序章3 転生の条件、そして・・・
神様が消えた所で俺は再び考え始めた。
ガイドブックを読んで疑問に思った事も、大体の事情はわかったので、いよいよ本格的に転生条件を考えよう。
旅の風来坊で転生するのは決定として、能力と持ち物はどうするか?
魔法を全部知っていて、レベル900というのも確かに凄いが、それではどうも面白くないし、いきなり全ての魔法を使いこなすのも大変そうだ。
それを知った周囲の反応も怖いし、化け物扱いされるのも、自分としてはあまり好ましくはない。
それにろくにあちらの世界の事情を知らない俺では、誰かに利用されてしまうかも知れない。
やはり魔法はある程度順番に覚えていった方が良いだろう。
それにレベルアップの楽しみもある。
剣と魔法の世界で、いきなり最初からレベルが900で、その後全く同じというのは正直自分的にはつまらない。
しかしそうかと言って、レベル1から始めるのは流石に危険だろう。
これだけ考えて転生したのに、いきなりその辺の最弱モンスターにやられて死ぬのは悲しすぎる。
うん、レベル1はやめておいた方がいいな・・・もう少し上のレベルから始めよう。
それならば余程の事がない限り、いきなり死ぬ事はないだろうし、レベルアップも楽しめる。
不安な部分は装備を良い物にすれば大丈夫だろう。
魔法もいくつかの初歩的な魔法だけで、後は順番に覚えて行けばよいだろう。
そういう意味では才能数値はやはり高い方が良いだろうな。
しかし全ての数値を99にするのも気が引ける。
どうするべきか悩む所だ。
一方、持ち物の方はどうするか?
まず金貨・銀貨の貨幣の類はマギアサッコに入るだけは貰っておいた方が間違いないだろう。
そこなら持ち運びの邪魔にもならないし、誰かに盗られる心配もない。
金というのは持っていなければ困る時は往々にしてあるが、ありすぎて困るという事はないのは前の人生で学んでいる。
マギアサッコに限界ギリギリまでの貨幣をもらって、後は何枚か簡単に持ち運べる程度の枚数の金貨や銀貨を貰えばよいだろう。
20枚・・・いや、10枚前後で良いだろう。
装備品は後で考えるとして、後は最初は魔法力も少ないだろうから、回復薬と毒消し、それに魔法の体力回復剤辺りを目一杯もらっておけば大丈夫だろう。
他に持ち物で最初から持っておくべき物は何だろう?
普通に考えれば携帯食料と水、水筒ってとこだろうな。
まあ、詳しい状況がわからないと何とも言えないし、金を十分持っていれば、普通に考えて大抵の事は何とかなるだろう。
しばらくの間、色々と考えて、何とか転生条件を考え終わった俺は、再び神様を呼ぶ。
「神様、決まりました」
即座に神様が現れて、話しかけてくる。
「いよいよ決まったかい?」
「はい」
「では聞かせてくれ」
「わかりました。
それでは私の転生の条件を言います」
「うん」
「かなり贅沢な事になってしまいましたが、本当にそれで良いのでしょうか?」
「もちろんさ」
俺は考えをまとめて紙に書いた事を順番に読んでいく。
心なしか神様がわくわくしているように見えるのは気のせいか?
