを喰らわせてきた。
うん、腰が入った良いキックだ!
そして短いスカートがひらりと目の前で舞っていた。
「妹よ。嫁入り前のパンツは白が良いぞ。黒はまだ早い。」
「ええい!」
もう一発喰らってしまった。
アレは喜んでいるのか? うん、そうに違いない。兄は嬉しいぞ。
「次は修羅のような男を連れてこい。」
「後何人で結婚出来るかな……………」
「弱気になるな。お前の腕や足、体幹は素晴らしい。今から地域管理局冒険科に編入でも推薦してやれるぞ!」
「私は平凡な管理栄養士が良い!」
そう言いながら手刀を裏拳の様に放ってくる!
その手を巻き込み羽交い絞めで拘束した。
「うん、この尻も筋肉が付いて良い感じだ。俺の嫁には敵わんがな!はっはっは!」
「クソ!鍛え直してやる!覚えてろ瞬兄ぃ!」
ドタドタと部屋に戻ってしまった。
今度50kgのダンベルでも買ってやろう。筋肉がピキピキする感じがイヤな男も忘れられるだろう。
午後からの休みが無駄になってしまった。
だが、ここから家まで走って帰ろう!
愛する妻が待っているはずだ。
☆☆
昔から身体を動かす事が好きだった。
熱血漢溢れる柔道家だった為、私も幼い頃より柔道の道場に通っていた。
相手が倒れる、降参して行くのが楽しく、気が付けば県内に同じ女性の相手は居なくなっていた。
高校の部活で遠征した時、体育館の隣にあった公共ダンジョンから摘発されていく犯罪冒険家達を連行する実務部隊を偶然見ていた。
連行装甲車に乗せられる寸前、冒険家が暴れ出し、実務部隊の男の腕を折り逃げ出した!
武器はとうに没収されているようだが、素手でも強い!
映画を見ている様な気分で観戦していたが、もう一人の実務部隊の男を蹴り飛ばす!
そして離れて見ていた私の所に信じられないような速さで駆け寄って来た!
死ぬの?私。
一気にアドレナリンが溢れ出て、緊張を和らげる為に笑った。
バックを投げ捨て自然な形で迎え撃つ!
どうやって投げ飛ばそうかと思っていた!
噂に聞く冒険家の人外のパワーとスピード!
何処まで自分の技が効くのかが試して見たくなっていた!
トップスピードのまま後、数mまで来た時、突然上に変な体勢で飛び上がった!足を折り曲げ飛ぶ素振りも見せずに ぐにゃ っとした体勢で私を飛び越え背後に飛んで行く。
シャッ!
風だ!一陣の突風が私の横を通り抜けた!
その風の中にチラッと見えた迷彩服を来た男の顔と目が合った気がしていた。
身体全身に鳥肌が泡立つ!
強い漢の熱い気迫が通り過ぎ!ジャンプしたのではない、後ろから蹴り上げられた事を知ったのは、力が抜けて墜ちてきた男を爆発するような蹴りで背骨をへし折った時だった!
ボロクズと化した男の腰、そして変に折れ曲がった背骨。ピクリとも動かない身体。
人外の冒険家をオモチャのように倒す実務部隊の漢。
その男の中の漢が私に近寄って来た!
「大丈夫だったか?」
「は、はい!」
「すまん、血飛沫が飛んだようだ。これで顔を拭きなさい。」
迷彩柄のハンドタオルを渡された。何か良い香りがする!
「ありがとうございます!」
「気にするな、支給品だ。必要があれば女性隊員を呼ぶが。」
「大丈夫です!鍛えていますので!」
「頼もしい言葉だ。君のような者が冒険家に相応しいと思うぞ。これからの君の活躍を心から願っている。では、何か有ったらこの名刺の所に連絡を。」
迷彩服の上着の中に着ていたワイシャツから一枚の名刺を渡された。
何が書いているか何てどうでも良かった。この漢の顔から目が離せない!
初恋だった。
ズタボロになっている冒険家の腕をへし折り、髪の毛を握って引きずっていく!
