魔王のこと・1
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魔王は魔族同士の睦事の末、世界に1人だけ誕生します。その姿は、他の魔族が人間ではないのに対し、人間と変わらない容姿であることが特徴です。
魔王は魔族たちの王でした。しかし、正の感情を感じることが出来ないが故に、生きていること自体が苦しく、不死の身体であるが故に、死ぬことも許されないという罰を背負って生まれてきます。
クラーケンである魔王の母は言います。
「魔王は罪の子だ。我々魔族の罪と自らの罪を背負い生まれてきた。救われたくば、罪深く醜き人間を一掃し、血で罪を洗い流すのだ」
一方、魔王の誕生から一部始終を見ていたポセイドンは言います。
「人を殺めれば罪は深まるだけだ。他者を慈しみ愛することでその罪は浄化されよう」
魔王は母の言葉を受け入れ、人間たちを魔力で残酷に殺し続けました。
けれども苦しみは消えるどころか増すばかりで、夜も眠ることができません。
ある日奴隷商の一味が魔王の目にとまります。
彼らは奴隷狩りの真っ最中でした。昼間、男達が働きに出ている隙を狙い、田舎の民家を襲っています。若い男たちが寄ってたかって女性や子どもたちに暴力を振るって捕らえては手錠につないでいきました。そこは悲鳴と鳴き声が響く断末魔です。
笑いながら鉄の棒を振り回し、女性を追いかける男の頭を魔王は魔力で潰します。助けてもらったのかと思った女性は魔王に礼を言おうとしますが、女性の頭も潰します。
魔王は何も感じません。自らの罪を洗い流す為に、ただ目の前にいるものを殺害していくだけです。
その様子を奴隷商の牢馬車の牢の中からぼんやりと見ている少女と魔王の目が合いました。ダークブラウンの髪をした彼女はマーガレットの母の元祖マーガレットでした。魔王は彼女にゆっくりと近づきます。
マーガレットはうつろな瞳で魔王を見つめます。魔王は魔力でマーガレットの頭を潰そうと牢越しに手をかざしますが、そのうつろな瞳を見ているうちに気が変わります。牢を壊した魔王は、マーガレットの首輪から伸びる鎖を引き、来いとひとこと言うと、そのままマーガレットを自分の城へと連れて帰りました。