「まず能力の方ですが、最初のレベルは10で結構です」
「へえ?10でよいのかい?」
これは自分でも散々迷った事だ。
この世界ではレベルは1から999まである。
通常は5から30前後位らしい。
つまり900とは言わないまでもレベル100辺りで転生すれば、およそ敵はいないだろう。
しかし、それではレベルアップの楽しみがなくなるし、正直自分がどれほど強いかもわかりづらい。
少々危険かもしれないが、あえてレベルは10にしたのだ。
これならばいくら何でも転生して、すぐに即死という事はないだろう。
「ええ、その位でないと楽しめそうにないので・・・
その代わりと言っては何ですが、転生する場所はレベル5程度でも相手になる物しか出てこない場所にしてください」
少々臆病かも知れないが、何しろ自分の命がかかっているのだ。
これは用心深いのだと自分では思っておこう。
「承知した」
「魔法は一番下の火炎魔法と凍結魔法、同じく、最低の回復魔法、それと一番低い使役物体魔法と鑑定魔法、照明魔法だけで良いです」
「それも、たったそれだけで良いのかい?」
「ははっ、あとは徐々に覚えていきますよ。
毒とか麻痺とかは装備で何とかなるんでしょう?」
「ああ、そうだよ、状態異常回復装備をしていれば、毒を食らってもすぐに無毒化するし、麻痺や石化も大丈夫だ。
せいぜい数秒動けなくなる程度で済むし、レベルが上がれば全く無効さ」
「それなら最初はその程度で良いと思います。
残りは後のお楽しみという事で」
これもレベル同様、十分に考えた事だった。
毒や麻痺などの状態異常は恐ろしいが、それは全状態異常回避の装備があれば、大丈夫なので、最初は純粋に回復魔法だけで十分だろうと判断した結果だった。
「うん、そうして楽しみながらやっていってもらって結構だ。
しかし最低の攻撃魔法ってのはどっちの事だい?」
「え?ああ、そうですね・・・」
言われて思い出したが、この世界の攻撃魔法には2種類あるのだ。
例えば火炎魔法を例に取ると、魔法力を10消費して火炎を出す魔法と、自分の魔法力の最大魔法力を1%消費して火炎を出す方法の2つだ。
10ポイント消費する方の攻撃は誰がやっても同じ攻撃になる。
レベル1の人間が出す魔法火炎もレベル100の人間が出す火炎も威力は全く同じだ。
しかしパーセントによって変化する方は、例えば1%魔法なら魔法力が100に達しない場合は発動しない。
100を超えれば初めて発動するが、魔法力が1の威力では、せいぜい相手を火傷させる程度だ。
しかし、もし魔法力が一万を超える魔法使いが1%魔法を使ったなら、それは魔法力を100も消費するので、恐ろしいほどの威力になる。
どっかの漫画の大魔王様の「メラ○ーマではない、余のメラだ」って奴だな。
つまり神様は、定数消費型攻撃魔法と魔法力比例型攻撃魔法のどちらにするか?と尋ねているのだ。
レベルの低い時は、定数魔法の方が威力が強いだろうが、レベルが上がるに従って、魔法力比例魔法の方が威力は強くなる訳だ。
俺は少々迷ったが、ここは両方共にしておいた。
「それは最初は両方ともお願いします」
「なるほど、それと鑑定魔法もいくつかあるんだが、どれにする?」
「最初は一番基本の鑑定魔法で良いです。
あ、でも完全鑑定魔法もつけておいてください」
「完全鑑定魔法はレベルがかなり高くならないと、発動しないが良いかい?」
「どれ位のレベルが必要でしょうか?」
「その人の魔法の才能によるけど、君だったらレベル250程度で発動するようになるんじゃないかな?
300もあれば、間違いなく使えるようになると思うよ」
「わかりました。それで構いませんのでお願いします」
「それに鑑定魔法はあまりレベル差があると、相手の数値や情報がわからない部分も出てくるからね?」
「はい、わかりました」
「うん、それから?」
「自分自身に戦闘経験値30倍増というのをつけたいのですが、できますか?」
これはつまり自分の経験を30倍にして、レベルを通常の30倍の速さで上げていこうという作戦だ。
これなら単純計算で、普通の人間が1ヶ月かけて上げるレベルを1日で可能なはずだ。
「それはちょっと難しいな・・・まあ、何とか大丈夫か。
なるほどそれならレベル10から始めてもすぐにレベルが上がっていくから良いね」
「はい」
「それから?」
「基本は人間男子で肉体年齢は15歳くらいで、見た目は、そうですね・・・
相手に警戒心を持たないで欲しいので、童顔で幼い感じ系な顔にしておいてください。
女子と見間違う位でも良いです。
そして3百年位をかけて見た目が30歳位までになって、その後は不老で、寿命は500歳くらいにしてもらえますか?」
相手に警戒されないように少年の姿というのは事実だが、それの他に俺はオネショタ大好き人間で、はっきり言って「お姉さんと少年」という関係に憧れている。
私はオネショタが好きだ。
諸君、私はオネショタが好きだ。
諸君!私はオネショタが大好きだ!
