序章2 転生世界アースフィア
俺は「アースフィアの歩き方」というガイドブックを広げた。
るるぶとか地球の歩き方みたいな感じで色々と説明してある。
まずはざっと読んでみた結果、かいつまんで言えば、自分がこれから転生する世界「アースフィア」は大きさは地球とほぼ同じ大きさの球体で、いくつかの国に分かれていて、全体を統括する国はない。
その辺は21世紀の地球と同じだ。
ただし、まだまだ空白地帯も多く、人口は21世紀の地球に比べればかなり少ない。
その点は中世の時代らしい。
言語は多少の方言や種族語もあるが、だいたい一つの言語でまとまっている。
通貨の単位はザイで、これはほぼ全世界共通らしい。
通貨単位が違う場所でも、金や銀そのものが通貨として使えるようだ。
従って銅貨はともかく、銀貨や金貨は世界共通の通貨と思って良い。
1ザイ銅貨は十円玉ほどの大きさの銅貨で、価値も同じく10円ほどらしい。
1ザイ≒10円と言う訳だ。
その1ザイ銅貨が10枚で大銅貨1枚、100枚で銀貨1枚、1000枚で大銀貨1枚、1万枚で金貨1枚、10万枚で大金貨1枚になるらしい。
もっとも普段はザイという単位はあまり使わずに、計算する時以外は、金貨何枚、銀貨何枚分、という言い方をする事が多いらしい。
日常のほとんどが銅貨と銀貨で生活し、金貨、ましてや大金貨を使うのはよほど高価な買い物の時らしく、一生で一回も大金貨を見ないで終わる者も少なくはないようだ。
まあ、令和の世の日本で言えば、金貨1枚が約10万円、大金貨なら1枚百万円に相当する。
21世紀日本だって10万円札だの、百万円札だのがあったら、確かに一回も見ないで終わる人はいくらでもいそうだ。
もっともこの換算もあくまで目安であるので、注意に越した事はないだろう。
21世紀日本とこの世界ではかなり価値観が違うようなので、同じ品物があるからといって、価値が同じとは限らない。
そもそも21世紀の地球だって、物の値段は国によってかなり違う。
異世界ならばなおさらだろう。
同じ物でも世界が違えば10倍、場合によっては100倍も違う事だってあるだろう。
実際に家や土地は令和の日本より遥かに安いようだし、逆に本などはかなり高価な様子だ。
そもそも紙の値段が結構高い。
しかし全体的には神様の言った通りに剣と魔法の世の中で、地球で言えば、やはり中世のイメージらしい。
そして奴隷制度もあり、金貨・銀貨で、奴隷の売り買いもされているようだ。
地形も地球と似通っていて、西洋と東洋の概念があるらしい。
そして神様の話した通り、このアースフィアには「魔法」が存在し、それはかなり重要な役目を果たしているようだ。
まあ、魔法なんて便利な物があれば当然そうなるだろう。
ただし、アースフィア全体でも魔法使い自体の存在はそこそこ珍しいらしい。
度合いとしては、大都市ならば数千人もいるが、ちょっと大きな町でも数十人程度、いなかの小さな村であれば一人もいなくても不思議ではない状態だと書いてある。
ふ~む・・・これまた令和の世の日本に例えるなら、人口に対する医者か、自衛官位の比率だろうか?