「カッコいい……………」
この時私は冒険家になろうと決心した!この男の中の漢が言ってくれた通り…………………………
それから私は冒険家になる為の研修を受けた。夏休み一杯を使い、仮免許を交付され、高校を卒業と同時に正式な免許を交付される。
来る日も来る日も弱い魔物を倒して鍛錬を積む毎日。
私は頑張った!地味な討伐こそ意味がある事に!
平均総合戦闘力を1とする。
踏みつぶせば退治出来るスライムを倒しても上昇する経験値は僅か0.01%か0なる。
1×0.01%=1.0001しか総合力は上がらない。
ゲームみたいに魔物を倒していくと突然 “タララタッタラー”と、レベルアップする訳ではない。
平均総合戦闘力が1だとすると、ランク1になる。
それから強い魔物を倒して行くと相手に応じて一定の係数が掛けられていく。
普通のゴブリンでも1%しか上昇率はない。毎日一匹のゴブリンを倒しても一年で1,4程度にしかならない。
365匹倒してもだ。
人間の十数倍はあろうかと言うあの人はどれだけの魔物を倒したんだろうか?
今でもラミネートした名刺は私の宝物だった。
強い魔物を倒せば楽に上昇するが、危険も増えていく。
それに対応する為にチームを組んだり、凶悪な力を持つ魔物に対してレイドを組んだりしていた。
だけど私はソロの冒険家をしている。
良くチームに入らないか?と声を掛けてくれるが、いつも断っている。
だって私は特殊な癖と言うか体質があったから。
家族しか知らないこの体質のせいで、私は集団行動が苦手だ。少しの時間であれば全く問題はないのだが、一日中ともなると体質の我慢の限界が来てしまう。
少しづつ力を付けて奥へと進めだした頃、このダンジョンの中は私の天職だと思った!
自由に体質を曝け出しても問題ない!
近くに人間なんて殆ど居ない!
装甲を卒業して4年が過ぎる頃、私はそこそこの強さになっており、美人冒険家として(はずい)、この東京のダンジョンでは有名になっていた。
総合戦闘力は12を超えている。
年一回の採血データで判明するその年一年のランクは12になった。
スカウターや水晶やステータスと言ったゲームの世界ではない。
能力値を採血にて判明出来るのだ。
従ってスキル等も一切ない。
だが一応、得意技と言う冒険家協会に提出する項目はあった。
私の得意技は組み手。
ダンジョンでは刀を武器にしているが、弱いゴブリン辺りは首をへし折ったり、受け身の取れない投げで討伐したりしている。
銃でも殺せるのだが、上昇経験値として一切入らないし、銃弾を買うお金がもったいない事や所持する為の審査や国家試験が難しく、所持している人は殆どいないと言われている。
実際、私は見た事がなかった。
そんな私も4年が過ぎ、5年が過ぎ、26歳になろうとしていた頃だった。
ダンジョンの出入りを管理している協会の窓口に時々現れる国防総省の実務部隊の方々とも世間話をする間柄になっていた。
「美花ちゃんって誰か付き合ってる人っているの?」
実務部隊の下っ端である隊員が話し継いでに聞いて来た。
「いいえ、全くいませんけど。嫌味ですか?」
「いや、職員の中でも独身の男が多いんだ。今度集団でお見合いパーティーがあるんだけど、良かったら来てみない?」
私に国防総省地域管理局主催でのパーティーのパンフレットを渡して来た。
このまま独身って訳も行かないし、かといってナンパは嫌だし。このまま冒険家を続けるのなら理解力のある公務員でもいっかな?
軽い気持ちで行った集団お見合いパーティーには、私のあこがれの漢がいた!
誰とも付き合った事は無かったけど、このチャンスを逃さない!と決めて猛アタックしていく!
以外にも話が良く合い、そのストイックな過ごし方にも共感できた。
とんとん拍子に話が進み、3ヶ月後には結婚。
私は高校の時からの憧れであった漢と家族になった。
憧れの新婚初夜。
嬉し恥ずかしの夫婦の契りを行い、瞬はとても喜んでくれた。
お互いに初めての行為であり、これからワクワクした新婚生活が待っていた。
「もう、家族だから良いわよね。」
「え?」
ブッ!