隣のお姉さんと坊やでも良いし、学校の先輩と後輩でも良い、
金持ちの息子とその年上メイドなども最高だ!
女教師と少年など心が踊るッ!
と、どこかの少佐のように演説をしたくなるほどだ!
残念ながら前世では縁がなかったが、今度の世界では是非それを実行したいと思って、それにふさわしい容姿にしてもらう事にした。
これなら3百年近く時間はあるので、きっとオネショタを体験できるに違いない!
出きるといいな。出来て欲しい・・・うん。
少々弱気だが、設定は自ら作った。
後は俺の行動次第だろう。
我ながら言いたい放題だなと思うが、神様は涼しい顔で答える。
「人間の男子で肉体年齢は15歳だけど、顔は童顔女子系、それだと見た目は12・3歳くらいになるね。
3百年かけて見た目は30歳に、不老で寿命は500年と、承知した。大丈夫だよ」
「才能は魔法関係だけ99で、あとは70から90位にしておいてください」
「承知した」
この数値なら魔法関係は完璧だし、他の事でも、そうそう困る事もないだろう。
次は装備以外の持ち物だ。
持ち物はマギアサッコがあるので、かなりの数を持てるのが嬉しい。
しかもマギアサッコにはかなり大きな物、自分が手で持てる位の物ならば入れられるようだ。
コインロッカーのように番号が1番から99番まであって、大きな番号ほど中が大きいようだ。
これは中々使い手がある。
そして、もちろん普通のリュックの中にも物を入れる事もできる。
「持ち物は、まず大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨をそれぞれ999枚ずつ、マギアサッコに入れる分は全て入れて、それ以外にその6種類を11枚ずつ、金貨・銀貨・銅貨で分けて3つの小袋にでも入れてください。
それとそれを入れる背袋というか、私が前世で使っていたリュックのような背嚢を一つ。
これはちょっとやそっとでは壊れない丈夫な物をお願いします。
それと同じ物を10個マギアサッコに入れておいてください」
これで貨幣のマギアサッコは全て満杯で、それの他に金貨や銀貨・銅貨がそれぞれ11枚ずつ袋に入るはずだ。
もちろんマギアサッコの他の部分に貨幣を入れる事も可能だろうが、そんなに貨幣ばかり入れたら、他の物を入れる場所がなくなってしまうし、小袋に分けたのは、転生した後に普通に使うために、最初から持っている分もあった方が良いだろうという判断だ。
それにマギアサッコに入れた分の金貨だけでも、令和の世の日本で言えば、数億円分の価値があるのだ。
まず当分はそれで大丈夫だろう。
「わかった」
俺の希望を神様があっさりと了承する。
「そういえば、アースフィアでも、魔法で金とか銀を合成する事は出来ないんですよね?」
「ああ、そうだよ。
魔法でも元素の合成は出来ない。
もし、そんな事が出来れば、金や銀の価値がおかしくなるし、そもそも金貨や銀貨の流通が成り立たなくなるからね。
ただし、魔素で見かけや強度は似たような物を作れるけどね」
「では、金や銀の価値は地球と同様で、かなり希少で高価ですね?」
「うん、だから金貨や銀貨が流通貨幣になる訳だからね」
「アースフィアの重さの単位って何ですか?」
「グラムに相当する物は「ガルン」だね。
重さの差もほとんどない。
地球と同じように4℃の水を重さの基準にしているからね。
1グラムは1ガルンだと思ってかまわないよ。
ちなみに1キログラムは1カルガルンだ」
「それでは金の延べ板を10カルガルンにして100個ください。
それと1カルガルンの延べ板も100個」
「了解した」
その俺の途方も無い要求も、神様はあっさりと承知する。
この際だ。
何でも持たせてもらえるのだから、転生先での金銭に関する心配は無くしておこう。
これで俺の金の所有量は地球の重さで言えば、1トン以上になるはずだ。
アースフィアでの相場はわからないが、金銀の価値は地球よりもずいぶん高いようだから、これだけ貨幣と金の延べ板を持っておけば、よほど馬鹿な事をしない限り、一生金には困らないはずだ。
経済的な問題に関しては、これで一安心だ。
「後はベルトに通せるポーチみたいな物をお願いできますか?」
「君が生前つけていた物みたいなのかい?」
「そうです。中身も出来れば同じように」
「残念ながら携帯電話や懐中電灯みたいな物はないので、それは無理だが、小型望遠鏡と十徳ナイフは大丈夫だよ」
そう、俺は生前、腰のポーチに携帯の他に、小型の望遠顕微鏡やら十徳ナイフ、小型の懐中電灯やらを常に入れて歩いたのだ。
まあ、電気製品は全滅だが、それは仕方がないだろう。
「では代わりに小型望遠顕微鏡を3つと、十徳ナイフを3つ、それと腕時計って、アースフィアにありますか?」
「残念ながら一応機械式の時計はあるが、腕時計みたいな小さな物はないねぇ・・・
役所の塔についているような大きな物だけさ。
一番小さくても両手でやっと抱える位の大きさかな?
