表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月蝕の黒魔術師~Lunar Eclipse Sorcerer~  作者: うさぎサボテン
第一章 月影の黒魔術師
11/217

殺気

 ウルとエドワードは半信半疑でゴーレムに向き直った。すると、ゴーレムは水を弾き返し、コアを輝かせた。そこから真っ赤な光線を放ち、ウルとエドワードは躱し、光線はクラシェイドの脇を擦れ擦れで通り過ぎ、壁を焦がした。


「ごめん、次は失敗しないから」


 クラシェイドは詠唱をやり直す。

 ウルとエドワードは頷き、ゴーレムに立ち向かった。ゴーレムは両腕をグルグルと振り回し、エドワードはひたすらに躱し、ウルは隙を突いて攻撃した。

 それにより、ゴーレムは激しさを増し、ウルは攻撃を中断して躱した。ゴーレムの腕が目の前を過ぎてゆく。ウルも、エドワードも、躱す事に必死でゴーレムに手を出せなくなった。

 だが、詠唱するのに十分な時間を稼ぐ事が出来た。

 炎のマナが部屋中に駆け巡る。その時、ゴーレムが突然と静止し、コアを点滅させた。


 ピピピピピピ……


 ゴーレムの腕が真っ直ぐ伸び、コアが光を放った。

 エドワードはハッと気が付き、動く。


「クラシェイド、危ない!」


 ゴーレムの腕は付け根から離れ、クラシェイドの前に飛び出したエドワードにぶつかり、エドワードは受身を取る事が出来ずに、クラシェイドの後ろの壁まで吹き飛ばされた。ルカと同様に身体を壁に打ち付け、血を流して気を失った。

 ウルは驚き、クラシェイドは高ぶる気持ちを抑えて詠唱を続けた。

 ゴーレムの腕が元の位置に戻っていき、ゴーレムは再びクラシェイドに攻撃を仕掛けようとしていた。次に繰り出す彼の魔術が弱点であり、何とか阻止しようとしているのだ。だが、それはこちらも同じ。ここで詠唱を中断させられ、メンバー唯一の黒魔術師を戦闘不能にさせられたりしたら、もう勝目はない。何としてでも、クラシェイドを守らねばならない。

 ウルはゴーレムの身体を手で押さえつけた。普通の人とは桁違いの腕力を持ったウルのそれは、少しは効果があったようで、ゴーレムの動きは止まっていた。

 炎のマナがゴーレムの真上に収束する。


『鳳凰よ、』


 ゴーレムは焦りを感じたかの様にウルを振り払い、バランスを崩したウルの真上に剛腕を振り下ろす。


「ぐはっ!」


 ウルは吐血して、床に叩きつけられた。


『天空へ羽ばたき、』


 ミシミシと、タイルにめり込む音と骨の砕ける音がし、クラシェイドの集中力が途切れかけた。


(間に合うかな……)


「もう…少しだ……いける!」


 クラシェイドの心を読んだのか、ウルが喉の奥から声を絞り出して、そう言い放った。

 クラシェイドは頷き、詠唱に集中した。


『聖火の雨を降らさん』


 ゴーレムの真上に収束した炎のマナが大きな魔法陣を描き、真っ赤な炎をちらつかせた。


『――――フレイムレイン!』


 炎が豪雨の如く降り注ぎ、ゴーレムはウルを離して上を見上げる。その隙に、ウルはクラシェイドの所まで走る。取り残されたゴーレムはあっという間に炎に打たれて、その場に崩れた。鋼鉄で構成された身体は炎で簡単に熔け、蒸発していった。

 ゴーレムがいなくなった事を察知して、扉を覆う魔力も消滅した。


「やったぁ!」


 ウル、ルカ、エドワードの高らかな声がし、クラシェイドは自分の周囲を確認した。――――ウルはともかく、先程まで気を失っていたルカとエドワードが笑顔でそこにいる。怪我も、心なしか治っている気がした。


「三人とも、大丈夫なの?」


 ルカ、エドワード、ウルの順に答えた。


「ちょっど、壁にぶつかっただけだし」

「少しの間、気絶してたら良くなった」

「呪人は、体力と怪我の回復が早いんだ。すげーだろ!」


 クラシェイドは納得し、半ば呆れていた。


「それは知らなかったけどさ……」

「お、扉開いてるじゃん。次行こうぜ」


 クラシェイドの心境など無視して、ウルは二人の友人を連れて扉の方へ歩いて行った。クラシェイドはさらに呆れ、自分の足下に魔法陣を描いた。


「……オレは帰るよ」


 三人が振り返った時には、クラシェイドは一筋の光となって消えていった所だった。

 ルカとエドワードは残念そうな顔をし、ウルは腰に手を当ててムスっとした。


「クラシェイドめ……」






 瞳の神殿の前に魔法陣が浮かび、そこからクラシェイドが姿を現した。神殿内で魔術を使い過ぎたおかげで、月光の館まで移動するのは困難だったのだ。それほど距離がないので、徒歩で帰る事にした。


