表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今日地震がありました震源地、私。

作者: 橘 英樹

 今日地震がありました震源地、私。


 自分が揺れてるだけでした、目眩の薬は随分前から飲んでいてそれでも時々地震かと思うような揺れを感じるのです。

 主治医によるとストレスから来るものだろうという事でした。


 私はまた統合失調症でもありました。

 100人に1人の割合でなる病気、ストレスに弱い人がなる病気、私は正しくストレスに弱いのでした。



 未成年の頃はストレスを感じる事は殆どありませんでした。

 10代の頃よく飲み会をしました、その頃はお金もありませんしビール等の高いお酒は買えず、またストゼロの様な安価に酔えるお酒もまだ発売されていませんでした。


 その頃のお酒の飲み方というのは、先ず1杯目はテキーラ。


 お酒に弱い女の子も強い男の子も、アルコール度数40%程のテキーラを一気にショットグラス1杯空けるのですテンションを上げる為に。


 その後はジン等の強い蒸留酒のソーダ割が私たちの安く酔えるお酒の飲み方でした。


 いつもの面子の誰かの家、場所はその時々で変わりましたが、親などが留守にしていて気楽に騒げる場所で私たちはお酒を飲んで大騒ぎしていました。


 夜遅くまで騒いでいたので当然というか何度も近所の人に警察を呼ばれましたが、その時はまだ私は何とも感じず、へいちゃらでした。


 また、こんな事がありましたいつもの面子で友達の家に遊びに行っていた時の事です。


 友達は小型犬、確かシーズーだっかなを飼っていました、大人しい犬で普段私たちが遊びに行くと奥の部屋に引っ込んで出てきません。


 ところがその日は珍しくその小型犬がトコトコと、私たちの居る部屋にやって来ました。


 私はあるイタズラを思いついたのですそれは小型犬の飼い主である友達を殴る真似をする事。


 私は態と大袈裟にオラッーと友達を殴ったフリをしました。


 小型犬がうぅーと唸り出しました、それでも殴るふりを続けていると、ギャンッと私のおでこに飛び掛ってきて一撃喰らわせるとそのまま奥の部屋に逃げ込んで行きました。


 その場にいた仲間たちは大爆笑、私は驚くやら痛いやら小型犬の忠誠心に感心するやらで大わらわでした。


 その友達の住む家は市営住宅、まだ市営住宅でも犬や猫を飼うのは当たり前でした、今でも内緒で飼っている人も居るかもしれませんが。



 私がおかしくなり出したのは就職して、一人暮らしを始めた20歳位から仕事は勿論着々と、とある問題が進行していました。


 私が20歳頃というとWindows95が出たか出ないかくらいの頃です、また中国の安い労働力に世界中の資本が食い付きだした頃。


 就職したのは身内が経営する小さな工場、初っ端から言われたのは中国に仕事を取られそうだから、何か新しい事を始めてくれ、と。


 しかし都合のいい事に私にはアイディアがありました、ネットショッピングです。


 第1にインターネット黎明期その少し前カタログショッピングのブームがありました、市井の人々は通販に慣れていました。


 第2に家電量販店のその時売りたい物が何か、俗に言う白物家電に目新しい商品がなく家電量販店はパソコンを売りたがってると私は睨んでいました。


 第3にブームは作られる物という認識、今でこそ当たり前になりましたが当時は流行りというのは、自然発生的に起こる以外の認識はあまりされていなかったように思います、ネットショッピングを流行らそうとしている人々がいる。


 その3点からネットショッピングが当たり前になるのを私は予測していました。


 しかし社長や上司からはネットで物など売れるはずがないと言われ、私的に確実に見えている未来をうっちゃる事も出来ず、そこで初めて私はストレスというストレスを感じました。


 その後も大口の取引先が中国に自社工場を作り、仕事がなくなり会社の体力が尽きて潰れるまで、ネットショッピングに力を入れる事を訴え続けましたが、社長や上司には聞き入れて貰えずストレスだけが溜まっていきました。


 同時期にもう1つのストレスの元となる物が進行していました。


 働き出して10代の頃よりは、多少お金に余裕が出来た私は音楽CDをたくさん買って好きな音楽を自宅で聴いていました、大音量で。


 産まれた頃から一人暮らしするまでの間、私は市営住宅に住んでいました、今思えば鉄筋コンクリートで造りがしっかりしていたのか、それとも近所中が産まれた時からの知り合いで温かく見てもらっていたのか、私は自分の出す物音に無頓着でした。


