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⑦アークのトラウマ・1

○●○1○●○


 イベリスは言った。

『16歳になったら離婚してあげる』

『私も恋愛して好きな人と結婚したいし』


 そんなことは許さない。俺はもうお前を手放してやる気など何処にもないんだ。失踪して平民になるだって?平民がどんな暮らしか分かっているのか?特に若い女の独り暮らしでの強姦被害は絶えないと聞く。そんな場所に行かせる訳ないだろ。失踪は全力で阻止する。


 お前に惚れてすぐ、俺はイリアムを護衛につけた。それは、お前の身の安全が本当に心配だったからだが、心のどこかで計算をしていたのも事実だった。イリアムが護衛についている限り、お前は勝手に失踪はできない。何故なら、


「お前が失踪すればイリアムが責任を問われ、罰を受けることになるからな」


 夕食をとっていたイベリスは驚いた顔をして俺を見た。

「そっか……そうだね……16歳になったら護衛から外してもらわないと」


 フォークとナイフで肉を切りながら当たり前のように言うイベリスに腹立たしさと淋しさを感じた。

「16になってもイリアムの護衛は外さん。……お前はそんなに俺と居るのが嫌なのか?」


 一瞬呆然とした表情で俺と目を合わせたイベリスは、驚いたように身を乗り出すと、強い口調で言った。

「そんなことないよ!」


「じゃぁ、なぜ未だに俺と離婚をしたがるんだ?」


「それは……」

 口ごもらせ、しばし沈黙した後視線を落として小声を出した。

「……アークは将来私なんかより素敵な人と再婚するからよ……」


「どういう意味だ?再婚なんかする訳ないだろ。俺はお前と離婚する気はない」


 イベリスは憂いを帯びた笑みを浮かべて俺を見つめ、何も返事をしなかった。


 俺以外の男と恋愛結婚をするから俺にもそうしろと言いたいのか……?言い知れぬ怒りが込み上げてくる。俺は怒りを抑えながら言った。

 

「言っておくが俺はお前に惚れている。どうあがこうが他の男には渡さない」


 イベリスは僅かに目を見開くと「え……?」と声を漏らし、しばらく呆然としていたが、次第に顔を真っ赤にさせると、切っていた肉を滑らせて床に落とし、肘で水の入ったグラスを倒し「惚……え……!??」と動揺していた。


 彼女が俺に気が無いことは知っている。


 いくら婚姻関係にあるといえども、彼女の心を手に入れない限り、本当の意味で俺のものにならない。どうすればイベリスを手に入れることが出来る?


 たぶん正確な答えなどどこにも無いのだろう。けれども俺は、生まれて初めて知った愛を、お前を、手に入れるためなら何でもやろうと思った。


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