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救えなかった事への後悔

 クラシェイド、クリスティア、シフォニィ、アレスの四人は深い森を歩いていた。ヴィクティムの森を抜けた先にも、森が広がっており、森を通る他に道がなかったのだ。


 では、クラシェイドを追って来た三人は船からどうやってヴィクティムの森まで来たのか。それは、こことは反対側のヴィクティムの森東側に位置する海岸で船から降ろしてもらい、森へ入ったらしい。船には他にも乗客がいたので、待っていてもらう訳にもいかず、三人は船を見送ったという。


 クラシェイドは三人の話を聞き終えた後、自分が得た情報を話した。まず、自分を連れ去った女の事。名をトキと言い、聖剣エクスカリバーの他に魔剣ラグナロクを狙っている。さらに、トキには他にも仲間がいるようで、トキが言うには強いらしい。そして、彼らが最も恐れる存在、情報屋。情報屋に関しての詳しい情報は得られなかったが、あれだけ自信満々だったトキが焦りを見せたのだ。もし、仲間に出来たのなら強い味方になるに違いない。

 考える事は山程あるが、今は森を抜けるのが先決。四人は歩みを止めず、ひたすらに歩いた。




 南西に浮かんでいた金の太陽は、少しずつ西へと滑り下りる。金は真っ赤に燃ゆり、地上を同色に染め上げてゆく。次第に空に紺が溶け出して、美しいグラデーションを創り出す。

 一番星、二番星と煌いて夜を運んで来た。

 四人は未だに森の中。これ以上歩くのは危険なので、道中にあった洞穴で一泊する事にした。

 シフォニィが近くで拾って来た小枝を集め、クラシェイドが魔術で炎を付けて四人はそれを囲んで座る。


「あー疲れたなぁ」と、アレスは伸びをし、クラシェイドは両膝を抱えて顔を沈める。


 よく見ると、二人の怪我は治っていた。この森に入る前、草原で白魔術師であるシフォニィに治癒してもらったのだ。しかし、それを思い出す二人は悪夢を見ているかの様だった。


「正直、俺はたらいの方が痛かったぜ」

「何でアレ、避けても当たるんだよ」


 クリスティアも、自分の時の事を思い出す。


「治癒した後にまたダメージを与えるって、どんな治癒術なのよ」


 三人にジロっと見られ、シフォニィは縫いぐるみで顔を隠した。


「ぼくにも分かんないんだもん。詠唱呪文は間違っていないしさ。あーあーお腹空いちゃったよ☆」

「話逸らしやがった」

「逸らしたわね。というか、私もお腹空いた……」

「……じゃあ、オレが何か食べられる物を探して来るよ」


 クラシェイドが立ち上がり、シフォニィとクリスティアは彼について行こうとした。だが、


「クラちゃんなら一人でも大丈夫だ」


 アレスが止めた。

 シフォニィとクリスティアは不満だったが、それに従う事にした。





 クラシェイドは暗い森を歩く。なるべく三人の居る所から離れないように、周辺で何かないかと探していた。途中で狸の様な動物を見掛けたが、動物はクラシェイド自身は食べられないし、教団員のシフォニィも同じだろう。それを考えると、木の実ぐらいかと木の上を見回した。


(何もなさそうだなー。それにしても……)


 まだ記憶に新しい双子の事を後悔していた。あの様子だと、生きてなどいないだろう。彼らはきっと、初めからそうするつもりで自分の前に現れただろうから。そうと分かっていながら、自分達は何故彼らを救ってあげる事が出来なかったのか。そればかりを悔やんだ。

 ティニシーとティアンザとは三年も生活を共にして来たのだ。他の殺し屋の多くもそうだった。






 その夜は珍しく、六つあるうちの二つのテーブル席は総勢二十人の殺し屋で埋まっていた。前側のテーブル席には端から、クラシェイド、ノアン、リスルド、エドワード、ルカ。向かいには、アレス、アルフィアード、ティニシー、ウル、アウラ。後ろ側のテーブル席には端から、シルクハットを被った青年、女性の装いの人物、ティアンザ、コルト、大きな鋏を持った少年。向かいには、筋肉質の中年男、マゼンダ色の瞳が特徴の少年、背の高い女性、その妹の無表情の少女、眼鏡を掛けた地味な青年。