 始まりはピンポンダッシュでした、チャイムが鳴って玄関を開けて見ると誰も居ないアレです、それが頻繁に起きるようになりました。


 ピンポンダッシュは長く続きました、しかしある日玄関を開けて誰も居ないか辺りを見回してみると、建物の陰から中年の女がこちらを覗いているのを見つけました、中年の女と目が合うと女はそそくさと逃げて行きました。


 それでピンポンダッシュは無くなりました、がホッとしたのも束の間更にストレスを感じる出来事が始まりました。

 私が出掛けようと玄関から出ると「出てきた!」と怒鳴り声がどこからともなく聴こえて来るようになりました。


 声の主はあのピンポンダッシュをしていた中年の女だろうとは思いましたが、どこから聴こえて来るのか分かりません。


 玄関から出る度に「出てきた!」「出てきた!」と怒鳴られるのです、私のストレスは高まって行きました。


 ここからは自分でももうよく分かりませんが更に悪い事が起きました、私の住むアパートの何処かの部屋に暴走族でも住み着いたのか夜になると大きな音のするバイクが集まり始めました。


 暴走族の1団は楽しそうにだべってる訳ではなく、何か緊迫した様子で、誰かを狙って危害を加えるような相談をしているようでした。


 私は自分が狙われているように思えて仕方ありませんでした、名指しで言われた訳ではありませんが"出て来いよ居るんだろ?"という声も何度か聴こえました。


 会社でのストレス、自宅でのストレス、私は眠るのが不自由になりました。


 上手く眠れなくなっても最初はそれでも朝、目覚ましで起きてちゃんと仕事に行っていましたがそれが1年も続いた頃でしょうか朝、目覚ましが鳴っても体が動きません、私は働き出してから初めての大遅刻をやらかしたのです。


 人間1度崩れると弱いものでその後まともに朝、起きれなくなりました、会社での立場は当然悪くなって行きました。


 夜まともに眠れず朝、出社出来ず会社は倒産に向けて進んでいき、自宅では怒鳴り声や暴走族の集会、私はどんどんおかしくなって行きました。


 知人に夜眠れないことを相談すると、自律神経失調症ではないかと言われました私もそうだろうと思いましたが、当時まだ精神科のクリニック等の気楽に行ける病院は一般的ではなく、精神病院は1度入ると2度と出られず中では虐待が行われているイメージで行く気にはなれませんでした。


 中国に顧客を奪われ仕事も無くなり、自分から会社は辞めました、新しい仕事を見つけて心機一転しよう、そう考えていた矢先です。


 昼間掃除機をかけていると、玄関ドアを"ドンッ"と蹴られたような音がしました、その頃はもう私は怖くてなかなか表にも出れなくなっていました。


 引っ越ししよう!もうそれしかないように思えました、仕事でのストレスは無くなりましたが、夜は相変わらず眠れず、表に出ると"出てきた!"と怒鳴られ、夜になると暴走族の集会が始まる、こんな家は真っ平だと思ったのです。


 しかし既に手遅れでした。


 手頃な家賃でそこそこ住みやすい街に私は引っ越しました、しかしそこは安普請でもあったのか夜になると、近所から壁を伝わって大騒ぎしている声が聴こえて来るような物件でした。