まあ、何でも自分の世界に当てはめるのは危険な行為かも知れないから注意しよう。
当然の事ながら高位の魔法使いほど少ないらしい。
魔法を使える物を総称して「魔法使い」と呼ぶようだ。
この呼称は同時に正式な教育を受けていない非正規な魔法使いも含む、正規・非正規双方を含む名称でもあるらしい。
正式な初級魔法使いの教育を終了すると「魔法士」という称号で呼ばれるようになる。
同様に中等魔法使いは「魔道士」でこの称号を得られると、魔法使いとしては一人前とみなされるようだ。
高等魔法学校を卒業した魔法使いは「魔法学士」と呼ばれ、これはかなり上級の称号らしい。
他にも魔法使いとしての上級の称号がいくつかあるようだ
魔法の種類には大きく分けて6種類ある。
攻撃魔法、攻撃補助及び防御魔法、治療回復魔法、移動魔法、使役物体魔法、それにその他特殊魔法だ。
攻撃魔法は文字通り、火や氷、雷、風などで相手を攻撃するおなじみの魔法、攻撃補助魔法は自分の防御を上げたり、攻撃力を上げる、相手を眠らせるなどだ。
治療魔法も文字通り、治療、解毒、麻痺解除、石化解除などだ。
しかし流石に死者を蘇らす魔法はないらしい。
そして治療魔法の使い手は、他の魔法使いよりもかなり珍しく、尊敬されているらしい。
移動魔法は高速移動系や空間移動系などの種類があり、単純に空を飛ぶ物から、町から町へ高速で移動したり、迷宮から一瞬で外へ出たりする魔法のようだ。
使役物体魔法というのは、要はゴーレムのような物を作る魔法らしい。
実際にその魔法で動く物の総称は「ゴーレム」だ。
日本風に言えば式神だ。
この魔法はかなり便利な物らしく、奴隷制度と絡まって、この世界の根幹を成すほど重要な魔法らしい。
奴隷と共に、この世界の労働力の基本をになっているのだ。
事実、この魔法を使える者は魔法使いの中でも、攻撃魔法、治療魔法の使い手に次いで3番目に多い。
魔法自体も高、中、低位と分かれていて、低位の魔法で作られる物を「タロス」という。
タロスは作った時に単純な命令を魔力で吹き込んでおき、出来上がった後にある程度の命令も聞く。
そしてその仕事が完了すると、自動的に消えていなくなる。
そして攻撃を受けて、大きな損害を受けても消滅する。
中位の使役人形は「ジャベック」と呼ばれていて、これは受けた命令を終えても消滅せず、そのまま次の命令を待つらしい。
またある程度の学習機能と知能も持ち、外見もかなり人間に近くする事も可能なようだ。
そして上位の「アイザック」と言われる物は、見た目も人間と変わらず、創造者には絶対服従なものの、自分で考え、主人の意に従い、命令を実行するらしい。
もっともタロス魔法は魔法としては比較的簡単で、魔法使いのかなりの人数が使えるらしいが、ジャベック魔法となると、急激に難しくなるようで、ぐっと数が減って、使役物体魔法を使える魔法使い100人に一人も使えないらしく、さらにアイザック魔法ともなると、非常に難しく、全世界でも使える魔法使いは百人程度しかいないとの事だ。
これは俺的にも非常に興味深い魔法だ。
なぜならば俺は大学にいた時は、ロボットや人工知能に興味があり、そういった研究をしていたからだ。
結局卒業後はただのSEになってしまったが、今でも人工知能などの話には興味は大きい。
この使役物体魔法というのは、ようするに魔法でロボットを作るのに近いようだ。
これは転生した世界で生活が落ち着いてきたら、いずれ研究してみたい事の一つだと考えた。
そして、その他の魔法は、それ以外の特殊な魔法で、例えば照明魔法や物体探索魔法、鑑定魔法、拘束魔法、予言つまり未来予測魔法など様々な物がある。
全体として、魔法使いはアースフィア全世界にまたがる魔法協会が存在して、正規の魔法使いは全員がそこに所属している。
その魔法協会が魔法関係を総括して運営しているらしいが、国によっては等級で細かく分かれて管理されている場合もあるらしい。
また魔法使いになると、マギアサッコという物が扱えるようになって、その中に色々と物を入れることもできるようだ。
つまりRPGゲームで言う所の、あのアイテム袋のような物だ。
もっとも流石に収納の限界があって、大きさがいくつかあって、それが最高で99個使えるようになるらしい。
要は持ち運びできるコインロッカーのような物のようだ。
レベルが低い頃は大して使えないが、レベルが高くなると、段々たくさん使えるようになるという事だ。
まあ、それでも十分便利だ。
そして硬貨は特扱いで、金貨・銀貨・銅貨の各貨幣6種類の貨幣枠があって、それぞれに999枚まで入れられるらしい。
また、そのマギアサッコの中では時間が非常にゆっくりと流れるので、食べ物などもほとんど腐らないらしい。
もっとも生物はこのマギアサッコの中には入らないようだ。
しかし生物と無生物の境目をどこで判断しているのかはよくわからない。
細菌などはどうなっているのだろうか?
