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森を抜けて

 洞穴から五分程歩いた所の池の傍。三人は蹲っているクラシェイドを見つけ、慌てて駆け寄った。


「クラちゃん、大丈夫か!?」


 アレスがクラシェイドの肩を掴むと、クラシェイドはゆっくりと顔を上げて三人の方に顔を向けた。


「大丈夫……ちょっと、眩暈がしただけ」


 何事もなかったかの様にクラシェイドは立ち上がったが、三人の不安は消えず、三人はそれを表情に浮かべて彼を見つめていた。

 三人の視線を振り切るように、クラシェイドは三人に背を向けた。


「…………オレは月影に命を狙われてる。今回はたまたま運が良かったけど、次は三人の命も危ないかもしれない。だから……」


 三人は顔を見合わせ、眉を下げて笑った。


「その為に、お前を護る為に俺は来たんじゃねーか」

「そだよ☆ ぼくだって、こー見えてやる時はやるし。シヴァノスに行くんでしょ?」

「あなたと行くって決めたんだもん。今更、帰れないわ」


 三人の言葉が信じられなくて、クラシェイドは振り返る。その瞳に映ったのは、全く偽りのない三人の笑顔。もう何かを言い返す必要も、言葉も浮かばない。ただ一言、


「ありがとう……」と、クラシェイドは応えた。


 四人は揃って歩いて行き、ふとシフォニィが斜め後ろのクラシェイドを振り返った。


「てか、お兄ちゃん。食べ物は?」

「あ……忘れてた。ごめん」


 クリスティアは呆れて溜め息、アレスはにっと笑った。


「んじゃ、皆で探そうぜ!」

「賛成っ☆」

「私も賛成」




 歩く事数分、シフォニィが木の上に何かを発見して立ち止まって指を差した。


「あそこに木の実があるよ!」

「本当だ」と、アレス。

「オレが取るよ」


 クラシェイドは風属性のマナを集め、木の実に向かって突風を放った。木の実は一瞬にして枝から離れて落下し、アレスが見事受け止めた。

 四人は紫色の丸く、赤色の水玉模様の入った木の実を見下ろした。


「何とか食べられそうだね」


 クラシェイドがそう言い、クリスティアを見る。


「何処がよ! 気持ち悪いじゃない! というか、何で私を見て言うの?」

「でも、一個しかないぜ? クリスティア、食べていいぞ」


 アレスは腕を組んでクリスティアを見、シフォニィも笑顔でクリスティアを見た。


「クリスに譲るぅ~これぞ、レディーファースト☆」


 アレスとシフォニィにそんな事を言われても、クリスティアは全く嬉しくはなかった。すると、何処に気を利かせたのかクラシェイドがこう提案する。


「何なら、オレが魔術で焼いたり、凍らせたり出来るけど」

「そういう問題じゃない! 三人とも、私に対する嫌がらせよ? これ」


 ついにクリスティアは激怒するも、三人には悪びれる様子はない。


「女はよくわかんねーな」

「クリス、ワガママ☆」

「もしかして、足りないのかな」


 クリスティアは何も言い返す気にもなれず、頬を膨らませて先に歩いて行った。


「他、探すわよ」


 三人は仕方なく、クリスティアについて行く。


「ったく。一人で先に行くと危ないぞ」

「もーしょうがないな☆」

「せっかく木の実見つけたのに」







 西へと滑り下りた太陽は、東からまた顔を出して淡い金の光を地上に届けた。それと同時に眠っていた森の生物達も目を覚ます。小鳥のさえずりが心地よく辺りに響き、アレスとクリスティアは目を覚ました。

 クラシェイドは二人よりも先に……というより、朝まで洞穴の出入り口で見張りをしていたので、起きていた。アレスとクリスティア、まだ寝ているシフォニィはそんな事を知らない。