 クラシェイドの周りは特に騒がしかった。アレスとアルフィアードは仲が悪いくせに隣に座って、案の定喧嘩をしている。その内容も本当にどうでもいいもので、「何でお前が隣なんだ」とか「キミと食事なんて、ご飯が不味くなる」など。そうやって互いを嫌悪している所は、逆に言えば気が合っているのではないかと周りは思っていた。

 そして、平和に見えるノアンとリスルドも何かと騒がしい。好き嫌いをするリスルドに対してノアンが注意をし、鬱陶しく思ったリスルドがノアンの皿に自分の嫌いな物を流し込む。そこで、またノアンが注意をし、リスルドが笑顔で逆ギレ。ノアンは縮こまり、クラシェイドに助けを求める。


 ウルとルカとエドワードの三人組は相変わらず、口が休まる様子はない。エドワードとルカはともかく、ウルが食べたり喋ったりで、とにかく忙しい。エドワードとルカに話し掛けては、真後ろのコルトにちょっかいを出して。隣のアウラには、何故か顔を赤らめ。

 これだけでも、結構騒がしいというのに、毎日のお決まりの如く双子の喧嘩が始まった。ティニシーとティアンザは同時に席を立ち、背中合わせの席だった為にぶつかりそうなった……それが喧嘩の始まり。


「ティニシー、そこどいてよ」

「お前がどけ」

「何、その命令口調! 何様なんだよ」

「ああ!? 喧嘩売ってんの、お前」

「喧嘩売って来たのはそっちでしょ!」


 喧嘩はエスカレートし、双子は口だけではなく、手を出そうとする。それに気が付いた周りが、双子を止めた。

 双子は文句を連ねながら、それぞれ別の方向へ歩いて行き食堂を出て行った。双子がいなくなって、皆安心。いつもこんな調子で仕様もない事で双子は喧嘩を始め、酷い時には部屋がぐちゃぐちゃに荒らされる。

 それでも、平和だと思えるのはきっと彼らが本当の意味で仲が悪い訳ではないから。周りも優しいし、温かい。まるで、家族の様な特別な存在だった。


 でも…………





 クラシェイドは懐かしい月光の館での日々を思い出していたが、とある三人の顔を思い浮かべてゾッとした。一人は眼鏡を掛けた地味な青年。もう一人は大きな鋏を持った少年。そして、アルフィアード。アルフィアードに関しては普段は社交的で、周りとも仲良くやっているが、他の二人は違う。人との接触を自ら断ち、孤独を好んでいる。

 そんな三人には共通して、人殺しを楽しんでいるという傾向がある。ターゲット以外の人間でも、容赦なく殺すのだ。もし、クラシェイドを殺しに来たとして。関係のないクリスティアやシフォニィやアレスに手を出さないというのは考えられない。

 双子は優しかったから、周りに全く目を向けなかったが、彼らは迷わず殺すだろう。


(オレのせいだ……オレのせいで、関係のない人まで……)


 ズキン!


 急に頭痛がして、クラシェイドは頭を押さえてふらりと歩く。目の前に池が見えてきて、その傍でしゃがんだ。


「そうだよ。キミのせいだ」


 脳に直接声が響き、月光に照らされた水面が揺れる。


「キミはいつだってそうだ。あの時も、あの時だって……」


 揺れが落ち着いた水面に映っているのは当然自分である筈だが、違和感があった。そう、そこに映っていたのは幼い頃の自分の姿だったのだ。クラシェイドは“彼”が自分に対して、話し掛けていると思った。


「全部、全部、キミのせい」

「あの時って……?」


 突如、黒いフードの男の笑う姿と雪上に広がる赤の映像が脳裏に流れ込み、クラシェイドの頭痛は激しくなった。意識が遠のいてゆく。


「…………ッ……! 嫌だ……思い出したくない…………」

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