「なるほどねぇ」
魔法の項目を読み終えた俺は感心した。
まるで大作RPGゲームの説明書を読んでいるようで、本当に今から自分がここに行くのかと思うと驚いたし、正直ワクワクもしてきた。
それからどれ位の時間が過ぎたかわからない。ガイドブックを2冊とも全ての内容を暗記するほど読んだし、それで色々な世界を想像しても見た。
これ以上の事は実際に行ってみなければわからないだろう。
自分が転生する時の状況や能力もだいたい考えた。
しかしその前にいくつか聞きたい事があった。
「神様よろしいですか?」
俺が呼びかけると、即座に神様が現れる。
「決めたかい?」
「はい、だいたい決まりましたが、いくつか質問をしたいのですが、よろしいですか?」
「うん」
「私はその世界、アースフィアにどのように転生するのですか?」
「年齢に何も注文がなければ、君の要望どおりの条件を備えた、赤ん坊として転生する。
その場合、君の望んだ条件と能力、記憶を持って転生する。
例えば君がレベル99の地方領主の息子として転生を望むなら、その能力を持ち、君の今の記憶を持った赤ん坊として転生する。
それと赤ん坊で転生する場合は、残念ながら持ち物は何も持ってないね。
不自然だろう?」
「その場合、赤ん坊の時点からしゃべれたり、歩けたりできるのですか?」
「いや、それはあくまで赤ん坊の能力だ。
知能と知識は今の君のままで、聞く事や見る事はできても、しゃべったり、歩いたりするのは早くとも一年はかかるだろうし、様々な事ができるようになるには、おそらく5年はかかるだろうな」
神様の話の通りならば、数年・・・おそらくは5歳くらいになるまでは、何もできないも同然だ。
それはちょっと困る。
5年も何も出来ないのはさすがにもどかしい。
「では、いきなり大人の姿で転生する事も可能ですか?」
「もちろん、それは可能だが、その場合、今度は魔法などの個人的能力はともかく、例えば地方領主の息子という設定は難しくなるな。
何しろ大人になるまでの記憶がないも同然になる上に、君も見ず知らずの者を親兄弟にしなければならない。
それでも良いならばもちろん構わないけどね。
もっとも希望とあらば、転生した状況に合わせた過去の記憶を私が捏造して植えつけても良い。
ただし、その場合は君の今の記憶と混ざるから注意が必要だ。
正直自分の記憶と私が与えた捏造の記憶で、かなり混乱するだろう。
それが面倒とあらば、今の記憶をすべて消去する事も可能だ。
もっともそうなると、今度は転生と言っても、いわゆる生まれ変わりと同じで、全く新しい人生を送るのと同じになるけどね。
ただその場合は君の記憶が全くない訳だから、君の修正としての存在理由が薄くなるので、私としては少々困るね。
出来れば避けて欲しい所だ。
もっともそれはきみだってイヤだろう?」
確かにそれは俺も困る。
俺は今の自分の記憶を持ったまま、異世界で転生人生を楽しみたいのだから今の記憶を消されては元も子もない。
それにそれでは、俺の今までの知識や経験が、全く無意味な物となる。
確かに神様の言う通り、それだけは避けたい。
どうやらある一定の年齢以上で転生するには、周囲との関係を絶った状態で転生しなければならないようだ。
「大人の体で、その世界に全く親戚や知り合いもなく、一人で突然転生した場合など、最初の持ち物や所持金などはどうなりますか?」
「それは君の望むままに与えよう。
文字通り君の持てる限りの持ち物を持たせてあげる。
可能な限りだ。
だから正直、赤ん坊で生まれ変わるよりも、大人より少々若い位の年齢で転生するのがおすすめだね。
赤ん坊だと何も持たせてあげられないけど、ある程度の年齢なら何でも持たせてあげられるからね」
最初から聞いてはいたが、改めてその神様の言葉を聞いて俺はやはり驚いた。
持ち物は何でもありということだろうか?
