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月蝕の黒魔術師~Lunar Eclipse Sorcerer~  作者: うさぎサボテン
第一章 月影の黒魔術師
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VSゴーレム

 奥へ行けば行くほど、魔物達と遭遇し、ウルとクラシェイドが倒していった。中には、魔術しか効かない魔物もいたりして、魔術師であるクラシェイドの出番は明らかに多かった。

 その為か、クラシェイドの疲労は、戦っていないルカとエドワードは勿論の事、ウルよりも溜まっていた。

 ルカとエドワードが心配して、クラシェイドの横に並んだ。


「クラシェイド、顔色悪いべ」

「魔術は魔力だけじゃなく、精神力も消費するからね。少し休む?」


 クラシェイドは頷いて、ゆっくりと壁際に歩いて行った。ルカとエドワードも彼について行き、ウルはその様子を眺めた。


「魔術師も、楽じゃねーんだな」

「まあ……普段、そんなに魔術を連続で使う事はないから、慣れていないだけなのかも」


 クラシェイドが壁に寄り掛かると、壁が音を立てて四角く凹んだ。

 クラシェイドは壁から身体を離し、ルカとエドワードは四角く凹んだ壁を不思議そうな顔で見た。


 ――――と、その時。神殿全体が、大きく揺れ始めた。


「これは……――――そうか、今のはトラップ発動のボタンだったのか」


 クラシェイドが気が付くが、既に遅かった。


「な、何かヤバイべ!」

「こ、こんな事ってあり!?」


 足元のタイルがボロボロと崩壊を始め、逃げる間もなく、足場をなくしたクラシェイドとルカとエドワードは真下の暗闇へと落下した。


「クラシェイド、ルカ、エド! ……くそっ!」


 ウルの足場はまだ残っていたが、三人を助ける為、ウルは自ら暗闇へと飛び込んだ。




 気が付くと、クラシェイドとルカとエドワードはウルに抱えられ、空中を落下している所だった。周りは暗闇で何も見えなかったが、少しして、タイルの床が見えてきた。

 ウルは上手い事着地し、三人を下ろした。三人は彼に礼を言う。


 四人が辿り着いたのは、神殿の最下層。白の薄汚れたタイルと壁に囲まれた大きな部屋で、目の前にはそれに見合ったどっしりとした扉があり、反対側の壁には大きな溝があった。


「変な部屋だな。何もねーし。さっさと、出ようぜ」


 ウルは扉に手を掛け、グッと押した。が、扉はビクともしなかった。ならばと、今度は引いてみると………やはり、ビクともしない。

 ルカとエドワードも協力してみるも、全くの無意味。次第に、ウルはイライラしてきて、扉を蹴り始めた。


「ふざけんな! 建て付け悪いんじゃねーの!? おい、クラシェイド! 魔術でぶっ壊してくれよ――――クラシェイド?」


 クラシェイドは扉の反対側にいて、しゃがんで何かをやっていて聞いていなかった。気になったルカとエドワードがクラシェイドの所へ行くと、彼はタイルの隙間から生えた植物を摘んでいた。


 上だけを見ると、ピンク色の花びらが六つの綺麗な花だが、目線を下にずらすと、とても気持ちが悪い。球根の代わりが、血走った目玉になっているのだ。それ故、この花の名を“アイフラワー”と呼ぶ。ノアンが欲しがっていた物だ。


「クラシェイド、早くこの扉を魔術でぶっ壊して、先に進もうぜ」


 ウルがもう一度クラシェイドを促すが、彼はアイフラワーを片手にウルの方を見て首を横に振った。足下には、移動術の魔法陣が浮かび上がっている。


「オレは、もう用が済んだから帰るよ」


 ウルに加え、ルカとエドワードも「えっ」と驚いた顔でクラシェイドを見た。


「おいおい! 俺との勝負が残ってんだろうが……」


 ギギギギギ……


 部屋中に機械音が轟き、四人はピタリと静止した。


 ギギギギギギギギギ… 


 壁の溝から、巨大な影が姿を現した。

 クラシェイドとルカとエドワードが目の前のそれを見上げると、鋼鉄に覆われたそれの赤いコア部分がギラリと光った。


 ピピピピピ……ガシン。


 鋼鉄の巨体(ゴーレム)は変な音を発しながら、三人と、離れた所にいる青年をロックオンした。予め叩き込まれた呪文“侵入者を排除せよ”に従って、戦闘モードに切り替えた。

