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次に会う時は

 一方のクラシェイドとウルは他のペアよりも早く、ポイズンハンドが向かって行った場所へ足を運んでいた。道中、ウルがクラシェイドに話し掛ける。


「あの娘、クリスティアって言うのか~可愛いよな!」

「そう?」

「あと、シフォニィ! お前の事、お兄ちゃんって呼んでるけど、兄弟なのか?」

「さあ?」


 クラシェイドが一向にこちらを見ない上、そっけない返事ばかりするので、ウルは腹を立てて彼の首に腕を回してギュッと締めた。


「ウル、苦しい……」

「てめーが悪いんだろ! 俺の話を全部テキトーに流しやがって!」


 その状態のまま、辿り着いた大きな休憩所の前。中に並べてあった貴族の屋敷にありそうなデザインのテーブルや椅子は無惨にも、部屋中に真っ逆さまに転がっていて、さらに人も数名倒れていた。腹が上下に動いている為、単に気を失っているだけのようだ。


「クラシェイド! ウル!」


 エドワードが走って来て、すぐ後ろからクリスティアも走って来た。

 ウルはクラシェイドを離し、エドワードの方へ向き直った。


「エドに、クリスティア。お、ルカとシフォニィも来たみたいだな」


 ウルがエドワードとクリスティアの後ろに視線をやると、ルカとシフォニィは手を振りながら走って来た。


「やあやあ~ヒーローは遅れて登場だからね☆」


 全員が揃った所で、休憩所に足を踏み入れた。

 すると、一行の眼前に大きな影が出現し、次の瞬間に墨色の柔らかい物体が落ちて来た。

 クラシェイド、ウル、ルカ、エドワードは臨戦態勢を取り、クリスティアとシフォニィは少し離れた。


 先程のポイズンハンドはこの物体――――スライムに吸収されたようで、スライムの体の至るところから生えていてうねうねと蠢いている。さらには人間に攻撃をされたのか、剣や槍などの武器も突き刺さっていた。


 クラシェイドはポイズンハンドや武器などの他に、スライムに取り込まれているものを発見した。眩い無数の光の球体だ。いつまでも眺めていたい程に美しく、クラシェイドの心臓は高鳴っていた。


「あれは……魂、人の。そうか、だから館内にいた人達は生気がないように見えたんだ。魂がコイツに囚われているから」


 言って、クラシェイドはすぐに詠唱を始めた。


「なるほどな! じゃあ、コイツ倒せば解放出来るって訳だな」


 ウルは爪を鋭くし、スライムに切りかかる。しかし、柔らかい体に通じる筈もなく、ウルの爪はスライムの体にめり込んだまま動かす事が出来なくなった。抜こうとすれば、徐々に爪は埋まってゆき、ウルの腕は関節まで埋まってしまった。

 エドワードは翼を広げて宙へ浮き、ウルの腕を引っ張った。ウルの腕はスライムから抜け、反動でエドワードとウルは床に転がった。

 二人が体勢を立て直す僅かな時間に、ルカがスライムに向かって包帯を巻きつけて束縛術を試みようとしたが、包帯がスライムの体を縛り付けた直後に包帯はスライムに取り込まれてしまった。

 スライムは反撃に出ようと、体を縮ませて、そして勢いよく膨らました。スライムの体に突き刺さっていた武器が部屋中に飛び散り、エドワードは空中で軽やかに避け、ルカは身体の包帯を解いて姿を消し、ウルはシフォニィを抱えて俊敏に躱し、クラシェイドはクリスティアを連れて躱した。

 全員に躱された武器は床に突き刺さった。

 ウルはシフォニィをルカに渡し、向かいにいるクラシェイドの隣のクリスティアを見た。


「ルカ、シフォニィとクリスティアを連れてこの部屋から出ろ」


 ルカは戸惑ったが、次のウルの台詞で了承せざるを得なくなった。


「お前の武器である包帯がスライムに取り込まれちゃ、お前役立たずだろ」

「分かったべ。ここはウルとエドとクラシェイドに任せるべ」


 ルカはシフォニィを連れ、出入り口に向かう途中にクリスティアを連れて部屋を出て行った。

 残された三人は顔を見合わせる。


「やっぱり、魔術で倒す他なさそうだね」


 クラシェイドはマナを集め始めた。


「スライムにそんなにスピードはないみたいだし、ばっちり詠唱出来るね。おいらも、シャドウバブルで加勢する」


 エドワードもマナを集め始め、空中へ浮いた。


「俺は一応、前方支援だ」


 ウルはスライムのもとへ駆けていった。

 ウルが目の前に来ると、スライムの体に生えた沢山のポイズンハンドがまるで磯巾着の様に動き出し、ウルを捕まえようとした。

 ウルが一歩後ろに跳ぶと、エドワードの魔術が発動した。


『――――シャドウバブル!』


 黒い球体がスライムを囲み、次々と破裂。

 スライムの体は少し凹み、一体のポイズンハンドに直撃して消滅させた。

 エドワードの魔術攻撃が完全に終了した後、クラシェイドの魔術が発動。


『理の聖電せいでん、偽りの者への審判を下せ――――ライトニングフォール!』


 スライムの頭上に雷属性の紫色の魔法陣が出現し、そこから紫色に輝く雷が落下した。

 スライムの体は真っ二つに割れ、パチパチと音を立てた。

 今のは効果あっただろう……と思われたが、倒したのはポイズンハンドのみで、肝心の本体は生きていた。真っ二つに分裂した体はまた一つに戻り、何事もなかったかのように元通りだ。