「え?何でもって、例えば金貨を1万枚とかでもですか?」
「もちろんだ。
ただし、以前話したように私が出来るのは最初の設定だけで、例えば転生した直後に君がその金貨1万枚をなくしたら私にはどうする事もできない。
金貨1万枚というのは結構な荷物だよ?
もっとも君も説明書を読んだから知っていると思うが、魔法使いならば、能力の一つに「マギアサッコ」という物があるので、君が魔法使いを望むならば、そこに入れていれば無くす事はないが、もちろんそれにも限界はある。
それは普通レベルに合わせて数が増えて行って最高で99個になるのだが、君の場合は特別に最初から99個を持たせてあげる。
だからかなりの物を持っていけるはずだよ。
そしてそれとは別枠で硬貨のマギアサッコがあって、貨幣だけは999枚まで入れる事ができるが、貨幣を1000枚以上与える場合には、そのマギアサッコに入りきらないから、1000枚目からは収納するには袋か何かが必要になる。
もっともマギアサッコの別の収納箇所を使用すれば、さらに多くの貨幣はしまえるけどね。
しかもマギアサッコは重さがないが、袋に持って歩くなら金貨一万枚と言えば、かなり重いよ?
君一人では持てないほどだ」
なるほど、確かに最初はかなり無茶な設定でも可能だが、とにかく、転生後の人生は一切手出しも援助もしないという事か。
つまり何が起ころうが自己責任。
例えば、転生直後に金貨や銀貨をマギアサッコに入れずに盗賊に全てを取られたらそれで無一文という事だ。
確か江戸時代の小判1枚が17g位だったはずだ。
仮に金貨1枚が小判1枚と同じならば、金貨1万枚ならば重さは17万g、すなわち170kgとなる。
そう考えれば金貨1万枚はとても持っては歩けないだろう。
これは確かに持ち物に制限がないと言っても、色々と考えた方がよさそうだ。
「土地持ち家付きとかで転生する事も可能ですか?」
「いや、それは残念だができないな。
持ち物は何でも可能と言ったが、それは文字通り、君が「持って歩ける物」という意味だ。
君が「法的に所有する物」という意味ではない。
もっともマギアサッコがあるから持ち運びできる範囲は恐ろしく広がるけどね。
それにマギアサッコにも、さすがに家や馬車は入らないよ。
一番大きなマギアサッコは99番だが、それでも丸めた布団が3つ入る位の大きさかな?
常に君の横にある、見えないコインロッカーのような物だと思えば良いよ。
後は生き物は入れられないんだ。
それと地位なんかも赤ん坊なら王子とか、かなり高い地位でも転生可能だが、大人として転生するなら、地位はなしにしないと難しいね。
もし地位や不動産を所有して転生する場合、さきほどの領主の息子と同じで、必ず何らかの人間関係が生じる。
貴族称号を持っているのに誰も知らないのは変だし、となりの家にいきなり人間が現れるのはやっぱり変だろう?
