トリックオアトリート。キスしてくれなきゃ、先輩に悪戯しちゃいますよ?
ソファーに寝転び、スマホを弄りながら垂れ流しに耳から流れ込んでくるのはテレビの音声。
日本の一大イベントと言えば節分やバレンタイン。
それからクリスマスやハロウィンがすぐに口から出てくる言葉だろう。
俺が向かい合っている画面よりも数倍大きいスクリーンは映像が変わり、賑わった渋谷の風景が映し出された。
「今年の仮装パーティーも盛況なことで」
テレビの画面を埋め尽くすのは、国民的アニメからカボチャのお化けなど多様性豊かな生物達。
俺には関係ない、と視線を手元へ戻す。
あんなのは陽キャで友達と馴れ合うのが好きな人種の集まりであり、ネットが友な者にとっては遠い世界。
と、頭の片隅で思い込んでいると突然視界が暗闇に奪われる。
「トリックオアトリートっ。キスしてくれなきゃ、先輩に悪戯しちゃいますっ」
耳から吐息と一緒に聞こえてきたのは女性の呟き。
若くも可愛らしく、そしてあざとさのある声といったら俺の知る中で一人しか見当たらない。
覆っていた手を目から退かし、振り向く。
「やっぱりお前か……」
「先輩は相変わらずノリが悪いですよー……で、私の姿を伺って何か掛ける言葉はありますよね?」
「あー、可愛い可愛い。特に魔女のようなその格好が」
普段は学校でしか顔を合わせないため、制服姿で無い彼女は新鮮である。
巻かれたとんがり帽子に、魔法を使うかのような紫色のローブ、右手には百均で買ったようなほうきが。
「そのあからさまに感情の無いトーンで言われると地味に傷つくんですよー。ほら、もっと心を込めて!」
「可愛い可愛い。それより、この家にはどうやって侵入したんだ? 戸締りはしていたはずだが」
「この世には合鍵という存在があるんですよぉ? まぁ先輩のカバンからこっそり拝借しただけなんですけど」
「いつからか失くしたと思っていたんだが……意外にも窃盗犯は近くにいたもんだな」
後輩と会話は交わすも視線はなおもスマホの画面に注がれる。
心の中での照れを隠すように、そしてその服装を直視しないように。
元から体型が整った彼女の仮装は誰が見ても似合い過ぎている。
更には男子の目に注視されるような胸房は、どうしても目線が惹きつけられるのだ。
ほら、今もチラ見していたのを分かっていたかの如く悪い笑みを浮かべている。
「先輩ー、私のどこを見てたんですかぁ? あ、顔が真っ赤に染まって可愛いですよっ」
「……るさい、不法侵入したんだからそれぐらいはこちらも粗相に入らないだろ?」
そうですねー、とソファーの蓋に手を置き上から眺める形をとる彼女。
スマホの画面越しに目が合うと、ふふっと笑い掛けてくる。
「それで、今日は何の御用でございますか。可愛い可愛い後輩さん」
「だからー、最初に言ったじゃないですか。キスをしたくなきゃ悪戯するぞって」
「世の中には冗談っていう言葉があるのは知っているか? それに俺はそんなことをする気も無い」
「こんなに絶世の美女が居るのにですかぁ? 先輩も罪な男ですねー」
「はぁ、用がないならさっさと帰って――」
俺が言葉を言いかけた直後、バタンッ、とカーペットに頭をぶつけた。
突然その状況になった理由は単純。
後輩が背後から抱きついてきたのである。
当然俺の上に彼女が乗っかる形になるため、早く脱しようと手を動かすが、それをふわふわとした感触に拒まれた。
「な、なぁ……重いから退いてくれないか」
「っ! 重くなんかないですよぉー。それよりも、先輩……そ、その手なんとかなりませんか……?」
「いや、しようにも柔らかい物が邪魔でな……これは一体なんだ? お腹か?」
「しっ、失礼な! 私はお腹まで膨らんでませんッ。それより……本当に早くして下さい。少し、まずいです」
顔と顔の距離が近いため、恥じらわせたように頬を紅潮させる後輩の姿が見れて捉えた。
彼女の言う通りに動かすも、やはり抜け出すことが出来ない腕。
なのだが、俺が上下左右に移動させる度に何か色っぽい吐息が聞こえてくるのはなんだろうか。
「せ、先輩……私。もうダメです」
「ちょ、ちょちょっ。どっ、どうした」
咄嗟のことだったので、素っ頓狂な声色で叫んでしまった。
なぜなら、後輩の顔がだんだんと俺の唇に向かってきていたからだ。
「気分が……んっ。もう、我慢できま……せん」
「って、まさかこの感触は……」
マシュマロのような膨らみの中心部分に手が当たると、突然として棒のような物に接触した。
流石の俺もここまで来るとその正体が分からぬはずもない。
彼女の言動に状態にも説明が付く。
「これは胸……だよ、な。ご、ごめんな」
「……」
謝罪の弁を述べながらも、必死に手を躍らせ滑らせ光を求めて走らせるが、更に後輩の状態が悪化するだけだった。
そうして、少し怒りと高揚を交えた感情を視線に込めてくる彼女の圧は最高まで上昇したらしい。
色っぽい叫びをしたかと思うと、更に顔を近づけて自らの唇を俺の口に合わせるよう当てた。
後輩の潤い小柄な紅に、自身のカサカサとした感触が、じんわりと伝わっていく。
「先輩……止めてくれないと、私はこの先もしちゃいます、よ?」
「……好きにしてくれ。俺は抵抗しようがないさ」
口付けを離すと、甘く濃厚な液が引く。
彼女の表情は幸せをにじみだすよう笑みが溢れている。
「そうじゃありま、せん。私の気持ちを受け止めてくれるか……です」
「……」
俺はゆっくりと瞳をフェイドアウトさせる。
これはその答えの印。
大好きです、と彼女は小さく呟いたあと全てを身を任せるがままに動き、そして愛を確かめ合った。
「可愛らしい先輩がずっと大好きでした。私の想いが伝わって天国にいる気分ですっ」
そう笑みを浮かべる彼女の姿は、今も瞳の奥にしまってある。
ハロウィンは皆様いかがお過ごしでしょうか?
私は変わらず自宅でスマホと向き合っています……。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。
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