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【公爵令嬢はどこへ(アルダタ視点)】/【不思議な人(アルダタ視点)】/【導く悪魔(アルダタ視点)】

アルファポリス様に投稿しております複数話を一話内にまとめて掲載しています。

話の区切りごとに、登場人物の視点が切り替わる場合がございます。あらかじめご了承ください。

【公爵令嬢はどこへ(アルダタ視点)】




 手紙を書き終わった。


 生まれてから一度も書いたことがなかったし、二通書いたのでとても時間がかかった。それでも、自分の伝えたい思いを形にすることができるのは、最初の文字を覚えたとき以上の喜びがあった。


 もし使用人たちがこの喜びを知ったら、皆、夢中になって手紙を書くだろうな、と思った。しかしそうなったら、誰がこの屋敷の掃除をするだろう。やはり使用人が文字を覚えることは、よくないことなのかもしれない。


 しばらく待っても帰ってくる様子がなかったので、私は部屋を出てマリルノ様を探しに行くことにした。てっきり手紙を書き終わるまでに帰ってくると思ったので、どこで待っているのかなどは聞いておかなかった。


 もしかするとペドロル様がお帰りになって、彼の部屋に二人でいるのだろうか。

 久しぶりに会うことができて、とても幸せそうに話されるマリルノ様。


 そんな彼女の姿を想像すると、胸が締め付けられるように痛んだ。そんな思いを抱く資格なんて、これっぽちもないのに。


 

「マリルノ様? ああそうだ。先ほどタラレッダさんが、三階のバルコニーに行かれるっておっしゃられていましたよ」

 使用人室にいた一人に聞くと、そんな答えが返ってきた。


 バルコニー? 一体何をしているんだろう。


「タラレッダさんったら、おかしいんですよ。何でも、マリルノ様に一緒にお茶会をしましょう、って誘われたっていうんです。使用人の私たちがそんなこと言われるなんて、冗談に決まっていますよね」

 ふふっ、とその子は嫌味なく笑った。


 いや、あのマリルノ様ならあり得るだろう。

 使用人の私に、自ら文字を教えてくださっているほどの方なのだから。


 しかし相手がタラレッダであるという点が心配だった。

 噂好きのあの使用人がマリルノ様からあれやこれや聞き出したら、すぐに屋敷中の人間がその話を知ることになるだろう。

 居場所を教えてくれた使用人に礼を言って、私は使用人室横の階段を駆け上がった。







【不思議な人(アルダタ視点)】





 三階のバルコニーが近づくと、廊下にいながらにして大きな笑い声が聞こえてきた。

 タラレッダだ。

 しかし使用人相手ならいざ知らず、マリルノ様の前であんなにも大きな声で笑うだろうか。


 タラレッダは周りの使用人に対していつも、主の前で無駄口をきいたり、不用意に笑ってはいけないと口を酸っぱくして言っている。もちろん本人自身も、それを厳しく守っているのだ。


 そんな彼女が、客人の前であんなにも大きな笑い声を……


 バルコニーに入って驚いた。笑っていたのは、本当にタラレッダだった。


 そしてタラレッダの声にかき消されてはいたが、正面ではマリルノも、同じように笑っていた。

 まるで身分の差なんてない、親子か、あるいは友人同士であるみたいに。


 しかし私に気が付くと、タラレッダははっと口をつぐみ、俯いた。私に咎められるとは思っていないだろうけれど、自分が今まで下の使用人たちに対して主に対するわきまえ方を厳しく教育してきた分、ばつが悪いのだろう。


 私には今、そんなことはどうでもよいのだが。とにかく、タラレッダが余計なことを聞きだしていないか、それだけが心配だった。


「ごめんなさい、アルダタさん。ついタラレッダさんとの話が弾んでしまって……」

「構いません。こちらこそお待たせしました」

「……そうでした! お任せしていた作業がありましたね」


 作業? と私は首を捻りかけたが、マリルノ様の表情を見て気が付き、「そうです。大変お待たせしました」と胸に手を当てて、頭を下げた。


 どうやらマリルノ様は、タラレッダに家庭教師のことを話していないようだ。タラレッダの口車にのせられて、うっかり話してしまっているのではないかと心の中で疑ったことを申し訳ないと思った。


「では、私はこれで」とタラレッダがティーカップと空いた皿を盆にのせて立ち上がった。


 ティーカップは二つあったし、タラレッダの顎のあたりにクッキーらしきもののカスがついていた。どうやら二人でお茶会をしていたのは事実のようだ。


 懐の広いマリルノ様がそれを許容するのは想像に難くなりけれど、タラレッダがその話にのって、あんなにもリラックスして話していたのには驚かされた。

 他の客人では、きっとこうはいかなかっただろう。気まぐれに誘ったところで、タラレッダは厳格な性格上、丁重に断ったはずだ。


 やはりこのお方には不思議なところがある。

「行きましょうか」と私に向かって言うマリルノ様を見ながら、私は心の中でそう考えた。





 


【導く悪魔(アルダタ視点)】




図書室に戻ると、私はしっかりと扉を閉じて、二つの手紙を胸ポケットから取り出した。


「時間がかかってしまい申し訳ありません」

「いえいえ! 二つも書かれたのですか?」

「ええ、まあ」

「素晴らしいです」


 マリルノ様は目を輝かせた。私は直視することができず、そっと視線を外した。

「では、今日の授業はこれでおしまいでよろしいですか」


「あっ、そうですね。はい」

 マリルノ様に、何か言いたげに俯いた。

「その手紙って、実際にどなたかに宛てられたもの……ですよね?」


「はい」

 私は首を傾げた。

「それがどうかしましたか」


「いや……そういえば手紙を書いてもらうっていうことは考えてきたのですが、そのあと家庭教師として、アルダタさんの文章を添削することを考えていなかったなって。

 ほら、書かれたときにもアルダタさんおっしゃられていましたけれど、基本的に、手紙は書いた人とそれを受け取った人の二人だけが見てよいものですから……」


 これは運命なのだろうか。そちらへ進めと神から言われているかのように、タイミング良く道が現れる。あるいは私の背中を教えているのは、神などではなく、悪魔なのだろうか。


 しかしどちらにせよ、進む以外、私にできることはない。


 片方の手紙を、マリルノ様に差し出した。

「見てもよいのですか?」

「ぜひ読んでください。こちらの手紙は、マリルノ様……貴方様に宛てて書いた手紙ですから」

最後までお読みいただいて誠にありがとうございました。


アルファポリスにて最新話まで配信している作品です。

小説家になろうにおいては、まだ投稿頻度を定めておりませんが、順次アップロードいたします。


どうぞよろしくお願いします。

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