私はあっちの人間に直接影響を及ぼす事は出来ないからね。
だから大人の状態で地位が高い転生というのは正直お勧めしないし、あまり高い地位での転生は無理だ。
土地付きというのも無理だ。
私はあちらの書類を改ざんできる訳ではないのだからね。
ただし金をたくさん持って転生して、あちらで土地や家を買うと言うのはもちろん可能だよ」
「なるほど」
「そういう意味では、どんな風にでも転生できるとは言ったけど、結局は大きく分けて、赤ん坊か、旅の風来坊で転生するかの2つだね。
赤ん坊ならば矛盾する人間関係は生じないし、地位や人間関係も様々な物を持っていても不思議は無い。
逆にその辺の旅人ならば、地位や領土は無理だが、何を持っていても基本的にはおかしくはない。
例えば風来坊が何を持っていても「親や師匠からもらった」と言えば、大抵の人間は納得せざるをえないしね。
だから私は転生する時に何でも持たせてあげると言ったが、それは文字通り、君が「自分で運べる物」と考えた方がいいよ。
もっとも今説明した通り、マギアサッコの中は、かなり物を入れる事ができるけどね」
俺が納得した様子なのを見ると、神様が話を続ける。
「要約すれば、知能や体力など、君自身の個人的な能力ならば、どちらでもかなり融通が利くが、地位や財産を欲しいならば、どこかの赤ん坊として転生する。
逆に自由に行動が可能で、持ち物が沢山欲しいなら風来坊としての転生という事になるかな」
なるほど、確かにその通りだ。
家付き土地つきとかは無理だし、金持ちの息子とかいう線も止めておいた方が無難かな?
赤ん坊の転生は数年間厳しそうなので、ここはやはり旅人か?
それならば、遠くの土地からやってきて何も知らないと言えば、おかしくはないし、相手も納得するだろう。
持ち物もたくさんもらえそうだし、これはその線で、もう一度考え直してみるか?
「そう言えば、この世界のレベルは1から999まであるようですが、通常の人々は、どれ位のレベルなのですか?」
「そうだねぇ・・・ただの町や村人なら、せいぜい5から30、いわゆる冒険者や戦士なら最頻値は20から60ってとこだね。70や100位もそこそこいるけれど、150を過ぎると極端に少なくなるよ」
「過去の最高レベルはいくつですか?」
「860だ。
ちなみに現在というか、君の行く時点では835が最高だね」
「今までその世界にレベル999はいないのですか?」
「うん、まあレベルって奴は、君も知っての通り、高くなるほど上がりにくくなるからね。
特にレベル800を超えた辺りから極端に上がりにくくなるから、999になんて、まずありえないんだよ。
どうしたってその前に寿命がきちゃうんだ。
事実過去にレベル860以上は一人もいない。
でも君が望むなら転生するのをレベル900位までには出来るよ?
実はそれは私にしても、ちょっと骨なんだがね」
「はあ、考えておきます」
う~ん・・・しかし、いきなり高レベルで転生しても楽しいだろうか?
それに下手をすると、高い能力を扱いかねて、持て余す状況になりかねそうだ。
自分で自分の能力に振り回されるのは御免こうむる。
「他に聞きたい事は?」
「今、寿命と言われましたが、私の寿命はどうなるんでしょう?」
「その世界の人間の寿命は地球より倍くらいあるから、人間として転生するなら長生きすれば200歳ってとこかな?
普通の寿命は150歳程度だよ。
事故や病気でも結構死ぬから平均寿命は90から100位だね。
でもエルフとかは寿命が800年から1000年位だから、君をエルフにして転生させてもいいよ?」
エルフもいるんだ!
「不老不死とかは?」
「残念ながらこの世界でも不死はいないんだよね。
不老の方は、ほぼエルフなんかがそれに近いけど、年をくわない訳じゃない。
ただ見た目があまり変わらないから不老に見えるだけなんだ。
寿命が近づいてくると、見た目はそれほど変わらないけど、体力がなくなってくるので、自分にはわかる。
人間も君のいた世界よりは見た目の年は食わないよ?
100歳くらいでも、30歳程度にしか見えない人間も結構いるよ。
ちなみに一番長生きな種族でも、ドラゴンの2000年位かな?」
ドラゴンもやっぱりいるんだ?