(もう夜じゃん)


 空を見上げれば真っ黒な空が広がり、月光の館の上の夜空と混じり合って溶けていた。

 星明かりも、月明かりもない、真っ暗に静まった森を歩く羽目になってしまった。別に恐怖を抱いている訳ではないが、魔物に出くわしそうで嫌だった。

 暫く歩いていると、クラシェイドは自分の足音の他に、もう一つ足音がある事に気が付いた。最初はウル達かと思ったが、違うとすぐに思った。何故なら、歩幅の狭いヒールの音だったからだ。

 クラシェイドは気味が悪いと思い、歩く速度を上げた。すると、ヒールの音も同じ速度で近付いて来て、クラシェイドは最終的に走り出した。


(何だ? つけられてるのか……?)


「…………て………ク……………くん」


 微かに女の荒い息遣いと声がし、クラシェイドは立ち止まって振り返った。


「誰?」

「えっ……」


 人影は困惑の様子を見せ、おどおどとした口調で答えた。


「私、だけど……」


 そこにいたのは、クラシェイドと同い年の少女だった。桜色のウェーブした腰まである長髪と、それより少し濃い色のパッチリした瞳、袖口と裾にフリルがあしらわれたブラウスは胸元が空いており、十字架のタトゥーがある。

 上には白い布を羽織い、翼のエンブレムの刻まれた円上の金属板でタトゥーの下に固定している。下はブラウスと同じく裾にフリルのついた赤いチェック柄のプリーツスカートを穿き、スラリと出た両足は太腿を黒いスパッツ、ふくらはぎをクリーム色のフリルソックスで覆い、翼の装飾のついたハイヒールを履いている。

 可憐な少女だが、月影の殺し屋の証は勿論、両手には緑色の水晶のついた銀色の杖を大事そうに握っていた。

 彼女は月影の殺し屋のもう一人の黒魔術師だ。


「……アウラだったのか」


 クラシェイドが安堵の表情を浮かべると、アウラ・レイラは首を傾げた。


「ど、どうかしたの……?」

「別に……――――!」


 ほんの一瞬、殺気を感じた。


(気のせい……か)


 アウラは彼の様子に疑問を抱きつつも、懸命に彼に話し掛けた。


「あ、あのね! 私、今暗殺を終えて帰るところなの。そ、それでねッ、クラシェイドくん、一緒に帰ろ?」


 クラシェイドは答えず、何か考え込んでいた。


「……クラシェイドくん?」


 にこやかだったアウラの表情が不安に染まる。

 クラシェイドはアウラが自分を見ている事に気が付き、彼女を見た。


「ん? あーそうだね」


 何の感情も込めず、ただ適当に言ったのだが、アウラは頬をピンク色に染めて満面の笑みを浮かべた。


「本当!? ありがとう……嬉しいな」

「? ……じゃあ、行こうか」


 クラシェイドが歩き出し、アウラは小走りで彼の後に続いた。


「うん!」 




 特に会話のないまま、二人は崖下まで辿り着いた。人工的に作られた階段を上りきれば、月光の館はもうすぐそこだ。

 館に戻る前に、アウラはクラシェイドと会話がしたかった。館へ戻ってしまえば、他の人達が彼を取り巻き、アウラは彼と会話が出来なくなってしまう。今しかないのだ。

 クラシェイドが最初に階段を上っていき、アウラは続きながら彼に声を掛けようとした。


「あの……クラシェイドくん」


 クラシェイドは立ち止まり、後ろを一瞥して向き直った。


「えっ? ク、クラシェイドくん……?」


 アウラは驚きの隠せない顔でクラシェイドの顔を見た。彼は険しい顔をしてこちらを、否。階段の下を見ていた。小さく息を吐き、アウラも彼の視線の先を振り返った。


「ずっと、つけていたの?」


 クラシェイドが階段下に言い放つと、赤い三日月の光で人の輪郭がハッキリと浮かび上がった。


「――――クリスティア」


 名前を呼ばれ、そこにいた少女――――クリスティア・リアンネは奥歯をガッと噛み締めた。


「そうよ……クラシェイド・コルース」


 クリスティアの手元で、何かが月光に反射して煌く。


「あなたに復讐する為に!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