それより小型の時計と言える物は、砂時計と日時計くらいしかないね」
「なるほど、そう言えば時間の感覚って、地球と同じですか?」
「ああ、そのために私は地球を探したのだからね。
公転周期、自転周期、年月日、時分秒などは、ほぼ地球とアースフィアは感覚も翻訳名称も一緒だよ」
それは助かる。
俺は一安心した。
「他には?本当に何でも遠慮なく言っておいた方が良いよ?」
「では、遠慮なく」
俺は本当に遠慮なく言った。
魔法瓶金属水筒(水入り)、フライパン、コッヘル、包丁、飯盒、ナイフ、フォーク、まずはこれらを10個ずつ頼んだ。
材質はステンレスやアルミ、チタンなどを希望したのだが、それらはまだアースフィアでは発明・発見されていないという事で却下された。
しかし、ミスリルがそれに近い材質で、軽く、丈夫で、さびたりしないので、全てそれで作ってもらった。
どうもミスリルというのは、神様の話によると、チタンとアルミと銀の特殊な合金で、それを魔素で強化された物らしい。
もっともミスリルの包丁はともかく、他の物をミスリルで作るなんて、普通はもったいなくてできないそうだ。
うん、確かにミスリルのフライパンだの、飯盒なんてのは、あまり聞いた事がない。
きっとかなり贅沢品だな。
他には、石鹸、タオル、丈夫な紐、爪きり、耳かき、さらに高倍率の双眼鏡、大工道具一式なども99個用意してもらった。
逆にキャンプだったら必須のランプとかマッチの類は必要がないという事にも気づいた。
両方とも魔法で代用可能なので必要がないのだ。
それから高倍率の反射望遠鏡と顕微鏡もいくつか倍率を変えて、いくつかもらっておいた。
あれから色々と考えたが、要はキャンプやサバイバル生活的な物を想定して、そういった品物を希望すれば良いと気がついた。
キャンプとの違いは期限が無期限で、魔法が使えて、電気製品がなく、持ち物が普通のリュック以上にたくさん持って歩けるという点だ。
そんな訳で、俺としては、他に折りたたみ式のテーブルや椅子をいくつか、10ℓ給水タンク(水入り)を10個、用意してもらった。
さらに俺としてはテントや寝袋も欲しかったのだが、俺の望んだ物は、あちらの世界では材質的に難しいし、そもそも魔物がいる場所で、普通は夜テントは張らないとの事だったので、どうしようかと考えた。
しかし何かの時に使う可能性はあると思ったので、テントの方は材質を変更して作ってもらった。
骨組みの部分はアレナックという金属にして、内張りは絹に、外張りは耐水性の布にした。
両方とも下部はゴムだ。
寝袋はそれほど材質を変える必要はなかったので、ほぼ21世紀地球と同じ物が出来た。
筆記用具の必要も感じたので、鉛筆1グロス箱、24色の色鉛筆セット、万年筆、インク、ノート1グロスセット、消しゴム、小型鉛筆削りなどは99個用意してもらった。
他にものりや鋏など文房具を色々だ。
変わった所ではソロバンや計算尺、三角関数表など計算関係の道具や様々な定規、定数一覧表も用意してもらった。
俺は理系だし、何かの時に必要になるかも知れないからだ。
特に物理定数一覧表は、かなり地球、いや、俺のいた宇宙と数値が違うそうなので、必須だ。
聞いた所によると、光速は同じらしいが、重力定数などは当然違う。
これは比較のために地球とアースフィアの物を比較一覧にして用意してもらった。
もっとも魔法に関する事項は地球側の欄は空白だ。
「ちょっと聞きたいのですが、あちらでは軍略とか兵法とかは、どの程度進んでいるのですか?」
「いわゆる、戦略とか戦術とかかい?」
「そうです」
「はっきり言ってぜんぜん進んでいないね。
何しろ魔法が便利だからそれに頼る場合が多い。
基本戦争は力押しだ。
あまり戦争で複雑な策略とかは考えないね。
もっとも馬鹿馬鹿しい事に、宮廷とかの権謀術数とかは君たちの世界と同じくらいに発達しているけどね」
「では孫子の兵法に当たる物や、ランチェスター戦略などは?」
「全然無い」
「では孫子の兵法を持っていきたいです」