本当にファンタジーな世界だなあ・・・
でも俺はやはり人間として転生したい。
「人間のままで、そのエルフの不老に近い状態にして、寿命をそれくらいにする事は可能ですか?」
「ん~ちょっと難しいね。
でも、そのままは無理だけど、何とかそれに近い状況にはできるよ。
人間のまま不老で、寿命が500年位ならね。
ただし、それだと見た目は人間だけど、実際にはエルフや魔人など、他の種族の遺伝子も多少入る事になるね。
それと、病気や事故で死ぬ事までは保証できないからね。
寿命自体は延ばせるが、事故や病気の場合は、状況によっては死んでしまうと思ってくれ」
「はい」
まあ、転生した後は関知できないと言っていたからな。
確かにエルフやドラゴンも良いが、やはり俺は人間のままで転生したい。
それで寿命を延ばしてもらえるならそれがいいな。
「病気や事故だと、やはり死んでしまうのですか?」
「そりゃ運が悪けりゃね。
地球と同じさ。
もちろん私は君の転生後の体は頼まれるまでも無く、健康体で転生させるが、その後は、君次第だし、一生病気にもならず、事故にも会わないなんてのは、いくらなんでも無理な話だ」
「病気や怪我・・・それは魔法でも治すのは無理なのですか?」
「いや、あっちの世界には魔法治療もあるし、君のいた世界同様に普通の医者もいる。
そういった人々がいて、もちろん、病気や怪我を治す事も出来る。
まあ、科学が発達していないから普通の医者の方は、君のいた世界とは比較にならないけどね。
地球で言えば中世の世の医者なんて、令和の日本の医者とは比較にならない。
はっきり言って、あっちの世界の医者よりも、君の方がよほど医療知識はあるだろう。
逆に魔法は発達しているから、そちらの治療士は優秀な者は結構様々な病気や怪我は治せるよ。
特に治療魔法で「完全治療魔法術」というのがあって、これはいかなる病気や怪我でも治せるし、手や足だって生えてくるので、完全に元通りの体になる事が可能だ。
老衰と遺伝病は無理だが、それ以外ならば、死んでさえいなければ、この魔法で治す事が可能だ。
例えば魔物に胴体の下からを全て食べられてしまったとしても、その場にこの魔法を使える術者がいれば、即座に治す事が可能だ。
ただし運ぶ途中で死んでしまえば無理だけどね」
そんな高度な治療魔法があるとは凄い!
さすがは魔法の世界だ。
俺は素直に感心した。
「それは凄いですね!」
「ただ、その魔法の使い手は極端に少ない。
だからはっきり言って、君がその世界で不治の病に罹ってしまったとしても、その使い手と会えるか?
例えあったとしても、その治療をしてもらえるかはわからない。
極端な話、今ここで聞いた以外は、君が転生した後はこの魔法の事は一回も聞かないで一生が終わってしまうかもしれない。
それほど稀有な魔法だし、使い手は極少数で、全部で50人もいない。
あまりにも珍しいので、君は私がその魔法に関しては、嘘を言ったのではないかと疑いたくなる位だと思うよ?
だからあまりそれを当てにしない方が良い。
今聞いた事は忘れてしまっても良いくらいだ」
「ははあ・・・」
なるほど、その「完全治療魔法術」とやらは、よほど高度で稀有な魔法らしい。
よく覚えておいて、もし万一その使い手と出会ったら、仲良くしておこうかな?
「ところでガイドブックを読むと、剣や鎧には特殊効果がついている物があるようですが、一つの物に特殊効果って、いくつ位まで付けられるのですか?」
ガイドブックを読んだ限りでは、剣には攻撃力2倍や眠り効果、鎧には炎半減やら石化回避などがついている物がある。
「それは実は材質によるんだよね。
例えば銅なら2つ、鋼の剣なら3つが限界だが、ミスリルなら魔法と相性が良いから4つ、アダマンタイトなら3つ、アレナックやオリハルコン、ゴルドハルコンなら5つが限界ってとこかな?