新初夜の夫は気絶するように眠りに入った。
☆☆
愛する妻が待つマンションに帰宅した。
俺の仕事の時間に合わせてダンジョンから戻り、料理を作って待っていてくれる可愛い妻だ。
ビックリするような美貌とスタイル。
中坊の時であればサルのように青春の液体を迸り続けただろうこの女性と結婚生活は楽しかった。
「おかえりー!」 ブッ
「ああ、ただいま帰った。」
「妹さんの顔合わせはどうだった?」 ブッ
「アレはダメだ。見た目で判断しすぎているし、弱い!訓練の話をしたら思いっ切り断られてこの縁談が無かった事になってしまった。海兵隊も軟弱者が増えたな。」
「へー強そうなイメージはあるんだけどね。」 ブッ
「俺が入省時に特訓を受けた頃はまだ良かったがな。最近は駄目だ。」
「あなたが強すぎるのよ。」 ブッブッ
「少し窓を開けるな。」 ガララララ
「ごめんね!」
「気にするな俺達は夫婦だ。」
俺の危険濃度を簡単に超えて来た。
ダンジョンでは毒を持っている魔物もいる。
催眠や状態異常を放ってくる魔物もいる。
薬を使ってその毒や異常状態を何度も回復させていくと、それに対して耐性が付いて来る。
もちろん俺も、毒、催眠、混乱、石化、筋力弱体、速さ弱体、盲目。殆どの耐性を持っている。
その俺を本気を出した美花は一瞬で意識を狩り取って来る!
まだ鍛錬が足らん証拠だ!
徐々に愛する妻に慣れて行く事が直近の俺の訓練内容だ。
可愛くも綺麗な顔、誰もが振り返るボインなスタイル、俺の収入を突き抜けて来る収入に旨い料理!
愛し愛され、頼り頼られ、こんなにも楽しい新婚生活を送れるのだ!
もっと敵を倒して鍛えなければ!
☆☆
「速谷君!新宿ダンジョンへ急行してくれ!ダンジョントレインを仕掛けた奴がいるらしい!」
「は!部下二名を連れて行ってまいります!」
スーツの上着を脱ぎ、迷彩ジャケットを羽織った!科に配備されている6輪の冒険家護送車。通称棺桶車に乗り込み新宿を目指す。
ダンジョンの門は冒険家協会が管理している。
だが、その協会は国防総省地域管理局へ届け出を行わないといけなかった。
だから俺達は持っている入場カードを通すだけで入れる。
「通報を受けて来た。どんな感じだ?」
顔見知りの職員に声を掛ける。
男は俺達の顔と制服のダンジョン迷彩服の胸に輝く三本のカギ爪の痕がクロスされているマークを見て話し出した。
「朝からダンジョン内で二名の不審死が出ている。多くの魔物と争った痕があったんだが、それが浅い階層なんだ。
もちろん武器や所持品も無くなってる。上手いダンジョントレインの可能性が高い。」
「ふむ、では少し間を開けて探索しよう。」
俺のランクは88、部下はそれぞれ22と24だ。
「俺が先頭を行く。見えない位置で二人で着いてこい。銃と弾薬を確認して薬を分けて持つ。」
自分の持っていたリュックを部下に任せ、平均的に分けるように指示する。
銃はハンドガンだが、部下は45口径を隠し持ち、俺は50口径のデザートイーグルを胸のホルスターから出して点検する。
銃をダンジョン内で使用するのは、まず国防総省の職員が99%を占める。
やたらみだりに見せつけると相手に警戒される為、最後の最後でしか見せないように訓練されている。
俺も発砲どころか取り出す事など年に一回程度しかなかった。
「用意出来ました。」
リュックの中を自分で最終確認し、ダンジョン内部へと入って行く。一階層は初心者のチュートリアルに近い狩り場となっていて、スライムと僅かなゴブリンしか出てこない。
帯剣したまま現れるスライムを踏み潰し、ゴブリンを殴り倒していく。
「横道と後ろにも気を配れ!」
「「了解!」」
見えない位置から声が聞こえる。
ダンジョン内部は無線や携帯が一切使えない。
レーダーなんかも同じで有視界での情報が全てだ。
例え一階層であっても気は抜かない。稀にユニークと呼ばれる突然変種が現れる為だ。
通常の色違いの魔物は筋力、速さ、そして稀に魔法を使うモノが存在する。
耐火、耐水、耐電、皮膚強化を持っている俺でも魔法使いの魔物は強敵だ。人間で魔法を使う者など数十万人に一人と言われていた。
移動砲台と呼ばれる人間兵器が職員に欲しい所である。
だが、贅沢は言っていられない。
地域住民の安全を守り、平穏なダンジョンを使ってもらう為、俺は此処にいる!
