魔王のこと・4
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魔王はクラーケンにやめろと何度も繰り返します。
マーガレットは震えながら涙を流し、ウソよ、とつぶやきます。マーガレットの知っている魔王は、そんな残酷なことは決してしない、心優しき『人間』なのです。
そのとき、マーガレットは腹と腰に痛みを感じます。破水が始まり、痛みに身もだえます。魔王はマーガレットを心配し、寄り添おうとしました。すると、マーガレットは悲鳴をあげて魔王を「人殺し」と言って突き飛ばします。罪の無い人たちを残酷に殺した魔王が怖くて仕方ありません。
魔王はショックを受けます。
過呼吸になったマーガレットは、陣痛の激痛と破水で更にパニックになり、息苦しさにもがきます。
その姿にクラーケンは言います。
「ああ、あの娘は駄目だ。この出産で死ぬ。魔王の子を身ごもった呪いだ」
クラーケンは窓ガラスを破って手を部屋に突っ込み、マーガレットを握ります。マーガレットは更にパニックをおこし、呼吸が出来なくなって気絶しました。
放心状態だった魔王は我に返り、マーガレットを傷つけないように気をつけながら、クラーケンの手に魔力の弾を撃ち込みます。
「やめろ!!マーガレットをどうする気だ!!」
「何万人もの人間を惨殺してきたお前が、こんな娘1人の命を惜しむとは。お前が殺した人間と、この娘の一体何が違うというのだ?」
そう言いながらクラーケンが手を開くと、そこにマーガレットの姿は無く、泣きじゃくる生まれたての赤ん坊のみがいました。
「この赤子の魂を抜き、代わりにマーガレットという娘の魂を入れてやった。これでマーガレットも魔族となり、不老不死を得た。だが、このマーガレットは、お前に惚れることは無い。他の男のものになり、お前の手元から離れていくように魔の呪いを込めた」
魔王は赤ん坊をそっと抱きかかえると、涙を流しながら抱きしめます。
クラーケンは続けて言います。
「お前は魔王。不老不死の魔族を殺すことが出来る唯一の存在だ。さぁ、お前のものにならないその命を殺してしまえ。かつて安らぎを覚えたその命は、この先、未来永劫、お前を苦しめるだけの命となろう。今まで殺してきた人間同様に殺してしまえ」
冷笑するクラーケンに魔王は怒り狂いながら魔力の弾を大量に浴びせます。クラーケンはバリアでそれを弾くと、高笑いをしながら海へと帰っていきました。




