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③イベリスの奮闘・1

○●○1○●○


 過去世に戻って来てから初めて迎えた朝だった。ああ。1度経験した人生だからか、昨日と全く違う朝にも関わらず違和感なく受け入れている。


 本来の私は起きたら朝食とお弁当をつくって食べて歯磨いて洗濯物干して日焼け止め塗って着替えて特別養護老人ホームに出勤して、入居者さんたちのお世話をしていたんだよな。地球では私どうなってんだろ?失踪事件になってるとか?……あ、違うわ。時間が巻き戻ったんだから、地球に居たころの私はまだ存在してないんだ。……なんか寂しいような不思議な気分……。

 

 巨大なベッドに1人で寝ていた私は起き上がると、アークがすでに朝食を食べている光景が視界に飛び込んできた。


 ああ、そうだ。コイツはいつも私をほったらかして勝手に1人でさっさと食事を済ませるヤツだった。侯爵家では家族全員で食卓を囲んで食事をとっていた過去の私はそれも嫌で仕方なかったんだ。


「ねぇ、前から思ってたんだけど、食事くらい一緒に食べればよくない?」

 大声で話しかける私に、食事を終えたアークはフキンで手を拭きながらフンと鼻を鳴らして面倒くさそうに答えた。

「何故お前と一緒に食事をせねばならないんだ。そもそもお前が起きるのを待ってたら授業までに食えないだろうが」

「じゃぁ、起こしてよ」

「なんで俺がそこまでしなきゃならないんだ。昨日から急によく喋りやがる。俺に話しかけるな」


 冷たくそう言い放つとアークは席を立ち、部屋の隅にある自分の机へと向かった。

 全く。かわいげのない12歳だな。反抗期か?


 テーブルの上のバスケットの中を覗くと私の好きなベーグルパンが残してあった。そう、それでもアークは早い者勝ちの食べ物はいつも私の好物には手を付けず残しておいてくれる。そういう優しさはある。しかし1回目の人生のときはそれをウザく感じていた。というより、第二皇子で黒髪な上に、憎まれ口を叩くアークに腹を立てていた私は、彼のすることの全てが気に入らなかったのだ。


 まぁ、あのときは私も悪女な上に幼すぎてアークのことを言えた義理では無かったけども。


 不意にドアからノック音が響いた。

「イベリス妃殿下、ご実家のマルタントル侯爵邸からお手紙と贈り物が届いております」

 ドア越しにメイド兼護衛のルーシーが話しかけている。

 

 なんとなく気まずい気分になり、アークに視線をむけると、アークは机で本を読んでいた。


 側室の子である彼は親族からの手紙や贈り物をもらったことがない。だからといって私が後ろめたくなったり遠慮するのは見当違いなのは分かっているけど、どんな気持ちでこのやり取りを聞いているのかと思うといたたまれなくなる。


 急いでドアを開けると、控え目な声で自身のクローゼットを指さしながら言った。

「あ、ありがとう。クローゼットの中に入れておいてちょうだい」

「クローゼット……ですか……?」

 部屋に入ったルーシーは、不思議そうな顔をしながらも私の言った通りにクローゼットの中に両手一杯に抱えた箱と手紙を置くなり「廊下に待機してますので何かあったらベルを鳴らしてください」と言い残し、出て行った。


 気付けばアークもいなくなっていた。授業を受けに行ったのだろう。

 私は朝食が並んだ丸テーブルにつき、ベーグルパンを口に運びながら思い出していた。


 アークはこの宮廷内において、皇后の息のかかった一部の者たちから陰湿ないじめを受けている。アーク宛ての荷物や手紙はそいつらの手によって、勝手に処分されているのだ。そしてアークはそれに気付いていない。故にアークは実の母親にさえ見捨てられていると勝手に思い込んでいる。こういう環境で育ったのだから彼の性格が歪んでいるのは仕方ないのかも知れない。


 皇后が何故アークにこんなことをするのかというと、自分の息子であるリックより身体能力も頭脳も共に優れていることが気に入らないからだ。こんなことをしていると知ったらリックは間違いなく皇后を軽蔑するだろうに。まさに毒親である。


 そして私が何故そのことを知っているのかというと1回目の人生の時にその現場を目撃したことがあったからだ。


「でもそれっていつだったっけ……?」

 眉間にシワを寄せて目を閉じベーグルパンを噛みしめながら考えた。


 えーと、たしか、どこかへ向かう途中……そうだ、ここに嫁いできて最初の授業の日だったわ……って、明日じゃん!

 

 思い出したと同時にベーグルパンが気管に入りこんだ。ヤバい、苦しい、死ぬ。むせながら急いでオレンジジュースを口内に流し込み、胸を何度も叩きながら涙目で決意した。


 よし、決めた。明日、アークへの贈り物を取り戻して、お母さんからの手紙と贈り物をアークに届けてやろう。


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