俺の戦はこの場所なのだ!!
直ぐに二階層、そして三階層へと降りていく。
今日はやけに魔物が少ない気がする。
この新宿ダンジョンは中に入る冒険家も多く、リポップするまで余り時間も掛からないのだが、冒険家が狩りつくしたか?
その時、一人の冒険家とすれ違う。
「はあ はあ はあ、こんにちわ。」
「こんにちわ。」
通路ですれ違う冒険家は挨拶をする事を推奨されていた。
しかし、息が荒い。
俺より少し後ろまで来ると走り出していた!
「確保! 一人入ったぞ!」
リバーシブルのダンジョン迷彩服を裏側で着ていた為か、実務部隊と思わなかった妖しい男が逃げ出していた!
直ぐに前から激しい足音がやって来る!
「先手必勝!」
俺は前方に掛けだした!
後ろは任せても大丈夫だろう。
少し走るとそこには一人の人間が立っていた。
軽金属の胸当て、籠手、脛当てを装着し、右手には牛でも切れそうな大太刀を握っていた。
その顔は血飛沫が飛んでいて妖しい美しさを見せつけていた。
「あなた!」
「おお!美花か! 大丈夫か?」
「これ位のザコ集団!訳ない…わっ!」
迫ったゴブリンを纏めて二匹俵切りで斜めに切り裂く!
「流石はランク50。はっ! はっ! りゃあ!」
俺の分厚い西洋剣を振ってゴブリンどもを切っていく!
美花の使用する刀と違い切り口は生ぬるいが、耐久性と重さで叩き切る感じが手に伝わって来て爆裂する感じが気持ち良い。両手に付けたガントレットとの相性も抜群だ!
二人で50は居た魔物を処分し、お互い剣を一振りして納刀する。
「腕を上げたな美花。」
「瞬だって余裕あり捲りだったでしょ。三階層でチマチマやってられないわ。これから降りる所だったから後は貴方に任せたわ。」
ブッ ブッ ブ―― ブッ!
「わ、分かった任された!」
一瞬記憶が飛び、膝カックンしてしまう俺。
魔物の残骸を走り抜けていく妻の背中を焦点の合わない目で追っていく。
「隊長!捕縛しました! うぐっ!」
「なっ ぐはっ!」
「何で俺 うぎっ!」
部下とモンスタートレイン容疑者の三人が悶絶しながら倒れていく。
「精進が足らん。ま、俺もだがな。ふふふ、更に腕を上げたな。頼もしい妻よ。」
俺はどうやってこの状況を上に説明するか思案していた。
☆☆
「ええ!?転勤!?」
科に戻ってから腐った魔物が居たと言う虚偽の報告を纏め、室長へ問題なく報告書を提出した。
それから伝えられた事を家に帰ってから妻に伝える。
「『桜島で新しいダンジョンが出来た。冒険家が全国から集まって来る。そこで速谷君に現地で指揮を執って欲しい。』ってな具合で2週間後に鹿児島へ転勤だ。俺に付いて来てほし――」
「キャー!温泉よ温泉!白くまのかき氷に流しそうめんの本場!黒豚しゃぶしゃぶに桜島大根も食べてみたい! すぐに荷物を纏めるわね!あーワクワクするぅ!」
どうやら単身赴任は避けられたようだ。
妻も喜んでくれてありがたい限りだ。
ブッ ブッ ブ―――――― ブッブッ!
「くっ! くはあぁ!」
俺は薄れる意識の中、単身赴任の方が良かったんじゃないかと脳裏を横切った。
ああ、俺は妻に殺されるかもしれない」