 クリスティアはクラシェイドのもとへ行き、アレスはシフォニィを叩き起した。シフォニィは不機嫌そうに上半身を起こし、目をこする。


「うーん……。今、トングくんがアレスを食べちゃった所だったのに」

「何、訳わかんねー事言ってんだよ。さっさと、行くぞ」


 アレスはシフォニィを半ば引き摺る様に連れ出し、外へ出た。

 二人が来ると、クラシェイドとクリスティアは歩き出す。四人は、洞穴を後にした。




 森の中をまた暫く歩いていると、魔物が木々の間から飛び出して来た。体長20cm程の黒とピンクの縞模様の蜂の魔物五体。

 アレスが大剣を鞘から抜いて駆けてゆき、他の三人は後ろに下がった。

 五体の魔物は次々とアレスに急降下し、銀に輝く毒針を向ける。それを大剣で払い除け、アレスは刀身に炎属性のマナを纏わせて五体を一気に斬った。切り口から炎が燃え盛り、魔物は消し炭と化した。

 後ろではクラシェイドが詠唱。


祝融しゅくゆうよ、全てを焼き尽くせ――――ソウルバーン!』


 炎が木の向こうに隠れていた魔物を飲み込み、爆発。焼け焦げた肉片が飛び散った。

 アレスはクラシェイドを振り返る。


「もう一体魔物がいたのか。気が付かなかった。サンキュー、クラちゃん」

「いいよ。さあ、行こうか」


 四人は再び歩き出す。



 それからは魔物に出くわす事はなく、青々とした景色や会話を楽しんだ。何処までも変わらぬ景色ではあったが、澄んだ流水の音が四人の耳に流れ込み、四人はそこへと走った。





 木々が視界から消え、解放された青空の下には陽光をたっぷりと浴びて耀かがよっている川が流れていた。しかも、大して幅のないその川には木造の立派な橋が架かっており、目の前に看板が立っていた。四人が近付いて看板を確認すると、“この先、王都ディン”という文字が書かれていた。

 クリスティアとシフォニィはようやく人の居る所へ行けると素直に喜んだが、クラシェイドとアレスは浮かない顔をしていた。理由は聞かずとも、クリスティアとシフォニィには分かっていた。彼らは“元”とはいえ、月影の殺し屋。ディンメデス王国、特にアガレグ国王の側近のクロル・レイバードは月影の殺し屋を捕まえ、処刑を望んでいる。それを知った上で、王都に足を踏み入れようとするなど無謀過ぎる。

 他に町や村がないかと考えるが、知っている限りではここしかない。仮にあったとしても、土地感のない彼らが今日中に無事にそこまで辿り着けるかは保証出来ない。野宿をしようにも、食料もない上に魔物が心配で安眠出来ない。結果として、王都で休息をとるという選択肢が残された。


「大丈夫だよ☆ 要はバレなきゃOKじゃん」


 シフォニィが軽い口調でそう言うが、クラシェイドとアレスの表情は依然として変化がなかった。

 クラシェイドは、橋の向こうに見える王都の大きく豪華な門に視線を向ける。


「……上手く入る事が出来たらね。でも、あの門の前には門番が居る。到底、彼らを出し抜けるとは思えない」

「うーん……じゃあ、変装してみるとか?」

「えーそんなので大丈夫かしら」

「余計怪しいような気がするけどなー」


 シフォニィの提案にクリスティアもアレスも不満を零し、クラシェイドはちらりとシフォニィが両腕に抱えている縫いぐるみを見た。


「……いや、いけるかも」

「え?」と、クリスティアは疑問符を浮かべる。

「あ。そうか、変形術」


 アレスはトレントと戦った時の事を思い出した。


「そう。正直得意じゃないけど、門を通過するまでなら保つと思う」

「へぇ~クラって何でも出来るのね」


 クリスティアが感心し、シフォニィとアレスは二回首を縦に振った。


「じゃあ……何に変形出来るのかは分からないけど」


 クラシェイドは、マナで自分とアレスの足下に白光する魔法陣を描いた。


「うわ~何だかドキドキするな」

「ぼく、何になるのかな~?」


 何故かシフォニィもそわそわし始め、クラシェイドは彼を横目で見て瞼を閉じた。


「シフォニィはその必要ないでしょ」

「え~? お兄ちゃんのケチ! 別に減るもんじゃあるまいしぃ」

「減るよ。オレの魔力と精神力が」


 クラシェイドとアレスは眩い光に包まれた。

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