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④アークのペルソナ・1

○●○1○●○


 あの女はどうやら俺宛ての手紙とマフラーを取り戻すために怪我をしたようだ。しかも俺が傷つくことを気にしていた。何故だ?16になったら離婚したいと言うほど俺のことを嫌がっているというのに。


 何を企んでいるのかは知らないが、それでも、あの女を傷つけたヤツらに怒りがわいたのは確かだった。


 しかしそれは、あの女に借りが出来たことで生じているだけの感情だ。真実がどうであれ、事実としてあの女が奪い取ってきた手紙とマフラーに俺は救われたのだから。借りを返せば消える。一時的な感情だ。気にすることは無い。



 その晩俺は夢を見た。

 誰も居ない真っ暗な闇の中、恐怖と淋しさに押しつぶされそうになりながら、必死で何かから逃げている。いつもの夢だ。

 しかし、遠くに一点の光が見える。いつもと違う。俺はそれに向かって走った。


『アーク、側室である私は、皇子であるあなたに会いに行くことは出来ませんが、会えなくても母はあなたを愛しています』


 どこからともなく声が聞こえる。母さんの声か?


『アーク、こっちにいらっしゃい』


 俺は光に飛び込んだ。すると、側室の住む宮殿前にある庭園が広がった。幼いころ、母さんに会いたくて、誰にも内緒でよく行っていた庭園だ。結局母さんに会えたことは1度も無かったが、そこからずっと宮殿を眺めていた。


 懐かしい庭園は、色とりどりのベゴニアが咲き乱れている。そこで手招きをする母さんらしき女性と、もう一人――横にいるのは誰だ?そいつも手招きしてる。


『アーク、私だよ!』

 笑顔で大声を出しているのは……イベリス……?


 

 目を覚ました俺は目の前で眠るイベリスを見つめた。傷まみれの顔でよく眠っている。どうやら俺は付き添いをしたまま寝てしまったようだ。


 さっき夢を見ていた気がしたけど、どんな夢だったっけ?忘れてしまった。


 時計の針は6時を指していた。カーテン越しの外からは朝陽が差し込み、鳥の鳴き声が聞こえている。イベリスの唇に髪がくっ付いていたので、それを払ってやった。やけに血色のいい唇をしている。綺麗な顔に付いた傷に心が痛み、跡が残らなければいいがと思いながら彼女の髪を撫でた。ふと、視線を感じて背後に振り向くとイベリスの従者ルーシーが立っていた。ビックリした。いつから居たんだ……!?


 ルーシーは相変わらず姿勢良く真っ直ぐに立ち、隙の無いように見える佇まいで「看病のため、しばらく部屋内にいることをお許しください。私が邪魔なときは出て行きますので一言お声をおかけください」と口元を緩ませた。


 邪魔なときって何だよ?どういう意味だ?なんか勘違いしてんじゃねーの?


 そんな心の叫びとは裏腹に俺は何となく恥ずかしい気分になっていた。

「風呂に入る!コイツはお前が看ておけ!」

 思わずきつい口調でルーシーに命令をし、風呂のドアを閉めるなり、やけにうるさい心音に身体を揺らしながら固まっていた。


 何だっていうんだ、一体……?


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