「日本語とアースフィア語と、どちらが良いかな?」
「両方ください。日本語は3冊で、アースフィア語は10冊」
「わかった」
あちらでいつか孫子の兵法を教える事があるかもしれない。
そう考えた俺は多少多めに本を要求しておいた。
「それと百科事典的な物って、アースフィアにありますか?」
「残念ながら近い物はいくつかあるが、まだ地球のように系統だって、きちんとした物は作られていないね」
「では、それを神様が作って、私にもらえますか?」
「それは構わないんだが、どの程度の基準で作ればいいんだい?」
「では2種類作って、一つは一冊で収まる程度の物を100冊、もう1種類は、20巻で解説してある程度の詳しい百貨辞典を5セットください」
「承知した」
「それと日本語で書かれた21世紀の地球の百科事典も20巻を5セットお願いします」
「わかった」
地球の知識もいつ必要になるかわからない。
念の為に俺はそれも頼んでおいた。
それ以外に本は折り紙の折り方、料理と菓子作りの本など、趣味の物をいくつか頼んだ。
趣味の物と言えば、マトリョーシカとか、ルービック・キューブなどの俺は好きだけど、あちらでは入手困難そうな物もいくつか頼んでおいた。
特に俺はルービック・キューブが好きなので、これは100個だ。
それともう一つ趣味の物では、あちらの世界の太陽系儀、すなわちラディ系犠を5つほど頼んでおいた。
こちらの「太陽」に相当する物は、あちらでは「ラディ」と言うそうだ。
俺は生前は天文関係も好きで太陽系儀を持っていたのだが、いつかあちらで自分の家でも持った時に、玄関か自分の部屋にでも飾りたいと思ったからだ。
それ以外にもいくつかの物を頼んで、神様は全て了承してくれた。
そして次はいよいよ肝心の武器鎧などの装備に入る。
「武装は3倍攻撃効果と魔力吸収効果のある鋼の剣を99本と、同じ効果のあるミスリルの剣を10本、同じ効果のミスリルの短剣を20本と・・・」
「うむ」
俺が次々に武器を注文すると、神様は次々とそれを了承する。
武器は結局全部で15種類ほどで、本数も随分な数になった。
次は鎧と盾系だ。
「魔法の鎧と服には、全異常状態回復と冷熱遮断、体力回復と魔法力回復、それと耐電効果をつけてください」
「了解した」
俺はあまり鎧等には興味が無いために、こちらは10種類ほどで、500個ほどになった。
「それと同じくオリハルコン製で、全異常状態回避と冷熱遮断、体力回復と魔法力回復、それと魔法力消費10%の5つの特殊効果を持った指輪を20個マギアサッコに入れておいてください。
同じ性能のゴルドハルコン製の物も10個」
さすがにあまりに高度な特殊効果の物をたくさん作りすぎると後が怖いので、せいぜい20個に留めておいた。
さらにいくつかの効果をもった指輪や腕輪の類を何種類か頼んだ。
単なる魔法力消費10%のミスリル指輪は100個、ついでに同じく魔法力消費半分のミスリル指輪も300個も頼んでおいた。
まあ、これぐらいは良いだろう。
それと魔力回復剤を3種類と、体力回復剤を100個ずつだ。
それ以外には魔物を呼び寄せる鈴など、少々変わった品物を頼んでおいた。
持ち物の最後は食べ物関係だ。
と言ってもこちらはあまり大した事はない。
当然の事ながら基本は宿などに泊まるつもりだからだ。
それでもマギアサッコがあるので、米、もち米の10kg袋を10袋ずつ頼んだ。
両方とも籾と白米の状態で、それぞれ10袋ずつだ。
さらにジャガイモとさつまいもを10kg箱で10個だ。
それと小麦粉、塩、大豆、小豆、青海苔を2kgの袋で10袋、砂糖とだしの素は30袋、日本酒も1升瓶で30本と、醤油は一升瓶と卓上小瓶で10本を頼んだ。
日本人が海外旅行する時は塩、醤油、だしの素は必須だ。
砂糖が多いのは、アースフィアでは砂糖は贅沢品だと聞いたし、醤油は存在するらしいが、かなり地域限定と聞いたからだ。
日本酒も近い物は地域限定であるそうだが、何かのために持っていた方が良いだろうと判断した結果だ。