 私は物音に敏感になっていました、昔は近所から聴こえてくる物音や声なぞ気にした事はありませんでした、またその物件は部屋の中を歩くとミシッと床が鳴る物件でした。


 床がミシッと鳴るたび近所のどこかから"うるさい!"と聴こえてきました、またお風呂に入っていても"頭がおかしいのか静かにしろ!"などと聴こえて来たのです。


 しまった、物件選びに失敗した!その時私はまだそう考えていました、そして入居して1ヶ月も経たない内に2度目の引っ越しをしたのです。


 2度目の引っ越しは慎重に物件を選びました、閑静な住宅街にあるアパートの角部屋、穏やかそうな近所の住人そんな場所を選びましたが、やはり聴こえて来たのです。


「ヤクザなめてるのか殺すぞ!」


 ストレスでボロボロになっていた私には只々恐ろしい出来事でしたその部屋もすぐさま引っ越しました。


 短い期間に何度も引っ越す私にその度、保証人になってくれた親類が病院に行くよう勧めて来ましたがもう私には聞く耳はありませんでした。


 引っ越しても、引っ越しても聴こえて来る怒鳴り声、半年で8回ほど引っ越したでしょうか60Kgあった私の体重は40Kgほどまで落ちていました。


 引っ越し貧乏という言葉は当時まだなかったように思います、お金の尽きた私は親類の家に逃げ込みました。


 その頃になると聴こえてくる声はストーリー性を帯びて、声と別の声で争っていて片方が殺されるという所まで来ていました。


 私の住んでいたアパートで殺人が起きる、ニュースでもやるはずニュースでやれば私の言うことが本当だと分かるはずと私は捲し立てていました。


 逃げ込んだ先の親類はニュースでやらなければ病院に行きなさいよと諭してくれました、それなのに私はもう少しで大変な事をしでかす所でした。


 親類の家は3階建てで3階を私の部屋にあてがってもらっていました、ある夜いつもの様に眠れないでいるとミシッと階段を上がって来る音が聴こえました。


 そおっと覗いてみると黒ずくめの人影が階段をゆっくり登ってくるのが見えました、そして恐ろしい事にその人影の手にはキラリと光る刃物が握られていました。


 嗚呼ついに来た、やはり私は狙われていたのだあの声の主が私を殺しに来たのだ、私は枕を抱きかかえ殺人鬼にどう対応していいのか分からず、ただ怯えながら階段の音に耳をすませて待ち構えていました。


 中腰で枕を抱きかかえ構えて待つこと数時間、いつまで経っても殺人鬼は現れませんでした、その代わり声が聴こえて来ました、1階で寝ている親類一家の首を絞めて殺せばお前だけは助けてやる、と。


 あろう事か私は実際に1階に降りて行き親類一家の寝ている寝室に忍び込みました、親類一家は静かに寝ていましたこの人たちを殺せば私だけは助かる……


 殺せませんでした、そこまでして、優しい親類一家を殺してまで自分だけ助かりたいとは思えませんでした。


 いつまで経っても私のアパートのニュースはやらず、幻聴だけではなく幻視まで見えて憔悴しきった私は観念して、親類に調べてもらった近くの精神科のある総合病院へ行くことにしました。


 病院へ行くと先ずはPSW(精神保健福祉士)との面談となりました、PSWは焦らせずじっくりいくらでも私の話を聞いてくれました。


 30分いやっ1時間でも話したでしょうか私はもう話す事はないと言うくらい話しました、最後にPSWが大変でしたねと言ってくれて涙が零れ落ちました、その時私は久しぶりにホッとひと息付けた気がします。


 その後の医者の診断で貴方は統合失調症です、と言われましたが病院に行く覚悟を決めた時点で分かっていた事でした。


 医者にリスパダールという薬を出され素直に飲んでいましたが、とても強い薬で副作用で悶え苦しんでいました。


 それが数ヶ月続いたでしょうかある日、優しかったはずの親類から当時の私にとってはショックな提案を突きつけられました。


 生活保護を受けて出ていってくれないかというものでした、その時はまだ生活保護というものをよく知りませんでしたが、見捨てられたという気持ちでいっぱいになりました。


 今考えると親類一家に大の大人の私を長く養う余裕がなかっただけなのでしょう、それまで面倒を見てもらっただけでも感謝しなければなりません。



 生活保護を受け一人暮らしをしながら精神薬を飲み私の症状は落ち着いて行きました、リスパダールはとても鎮静作用の強い薬で何も出来ず死んだように静かに暮らしています。


 今にして思えば若い頃は騒音なぞ気にした事がないと思っていましたが、頭のどこかで自分がうるさいのは分かっていたのかも知れません。


 医者は言います幻聴は自分の頭の中にある物が聴こえてるのだと。


 ピンポンダッシュをしたり出てきた!と怒鳴っていた中年の女も音楽CDを大音量で聴く私に対する意趣返しだったのかもしれません。


 あくまで心の弱っている私の考えですが、私が統合失調症になったのは自業自得、因果応報、身から出た錆なのかも知れません、全ての統合失調症患者がそうだとは思いませんが。


 嗚呼また目眩という名の地震がやって来ました。



 今日地震がありました震源地、私。


 ー了ー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 序盤から中盤は綺麗に書かれていて読みやすくとてもサクサク読めましたので楽しかったです。読みやすい文章ですね。主人公の精神が色々な事を経て徐々に擦り切れていく様がよくわかりました。感情移入も…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