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月蝕の黒魔術師~Lunar Eclipse Sorcerer~  作者: うさぎサボテン
第二十章 月光の館来復〜それぞれの想いの果てにⅢ〜
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廊下の向こうから現われた死神

 大剣を床に着いたアレスの頭上から、血がポタポタと滴り落ちる。その先には白い翼を纏った銃使いが居た。

 アルフィアードは肩で呼吸し、傷だらけの身体を抱きかかえた。顔には笑みが残っていた。


「容赦ないね~♪」


 そう言うと、アルフィアードの全身は白光に包まれた。

 アレスが飛躍して大剣を振り下ろすが、アルフィアードに上手い事躱されてしまった。

 アレスがもう一度大剣を振るう時には、アルフィアードから光が消えて同時に全身の傷も綺麗に消えていた。


「マジかよ」


 アレスは唇を噛み、避けられた大剣を床に思い切り突き刺した。

 アルフィアードは大剣士を見下ろし、憫笑する。


「ほらほら、武器を構えて~? いくよ~」


 アルフィアードの銃に氷属性のマナが装填され、アレスが大剣を抜くと同時に魔法弾となって放たれる。

 大剣を眼前に持ってきて防御するアレスだが、攻撃を受けた大剣の刀身がみるみるうちに凍り始める。

 アレスは大剣に炎属性のマナを纏わせて氷を解かし、次々と飛んで来る魔法弾をそのまま弾く。

 魔法弾の大半は無属性だったが、中には風や氷などの属性も混じっていて衝撃があまりに凄まじかったのでアレスは避けた。ついでに、アルフィアードとの距離を詰めて大剣を振り下ろす。

 アルフィアードは上に飛んで躱し、アレスの背後に回る。そこで瞬時に魔法弾を放ち、振り向きざまのアレスに直撃。アレスは軽く前方へ吹き飛んだ。


 アレスは床に身体を預ける寸前に受け身をとったが、不安定な姿勢。そこに、慈悲のないアルフィアードの魔法弾が炸裂する。

 全身に魔法弾を撃ち込まれたアレスは倒れ、床に血溜まりを作った。

 アルフィアードは地上へ降り、翼を消してアレスに歩み寄った。

 仰向けのまま無防備に転がる彼に銃口を向け、風属性のマナを銃に装填した。

 アレスは抵抗の意思を示すかの様に微かに手を動かし、倒れた弾みで手放してしまった大剣に手を伸ばしていた。

 アルフィアードには、やはり慈悲などない。楽しそうな顔でアレスのその手を踏み付けた。


「大口叩いてたくせに大した事ないね、キミ」

「う……るせー!」


 アレスは言い返しつつ、体重をかけられる手の痛みに堪えていた。

 アルフィアードは尚も楽しそうに、銃の引き金を引く。

 これで止めを刺されるのは確実。悪魔の様な笑みを浮かべる天使を前に、アレスにはもう成す術がなかった。

 アレスが諦めかけたその時、突然とアルフィアードの視線が離れた。氷の様な色の瞳には何が映っているのか天井しか見えないアレスには分からなかったが、彼の視線は廊下の先へ向いていた。

