⑨シャルミンの回想・6
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アモンド家の屋敷は普通の家の50倍はあり、小さな村が収まるほどの大きさだった。まるで宮殿のような立派な母屋から離れた、敷地の隅にある小さな家にルティアは1人で暮らしていた。
ベッドの上で、上半身を起こして本を読んでいたルティアは俺を見るなり、笑顔で頭を下げ【こんばんは。ルティアです。】と書いた紙代わりのブラックボードを胸の前にかかげた。
レイルはルティアにウソをついていた。
ひったくったバッグを返したのは、俺自身であり、後悔と反省をしており、罪滅ぼしにルティアの面倒をみたいと申し出たというウソを。
何でも信じやすく、欺されやすく、誰でもすぐに許すルティアは、俺の目にはバカに見えた。身体が不自由なうえに性格までもがそれでは、弱者の中の弱者だ。
だが俺はルティアの信用を得るために反省をしている演技をした。
「本当にすまなかった。足、一生動かなくなったと聞いた。俺が責任をもって面倒をみる」
ルティアに顔を向けたまま、ゆっくりとそう言うと、俺の唇の動きを読み取ったルティアはブラックボードに文字を書き、自らの胸の前にかざした。
【馬車にひかれたのは私の不注意です。気にしないでください。私なんかのためにあなたの人生を犠牲にしないでください】
ああ、知ってるよ。馬車にひかれたのはあんたの不注意で俺に咎は無い。
俺は微笑を浮かべ、友好的に振る舞った。
「犠牲だなんて思っていない。俺に世話を焼かれるのは嫌か?」
ルティアは目を上に向け、少し考えると、ブラックボードの前の文字を布で消し、新たな文字を書いた。
【はい。男性に身の回りの世話をされるのは少し抵抗があります。すみません。でも、友達になれたらうれしいです。私は今まで友達がいたことがありません。】
ああ、まぁ、そうだわな。女の世話は女にやらせるべきだ。
「じゃぁ、困ったことがあったら言ってくれ。いつでも手を貸す。俺たちは友達だ」
ルティアは満面の笑みで頬を真っ赤に染めると、瞳を輝かせた。
【ありがとうございます!友達になれてうれしいです!】




