⑦アークのトラウマ・5
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俺は黒髪という印象が強いため、ウィッグをかぶるだけで俺ではないという先入観を植え付けやすい。
茶髪の騎士に変装した俺は、堂々とダイヤモンド宮殿に入り、皇帝の部屋前で警護をしている騎士を殴って気絶させて部屋に入った。思った以上に警備を突破するのは簡単だった。
皇帝の部屋に入ってすぐ、花の良い香りがした。俺とイベリスの部屋よりも広いその部屋は、至る所に色とりどりの花が飾られていた。天井や壁や床は全て、見たことのないオーロラのような石――オパールとは違い、緑や紫の光が溶けるようにうごめいている石――で出来ており、壁一面の透明な窓ですら、よく見るとオーロラの光が流れていた。そして、そこからは陽光が虹となって差し込んでいて、幻想的で心奪われる部屋だった。
なんだ?この部屋は?
思わず見とれていると横から声がした。
「誰ですか?」
透き通る凜とした声に振り向くと、長い黒髪の綺麗な女性が立っていた。まだ10代にも見える彼女ではあったが、その髪色で誰なのかを確信した俺は、ウィッグを取り、自らの黒髪をあらわにして呼びかけた。
「母さん……」
俺の姿に目を見開いた母さんは、両手を口に添えると顔を真っ赤にさせ、涙を流し始めた。
「どうして……」
俺と母さんは互いにゆっくりと歩み寄り、やがて駈けだし、抱きしめ合った。母さんは俺に頬ずりをし、むせび泣きをしながら声を絞り出した。
「アーク……アーク……!」
母さんの身体は震えていた。
俺は涙を流しながら目を閉じ、母さんの温もりに身体をゆだねた。