 アレスはこの機会を見逃さず、アルフィアードの体重からいつの間にか解放されていた手でしっかり大剣を握った。そして、光属性のマナを纏わせて薙ぐ。

 刀身自体はアルフィアードには届かなかったが、光の波動がアルフィアードの頬を掠めた。

 アルフィアードの透明感のある綺麗な肌に赤い線が引かれ、絹の如く上質な金の髪の先がはらりと宙を舞った。

 アルフィアードは瞬き、アレスに視線を戻して苦笑した。


「ちょっと……危ないじゃん」


 この時には、アレスはアルフィアードと同じ目線で大剣を構えていた。両者は近距離過ぎず、大剣が余裕で届く位置におり、これは大剣士にとっては有利な状況だった。

 それにも関わらず、アレスからまた視線を外して廊下の先を見つめるアルフィアードに向かい、今度はアレスが容赦なく大剣を振るう。

 刀身が風を切る音に反応し、アルフィアードは相手を一瞥しただけで後ろへ飛んで躱した。

 悔しがるアレスだが、そこまでアルフィアードの意識を奪っているものの正体に薄々気が付き始めた。

 先程までは微かで聞こえなかったが、廊下の向こうから足音が聞こえてきた。それも、段々と近付いている。

 両者は武器を下ろし、同じ方を見つめた。


 足音の他に人影も見え始め、それが近くに来た時、両者はそれぞれ真逆の反応を示した。

 アルフィアードは勝ち誇った顔、アレスは絶望的な顔をした。

 一方で、そんな二人の反応など全く気にする事なく、目の前に来たシルクハットに隻眼の青年は間の抜ける声を出した。


「あれー? こっちにサンヨウチュウへの門がオープンしたと思ったのに」


 チラッと、ペリドットの左目が赤毛の大剣士を映し、アレスの心臓は飛び跳ねた。一瞬のそれは普段とは違い、死神に魅入られた様だった。

 通称死神とも呼ばれる彼は、月影の殺し屋最強の大鎌使いティツィアーノ・クロムウェル。それを証明するかの様に、彼は手元に夥しい量のマナを集め始めた。

 マナはグルグルと渦巻き、暗雲の様。その下に紫色に怪しく輝く魔法陣が展開し、そこから更に強い光が飛び出して、同時に死霊の呻きが湧き上がった。

 そうして、最後に出て来たのは丈夫な木の棒。それをクロムウェルは右手で掴み、一気に引き抜いた。

 ジャラッと先端に付いた鎖が音を立て、湾曲した銀の刃と柄に埋め込まれた紅玉の瞳が天井のランプの光を受けてギラリと光った。

 魔法陣が閉じ、クロムウェルは冥府より召喚した死神の大鎌デスサイズを両手に持ち直して構えた。


「サッサと片付けちゃってよ~♪」


 アルフィアードがクロムウェルに歩み寄ると、クロムウェルは言われた通りに大鎌を一振りしてみせた。

 しかし、たった一振りで家屋一つを破壊出来る威力を持つそれは、大剣士には放たれなかった。アレスが驚く前に、アルフィアードが驚いて苦笑いを浮かべていた。


「どういうつもりだい?」


 アルフィアードの首元には、アレスへ放たれたと思われていた刃が突きつけられていた。

 クロムウェルは彼には何も応えず、アレスを見て口を開いた。


「さあ行くんだ! トコロテンが伸びる前に!」


 アルフィアードから笑みが消え、暗い影が顔に落ちた。

 アレスは戸惑いつつも、大剣を鞘に収めて頷いた。あのペリドットの瞳の奥には安心感があり、彼を信じても大丈夫だと思った。

 アレスは、アルフィアードとクロムウェルの脇を走り抜ける。


「クロムウェル! トコロテンは伸びないぜ!」


 去り際にそう残し、アレスの姿は見えなくなった。

 クロムウェルはそっと大鎌を下げ、死神から解放された天使は態とらしく溜め息を吐いた。


「面白くないなー。キミも彼らの味方をするの?」


 クロムウェルはシルクハットの前側の鍔を手で掴んで引き下げ、少し間を置いて天使の問いに答えた。


「……僕は誰の味方でもないよ」

「え? じゃあ、なんとなーくで助けたってわけ? うわー……すっごい腹立つ」


 アルフィアードはクロムウェルに向き直り、銃を構えた。顔には笑みが浮かんでいるが、何処か怒りと嫌悪が入り混じっていた。


「もうこの際キミでもいいよ。せいぜい俺に遊ばれてね」


 アルフィアードは銃の引き金を引き、放たれた魔法弾を素早くクロムウェルは大鎌で弾いた。


「キミも、掠り傷ではすまないからね」


 クロムウェルはそのまま魔法弾を弾いた大鎌を、アルフィアードに振り下ろした。





 階段を上り続けて数分。

 アレスは息が続かなくなって、踊り場まであと二段と言う所で立ち止まって手摺に寄りかかった。


「アレスじゃん!」


 前方から少女の様な少年の声が聞こえ、アレスは顔を上げた。

 踊り場の先の階段の一段目に小さな白魔術師が腰を掛けていた。


「シフォニィか! お前、何でこんな所で……」


 アレスはシフォニィとその周りで動きを止めている肉片を見比べ、状況を理解しようとする。

 アレスの眉間に皺が寄り始め、シフォニィは苦笑して状況を説明した。


「お兄ちゃんが黒魔術で分裂させたハーピーに今ぼくが封印術をかけていて、また結合しない様にしているんだ。腕のある白魔術師なら対象から離れても効果は持続されるけど、未熟なぼくの場合は対象から一定の距離を置くと術が解けちゃうんだよ。だから、お兄ちゃんを先に行かせて、ぼくはここに残ったんだ。アレスこそ、あの天使の人はどうしたの?」

「そうか。クラちゃんは一人で行ったのか……」


 アレスは踊り場に上がり、散らばる生々しい肉片を見ては顔を顰め、その顔でシフォニィに視線を向けた。


「お前も大変だったな。クラちゃんも心配だが、お前が無事で良かったよ。……俺の方は思わぬ助っ人の登場で何とかなった。まだ、戦ってるんじゃないかな」

「助っ人? まだ味方してくれる人が居たんだね」

「まあ、味方とも言い切れないが。それよりも……」


 アレスはもう一度肉片を見、鞘から大剣を抜いた。


「コイツを何とかしなきゃな」

「え? 何とか出来るの?」


 反射的に立ち上がったシフォニィは目を丸くし、アレスは大剣に光属性のマナを纏わせて構えた。


「何とかするんだよ。はぁっ!」


 アレスは掛け声と共に大剣を大きく振り、発生した光の波動は肉片を次々と飲み込んで消し炭の様に一瞬で消滅させた。

 数秒で辺りは綺麗になり、アレスは満足げに大剣を鞘に戻した。


「ほら。何とかなっただろ?」

「うん。結構強引だったけど☆ アレスにしてはスゴイよ」

「俺にしてはって……」


 アレスはシフォニィの隣に移動し、階段に足を掛けた。


「まだ行けるか?」

「もちろん! お兄ちゃんを追い掛けなくちゃ」

「よし。じゃあ、行くぞ」

「うん。でも、ちょっと待って」


 階段を上がり始めたアレスをシフォニィが引き止め、シフォニィは光属性のマナを集め始めた。

 アレスがジッとしていると、アルフィアードに付けられた傷が降り注いだ光によって綺麗に塞がっていった。

 アレスはニッと笑った。


「ありがとな、シフォニィ」


 シフォニィも笑い返した。


「どういたしまして☆ そんじゃ、行きますか」


 二人は先の見えない階段上を見上げ、上り始めた。

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