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⑥イベリスの失踪計画・5

○●○5○●○


「どうしよう……お店メチャクチャになっちゃった……ライムさんと旦那様に何て言えばいいの?」

 泣きべそをかいていると、店の奥から赤ちゃんを抱っこしたライムさんと旦那様が出て来た。


「なんだい?騒がしいねぇ」

「どうかしたのか?」

「あ、あの、すみません……変なノミのおじさんがやって来て、店内を壊してるんです……!」

「ノミ……?」

「誰もいないよ?」

「え……?」


 振り向くと、ノミのおじさんは居なくなっていた。アークが私の肩を抱きながら言った。

「妻が店を任されている間にこんなことになってしまい、実に申し訳ない。これは全て妻の責任です。彼女の預金から弁償させますので、それで許して頂きたい」


 私の頭の中は真っ白になった。

「え……?」

 ……あ、でも、そっか……私が悪いのか……ん……?私が悪い……の……?


 混乱する私を尻目に話は進んでいった。


 ライムさんは口元に人差し指を添えてやや嬉しそうに答えた。

「ん――?じゃぁ、761万8千713チャランをもらおうかねぇ?」

 

 え……761万8千713チャラン……?高すぎない?下手したら安い一軒家が買える金額じゃない!てか、なんでまだ見積もり出してないのにそんな具体的な金額が出てくるの……?てか、761万8千713チャランってどこかで聞いたことのある金額のような……


 ハッとした。


 私が失踪するために貯めた貯金の全額じゃない!!!


 そのとき壊れたドアのほうからヒールの音が響いた。見ると、平民の格好をしたルーシーが私の貯金が入ったボストンバッグを片手に姿を現した。


「イベリス様の貯金761万8千713チャランをお持ち致しました」


「え?!なんでルーシーがいるの!?てか、なんでそのボストンバッグのありかを知ってたの!?」

 そう、全貯金を入れてあるあのボストンバッグは失踪するときにいつでも持ち出せるようにクローゼットの奥に隠してあったものだ。


 私はアークの顔を見上げた。アークは微笑みながら言い放った。

「失踪するために貯めた金など全て消えてなくなってしまえ」

 

 私の中に電撃が走った。

 ――――まさか――!!!!!

 

 まさか、ライムさんや変なお客さんやノミのおじさんとかも含めて全部、アークが仕組んだことなの……!!!?でも、このパン屋さんを選んだのは私だよ?!え??なんで??ていうか、


「ヒドイ……!!!!」

 

 私の肩を抱くアークの腕を振り払った。

「アークも兄さまもルーシーもヒドイよ!!私がこの4年間どれだけ大変な思いをして失踪の準備をしてきたと思うの!?お金が無かったら失踪できないじゃない!!!」


「いや、失踪するなと言ってるだろ」

「ごめんね、兄さまはイベリスが失踪して居なくなるのは寂しいんだ」

「失踪などさせません」


 ていうか、アークのために失踪しようとしてたんだよ!?あと半年しか時間ないのに、どうすればいいの……?


 私たちのやり取りを見ていた旦那様が言った。

「イベリスちゃん。キミのご主人はキミのことを本当に大事に想っているよ。平民の中でも裕福なかたらしいし、わざわざ失踪して苦労する必要はないだろう。女性が1人で生きていくにはこの世界は危険で厳しすぎる。それでもどうしても失踪したいというなら、そのときは僕たちのところへ来ればいい。話を聞いてあげるから」


 リックの3歩手前みたいな顔をした旦那様は、柔らかい笑みを浮かべた。ああ、私が結婚生活に不満を持っているって思ってるのね。違うけど、優しい人だということは分かる。

 旦那様と見つめ合っていると急に視界が塞がった。アークが私の目を手で塞いだのだ。


 背後から私の目を両手で塞いだアークはそのまま私の後頭部を自分の胸に押しつけた。


「ご協力ありがとうございました。それでは私たちはこれで失礼します」

 アークはそう言うと、背後から私の両脇に両腕を突っ込み、そのまま抱き上げて歩き始めた。アークが歩く度にその振動で私の身体がブランブランと揺れて、掛け時計の振り子のようになった。道ゆく人々が私たちを見て笑っている。


「やだ!なんでこんな抱き上げ方するの!?自分で歩けるからおろして!!」

「失踪を企てた罰だ」

「やだ!おろしてよ!!」


 足でバタバタと宙をかいて抵抗するが、それすら滑稽なのだろう。人々が私を見てクスクスと笑っている。私は恥ずかしくてうなだれた。


 ああ、あと半年でお金も何とかしなきゃいけなくなったよ。どうしよう。

 けれども、今背中に感じるアークの温もりや、イリアムとルーシーの温かい眼差しを手放したくないと思っている私がいるのも事実だった。


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