大豆もあるらしいが、あちらで探すのも面倒だし、それがあれば、醤油も含めて、色々作れるだろうと考えたからだ。
こちらも変わった所では粉ミルクの缶を20缶頼んだ。
これは何となく使い所がありそうだったからだ。
それと治療魔法はあるが、薬類を解熱剤や栄養剤などを何種類か、大小100瓶ずつ頼んでおいた。
他にも乾パンや干し肉など、いくつかの保存食品も頼んだ。
それとカレー粉や化学調味料など、何種類かの調味料も少々、重曹やイースト菌なども小分けして大量にもらっておいた。
消耗品や食べ物はあちらになくても結構良いらしい。
しかしカップラーメンやレトルト食品の類は頼んだが、却下された。
後は俺が飲みたくなる可能性があるので、飲み物の粉物系、つまり、コーラや炭酸飲料、スポーツ飲料の粉と飲み物がガラス壜に入った物をもらった。
ペットボトルと缶詰はアースフィアにないので却下された。
芋や穀物以外の生鮮食品も考えてみたが、それはやめておいた。
いくらマギアサッコがあると言っても、やはり保存のきく物の方がよいだろう。
但し、スイカの種や柿、リンゴ、蜜柑などの種は、いくつか大量に貰っておいた。
あちらのどこにあるかわからないし、いつか俺が食べたくなる可能性もあるからだ。
それと自分が死んだ場合、マギアサッコの中身がどうなるか聞いてみたが、中身のほとんどは持ち主が死んだと同時にその場に出現するらしい。
だから金持ちの魔法使いなどがマギアサッコに多くの物をしまいこんで死んでしまった場合、周囲は大変な事になるらしい。
ただし100%全てではないので、確実に誰かに渡しておきたい物がある場合は、生きている間に渡しておいた方が良いと言われた。
覚えておこう。
ちなみに魔物が死んだ時に品物を落とす現象は、これと同じ現象らしい。
魔物も規模は小さいが、マギアサッコと同等の物を所持していて、魔物は種類によっては、マギアサッコ内で物を生成したり、特定の物を集める習性があるので、こういった現象が起こるのだそうだ。
これで持ち物関係も終わった。
結構、マギアサッコもギリギリ一杯だ。
空きはわずかしかない。
だが正直、異世界に転生する話や、タイムスリップする話などはたくさんあるが、大抵はいきなり強制的に転移される。
これほど余裕を持って計画し、様々な持ち物を持って行ける例は聞いた事がない。
最初だけで、後からの追加は不可能とはいえ、これは非常にありがたい事だと思う。
十分すぎるほど贅沢だ。
この神様がなぜここまでしてくれるのかは、相変わらずさっぱりわからないが、ここは素直に感謝しておこう。
「後は何かないかな?」
「そうですね、そういえば知識も植えつけてもらえるんでしたよね?」
「ああ、大丈夫だよ」
「では醤油と、砂糖と、日本酒、重曹、グルタミン酸ナトリウム、出汁の素のアースフィアでの詳しい作り方と知識を私の頭に入れておいてください。
実際にあちらで作れる程度の知識を」
この品物は全て基本的な消耗品だし、あちらではあまりないようなので、自分でゼロから作れるようになっておいた方が良い。
一応、材料や製造法は漠然と知ってはいるが、詳しく知っている訳ではないし、実際に作れるかどうかはかなり怪しい。
そう考えて俺は神様にその知識と製造法を頼んでみた。
「なるほど、承知した」
よし、これであちらで基本的な調味料は作れるはずだ。
「海の状況なんかも基本的に地球と同じですよね?」
「ああ、多少海の魔物がいる以外は、基本的に組成も広さ深さの状態なども一緒だ。
魚介類の生態系もね」
うん、これで塩とか魚料理は大丈夫なはずだな。
そして最後はいよいよ転生する場所だ。
「転生する場所は、最初に言ったように、周囲にあまりレベルの高い魔物がいない場所でお願いします。
ただし、近くに生活の根拠地となる場所と、レベル上げに良い場所があるような場所であればうれしいです」
「わかった、そういう場所を考えよう」
「そう言えば、ふと疑問に思ったのですが、魔物って、どういう存在なんですか?