 ゴーレムは身体に対して大きすぎる両腕を真横に伸ばし、円錐形の脚を宙に数センチ浮かせた。そして、ぐるりと回転しながら、前方へ駆け抜けた。

 クラシェイドは移動術を使って部屋の隅に移動し、ルカは身体の包帯を解いて姿を透明にし、エドワードは翼を出して空中に逃れた。

 次なる対象のウルにも簡単に躱され、ゴーレムは勢い余って扉に衝突した。ゴーレムの身体が少し凹み、それでも扉の方は全く変化がなかった。

 ゴーレムが体勢を立て直している隙に、四人は一箇所に集まって作戦を立てる。


「まさか、あんなのがいるなんてな。…今回ばかりは、俺とクラシェイドだけじゃキツい。エドとルカも戦闘に参加してもらうぞ」

「分かった。出来る範囲で協力する」

「束縛術なら、おれに任せるべ」

「今のうちに、オレは詠唱をするよ」


 クラシェイドが詠唱を始めたと同時に、ゴーレムは攻撃の準備を始めた。


「俺が前方支援をする! ルカは中距離で束縛術の準備、エドはクラシェイドと一緒に魔術で援護してくれ」


 ウルがゴーレムに向かって走って行き、ルカとエドワードは彼の命令に従った。

 クラシェイドの周り、エドワードの周りに闇属性のマナが集中し、前方のルカの周りでは包帯がマナを纏って、生き物の様にうねうねと空中で蠢いていた。

 ゴーレムの剛腕が振り下ろされ、ウルは軽々と躱して、それを変形させた爪で切り裂く。ギィッっと不快な音を立て、鋼鉄の表面に爪痕を残した。さらにはルカの包帯が身体に巻き付き、ゴーレムは身動きが取れなくなった。


『――――シャドウバブル!』


 エドワードの魔術が先に発動。黒い水泡がゴーレムの周りに出現して、風船の如く破裂した。


『無数の漆黒の刃、彼の者を貫け――――ダークネススピア!』


 立て続けにクラシェイドの魔術が発動し、黒い鋭利な結晶がゴーレムに突き刺さった。

 身動きの取れないゴーレムはそれらをまともに受け、鋼鉄がボロボロに剥がれた。ウルの攻撃を受けた時と比べ、ダメージ(大半を占めるのはクラシェイドの魔術)は大きく、コアが点滅を繰り返していた。どうやら、魔術に弱いみたいだ。そうと分かると、クラシェイドとエドワードは再び詠唱を始めた。

 暫くは束縛術は解ける事はないだろうと、安心を抱いたウルは一旦ゴーレムから離れて待機した。


『――――シャドウバブル!』


 先程と同じ様に、エドワードの魔術がゴーレムに命中して軽いダメージを与えた。

 次に来るのは当然、クラシェイドの魔術……かと思いきや、ゴーレムが束縛術に逆らい始めた。クラシェイドは詠唱を中断し、ウルは一歩踏み出した。

 ゴーレムは包帯を纏ったまま宙に浮き、術者であるルカの顔が苦痛に変わってゆく。そろそろ、あの巨体を拘束するのは限界のようだ。


「ルカ、もういい! 離れろ!」


 ウルが駆け出すと、瞬時にゴーレムは着地して妨害し、ウルの言葉通りにしようと動き出すルカの身体を右手でがっしりと掴む。そして、勢いよく投げ飛ばした。

 ルカの細い身体は壁にぶち当たり、生々しい血をそこに残して床に転がり落ちた。ゴーレムの束縛術が解け、包帯はルカの腕へと戻っていった。


「ルカ!」


 三人は同時に叫ぶが、ルカの返事はなく、代わりに機械音が轟いた。

 ゴーレムは次にウルに狙いを定め、左腕を伸ばす。ウルは床を蹴って飛躍し、それに着地した。彼を掴もうと、素早くゴーレムの右腕が動いたが、ウルはもっと速いスピードで左腕の上を走り抜け、ゴーレムの頭部に乗っかった。


「このやろ……よくも、ルカを!」


 怒りを込めて、ウルはゴーレムの頭部を爪で引き裂く。

 加勢する様に、エドワードもウルの元へ、翼で羽ばたいていった。クラシェイドは心配そうに彼を見送り、詠唱を始めた。

 ゴーレムは頭を強く振り、ウルの身体は宙に浮く。重力のままに落下するも、抜群の運動神経でウルは宙返りして着地した。


「ウル、おいらも前方支援する」


 ウルの横に、エドワードが飛んで来た。

 ウルは気を失ったままのルカを見、エドワードを見て憂慮した。


「お前、吸血とシャドウバブルしか使えねーじゃん。今回、どっちもあんま役に立たないじゃねーか」

「大丈夫! クラシェイドの詠唱時間を稼ぐ事ぐらいなら出来るから」


 ゴーレムが両腕を広げて旋回し始め、ウルは横へ、エドワードは真上に躱した。


『清き流れを司る水の主よ、汝を海の彼方へ――――アクアトルネード!』


 クラシェイドの声が反響し、ゴーレムの真下に描かれた水属性の魔法陣から水が渦を巻き、ゴーレムを飲み込んで天へ伸びた。

 ゴーレムのコアが激しく点滅を繰り返す。

 ウルとエドワードが感嘆の声を上げ、クラシェイドを見た。しかし、彼は杖を下げて納得のいかない顔をしていた。


「全く効いてない……水属性に耐性があったみたいだ」

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