 ウルとエドワードは焦りを感じ、クラシェイドだけは冷静だった。


「分裂した後にまた魔術で攻撃すれば、簡単に倒せるよ。オレとエドワードで交互に魔術を使うんだ」


 それを聞いて、二人に冷静さが戻った。

 意外と単純な倒し方だ。

 エドワードは頷いた。


「クラシェイドの魔術の後に、おいらの魔術を使えばいいんだね!」


 クラシェイドが先に詠唱を始め、エドワードはタイミングを見計らってマナを集めた。ウルは前線で、詠唱時間を稼ぐ。


『その身を滅ぼす業火、此処へ来たれ――――ファイアブレス!』


 クラシェイドの魔術が発動し、真っ赤な炎がスライムを飲み込む。

 スライムが分裂した直後、エドワードは魔術を発動させた。


『――――シャドウバブル!』


 黒い球体が弾けて、分裂したスライムをさらに分裂させた。

 細かく分裂したスライムは床を這いずり、お互いに結合しようとする。全てが結合し終わるまでの時間は、クラシェイドが詠唱をするのには十分な時間だった。

 水のマナが収束。


『清流なる銀の水、罔象みずはの演舞と共に――――クリスタルウェーブ!』


 空中に出現した青色の魔法陣から大量の水が吹き出し、津波の様に対象をまるごと飲み込んだ。

 スライムは消滅し、囚われていた魂達がキラキラと空中に舞い上がった。さらには、魔術の水が消えてゆく際に宝石の様な輝きを残していったので、それも混じって目の前はまさに幻想的光景だった。

 あまりの美しさにクラシェイドは見とれ、先程よりも自分の心臓が高鳴っている事に気付いた。けれど、内心そこまで心が揺さぶられる程の感動はしていなかった。


 では、何故?


 何故、自分はここまでそれに見とれているのか。否、答えは簡単だった。


(オレはあれを欲しているんだ……)



 ――――おぬしからは不思議な気を感じる。精霊に近いような……そう、人ならざぬ何かの


 不意に、脳裏に再生された以前殺したターゲットの老婆の声に、クラシェイドはゾクッとした。


(まさか、オレは…………)


「おい、クラシェイド! さっさと行くぞ」


 ウルに呼ばれ、クラシェイドの思考は途切れた。

 ウルの方へ向き直ると、彼は既に魂を取り戻した人達と一緒だった。

 クラシェイドはウルとエドワード、町の人達と部屋を出、ルカ達と合流して館内を後にした。






「いやあ~お兄さん達、助かったよ!」


 クラシェイド達は、美術館の調査を依頼した男の家に招待された。 

 男がクネクネと奇妙な動きをしながら、クラシェイド達が囲んで座っている丸いテーブルに料理を並べていった。

 メインは勿論“水彩鳥のソテー・星フルーツ添え”で、柔らかそうな鶏肉に星型のカラフルなフルーツが添えてあるファインの名物料理だ。その他にも料理はテーブル一杯に並べられていて、どの料理も見た事のない食材ばかりで見た目も鮮やかだ。まさに、芸術作品といっても過言ではない。

 ウルとルカとシフォニィは真っ先に食事に手を付け、吸い込む様な勢いで口に入れていった。他の三人は呆れて見ている事しか出来なかった。

 そんな三人に、男は食べる様に促した。


「さあさあ、キミ達も食べて食べて! 遠慮せずに食べていいんだよ~」


 エドワードとクリスティアは男に礼を言って食べ始め、二人より少し遅れて食べ始めようとしたクラシェイドの目の前にウルが横からソテーの乗った皿をスライドさせた。


「クラシェイド、お前ひょろいから肉食え!」

「オレは肉食べられないよ」


 クラシェイドは皿を押し戻した。

 ウルはぶつぶつ言いながら、押し戻された肉を豪快に頬張る。


「エドワード、そこのケーキ取って」


 クラシェイドに頼まれ、エドワードは星フルーツが沢山盛り付けてあるドーム状のケーキを取ろうとした。


「うん。あ、でも……これ切ってないよ。切ろうか?」

「いいよ、そのままで」

「そう? じゃあ、はい」


 自分で切るのかなと思い、エドワードはクラシェイドにケーキを渡した。

 すると、クラシェイドはケーキを切らずにそのまま食べ始め、周りは驚いた。


「クラシェイド、まさかの切らずに!?」とエドワード。

「そんなんばっか食ってるから、ひょろいんだよ」とウル。

「独り占めずるいべ~」とルカ。

「ルカも、殆どの料理をウルと平らげてたじゃん☆」と笑うシフォニィも、なかなかな量を食べている。

「クラシェイドって甘党だったんだ……意外」とクリスティア。


 全員にそんな反応をされても、クラシェイドは全く気にしない。

 周りも段々と慣れ始め、再び手を動かした。





 食事を終えた一行は男に礼を言って町を出る所だった。

 クラシェイド、クリスティア、シフォニィは港町へ。ウル、ルカ、エドワードは月光の館へ……と、それぞれ向かう場所が違うのでここでお別れだ。次に会った時は敵同士という事を覚悟して。

 ウルはクラシェイド達と分かれる前に、クラシェイドにある男の話をした。


「アレスがこの前の夜、突然と月光の館から姿を消した。何でも、お前を捜しに行ったらしい」

「アレスが? まだ会ってないけど……」


 疑問に思ったが、クラシェイドはこれ以上何も訊かなかった。


「そのうち会えるかもな! そんじゃ、またな!」


 ウルはニッと笑い、ルカとエドワードを引き連れて歩いて行った。

 ウル達の後ろ姿を見送った後、クラシェイドもクリスティアとシフォニィと共に歩き出した。

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