普通の生き物と、どう違うんです?」
「魔物って言うのは、魔素が多量にある空間に濃淡に差があって揺らぎがあると、そこに発生する魔法生物で、最初は肉体がない。
普通の生物とはそこが違うね。
もっとも最初は魔力だけの存在だが、生物を襲って、食べると徐々に現実の肉体を生成するようになる。
そうなると、普通の生き物と大して変わらないね」
「え?では魔物って言うのは、その辺の空間に突然湧き出る物なんですか?」
「一般的にそうだね。
君も転生すれば、いつかは旅の途中で、突然発生する魔物を見る機会も何回かあると思うよ。
まあ、滅多には見ないだろうけどね。
だから人間のいる村や町なんかはその中で魔物が発生しないように魔法で防御結界を張っている場所もある。
野営する時なんかも魔法の防御結界は必須だね。
もっとも一人や二人ならともかく、人間が数十人以上いるような場所では、魔素が人間に吸収されるので、結界がなくても、まず村や町中には魔物は生じない。
逆に場所によっては、強力な魔物が必ず発生する場所もある」
「そうなんですか?」
ボス部屋や固定の敵キャラがいるような場所だろうか?
「ああ、そうさ、他には?何かあるかい?」
「大事な事を言い忘れる所でした。
現地の言葉はわかるように、文字も現地の読み書きができるようにしておいてください」
「それは言われなくても大丈夫だよ」
「それと今言った持ち物の他に、この本とノートも持っていって構わないですか?」
「構わないよ。じゃあ背袋にでも入れておくかい?」
「それでお願いします」
「うむ、他に言っておく事はないかい?
ここで私と別れたら、もう会う事も、願う事も出来ないよ?
あっちでいくら神様お願い!と願っても、それは私には届かない」
神様本人に、初詣で願掛けに行く人間が聞いたら、卒倒しそうな事をさらっと言われた。
転生したらもう神も仏もないってことね?
もっとも何ヶ月か何年かわからないが、散々考えた結果だ。
もちろんこれでもまだ予想もしなかった事や困る事もあるだろうが、贅沢を言ったらきりがないし、そもそもこれだけでも冗談のように贅沢なのだ。
こんな贅沢な人生を始められる人間はまずいない。
考えてみれば願掛けの先渡しみたいな物だろう。
それに贅沢な悩みという物だが、あまりに何でもかんでもありでは面白味にもかけるだろう。
どちらにしても俺の望んだ能力や条件と、持たせてもらった持ち物は、これから行く世界ではあきれるほど有利なはずだし、相当これからの人生は楽になるだろう。
これだけでも十分過ぎるほど贅沢だが、これ以上は自分の力で何とかするしかないし、そもそも本来、それが当然だろう。
「はい、大丈夫です。色々と贅沢な希望を叶えていただいてありがとうございました」
「では、行ってくるがいい」
「はい、お願いします」
「ああ、それと君がオネショタを楽しめるように、体の方は、見た目以外にも、ちょっとオマケしておいたからね」
え?何それ?
最後に聞こうと思った、その言葉と共に俺は意識を失った。
いよいよ新世界へ転生だ。
一体どんな世界だろうか?