序章1:理由は例えば使用キャラの削除(リストラ)。
三十歳になって初めて迎えた夏。
私は大好きだった格ゲーを辞めてしまった。
理由は単純で気持ちは複雑。私の遊んでいたゲームはパッケージごと更新され、名前だけを引き継いだまったく新しいゲームに変わってしまったように感じたからだ。後はその他もろもろ。
「そのうちシグマも参戦してくれるって。家庭版でいうところの有料の追加ダウンロードコンテンツとかでさぁ」
大型アップデートに伴う使用キャラクターの削除。何よりも悲しかった。そのせいでゲームを辞めてしまう人だっているのだ。私もその一員に片足以上突っ込んで引きずり込まれつつある。
「いいですよね、凛さんは。アプス使いなら削除される心配とは一生無縁ですし」
シグマは私が操作していたキャラクター。シェパードのような茶色い犬頭を持った細身の男キャラ。きりりとした寡黙で礼儀正しい年輩の獣人で、手足のリーチを活かした近接格闘が得意。
対して彼が使用しているのはポスターのど真ん中にでかでかと描かれた主人公。アプス。両手剣を背負った少年。作品の主人公ともなれば、助太刀キャラのような立ち位置のシグマと違い削除される心配が絶対にない。羨ましい。
「運営は本当に厳しい。シグマだって使用率でいえば上から四番目だったのになんで消されちゃったかなぁ」
「まあまあ。吉野さん。試しにシグマ以外のキャラも使ってみたらいいんじゃない?」
「シグマ以外のキャラぁ?」
「ほら、例えば今作から新規参戦したミレイとかどう? シグマの後輩って設定だし同じ獣人だし……」
「違うの。ケモ耳は獣人じゃあないのよ」
「おっとそれは失礼した」
彼が提案して画面の褐色猫耳少女を指す。物語の設定上はシグマと同じ士官学校出らしいが、殴る蹴るがメインのシグマとは戦闘スタイルが違う。このキャラも大砲が付いた鉄の剣を担いでいる。
というか戦闘スタイル以前の問題。露出が高い女子なんて世の男性陣が喜んでも、私自身の食指はぴくりとも反応しない。逆に水着みたいなえっちな衣装じゃ、女の私は目のやり場に困る。
(そうじゃない。そうじゃないんだよねぇ……私はシグマが好きだったんだよ。シグマを使いたいんだよ……)
ケモノ好きにとっての獣人分類はわりとデリケートな議題な気もするし話せば長くなりそう。今回それは省くことにする。
それよりも今は私が辞めようとしているゲームの話。
閲覧ありがとうございます。
つづきます。