⑨シャルミンの回想・2
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俺の記憶は転生の際にリセットされることがなく、ずっと過去世まで覚えている。
イベリスに出会ったのは千年前、別の惑星でだった。そのときの俺の名前はベクトでイベリスの名前はルティアだった。
当時の俺はストリートチルドレンでスリやひったくりを繰り返して生活をしていた。それが悪いことだなんて微塵も思っていなかったし、この世は弱肉強食、喰うか喰われるかで、俺はひったくりという形で弱者を喰っていただけ。そう思っていた。
14歳のある日、いつものように街で獲物を物色していた俺が目をつけたのは、高そうなワンピースとネックレスに身を包んだ俺と同世代の女だ。それがルティアだった。
手に持つ高級そうなバッグに狙いを定めた俺は、足取り軽く、いつものように獲物に近づくと、ルティアからバッグをひったくり、猛ダッシュで逃げた。
振り返ってみると、ルティアは必死になって俺を追っていた。だが俺の足に女が追いつけないことは分かっている。俺は馬車や車が走る道路を渡り、対向にある歩道に足を踏み入れた。そのとき、馬の叫び声が聞こえ、それに続いて女たちの悲鳴や人々のざわめいた声が響いた。思わず振り向いて足を止めたと同時に、大人の男たちに囲まれてしまった。
「さっきひったくりした小僧だな」
「兵に突き出してやる」
逃げ場を失った俺は地面に押さえつけられ、そこに駆けつけた兵に捕らえられた。
クソ。とんだヘマをした。