それ以上はない」
「5つも?では例えば一つの鎧に睡眠回避と石化回避と毒回避、火炎軽減、吹雪軽減をつけるなんて贅沢な事もできますか?」
「それは可能だし、睡眠と石化と毒は全異常状態回避って事で、一つにまとめられるよ、それならさらに麻痺回避もつくしね」
そうだった、麻痺攻撃もあったんだっけ。
「それと火炎と吹雪も冷熱遮断で一つにまとめられるし、それなら軽減じゃなくて、ほぼ炎や吹雪などは無効化できるよ」
「それは凄いですね。
例えば5つなら全異常状態回避と冷熱遮断をつけるとして、体力回復と魔法力回復で特殊効果が4つ、あと1つ特殊効果をつけられるって事ですか?」
「うん、魔法反射とか耐電効果なんか良いよ思うよ」
魔法反射か、それはいい。
しかし俺は以前から思っていた事があって質問をしてみた。
「ああ、なるほど、所で以前から不思議に思うんですが、魔法反射って言うのは、相手も同じ道具を持っている場合ってのは、永遠に反射しあうんですか?」
「いや、もちろんそんな事はないさ、反射と言っても、魔法を100%反射する訳じゃない。
まあ、7割から多くても9割って所だね。
残りは空中に拡散してしまうから何回かは反射しあうかも知れないけど、徐々に威力が減衰していって数回で消えるよ。
ただ誘導型の魔法はあまり拡散しないで標的を狙うから、減衰率が低くなって、もう少し反射回数が多くなるだろうね。
それに魔法反射に意味がない魔法もあるので注意した方がいいよ」
「意味がない魔法?」
「うん、例えばマジックミサイルだね。
フレアアローなんかは炎の矢なんで反射するたびに減衰していくんだけど、マジックミサイルというのは爆裂魔法を包み込んで敵に当てる魔法なんだ。
これだと反射壁に当たった瞬間に爆裂してしまうか、反射したとしても、予想外な方向に反射してしまうので、そこに弱い味方がいたり、重要な物があったら目も当てられない」
「なるほど、確かにそれは注意しないと危ないですね。
後は戦闘獲得経験値10倍増とか、使用魔力10%なんてのも特殊効果にできますか?」
「経験値10倍増は君自身に能力としてつける事は可能だけど、品物に特殊効果としてつけるのは無理だね。
使用魔力10%とか50%の品物は、実際にその世界にあるから大丈夫だよ」
うひゃあ、本当に何でもありだな。
ん~これだけ様々な効果を得られれば、相当戦いも有利になるのは間違いないな。
「ただし、それぞれの効果は重ねては効果がないから気をつけた方が良いね。
例えば、元々2倍攻撃の効果がある剣に、さらに2倍の効果の魔法をかけても意味はないし、使用消費魔力10%の指輪を二つ装備したからって、消費する魔法力が1%になる訳ではないよ。
ただし防御系は結構重ねて使えるね。
冷熱遮断にしても耐電防壁にしても2重3重にかける事は出来るし、そうすればかなり軽減するよ。
特に電気系は重ねてかけておいた方が良い」
「はい、わかりました」
「うん、それは覚えておいてくれ」
そりゃそうだよな、そうなるんだったら、攻撃力3倍魔法を5回もかけたら威力が600倍以上になっちゃうもんな・・・それこそドラゴンどころか、どっかの魔王でもイチコロになりそうだ。
イチコロと言えば、聞いておきたい事があったのを俺は思い出した。
「魔法大全を見た限りでは、いきなり相手を殺す魔法ってなかったんですが、そういう魔法はないんですか?」
「いわゆる即死魔法かい?
うん、そんな魔法はないよ。
まあ、強いて言えば、攻撃力の強力な魔法がそれに対応するだろうね。
全残量魔法量を相手にぶつける魔法とか、自分の体の魔素を全部相手にぶつける魔法とかね。
滅多に使ってくる相手はいないだろうけど、それには注意した方がいいだろうね。
それをやられると、相手が自分よりレベルが低くても、やられてしまう場合があるから。
あとは雷撃系の魔法がそれに近い。
高位の雷撃魔法は、ほぼ即死魔法も同然だ。
それはかなり注意した方が良いね」
つまりは自爆攻撃や、それに近い魔法か。
確かにそれは厄介だな。
後は電気系か?それも注意が必要だな。
「それ以外に注意する攻撃魔法はありますか?」
「単体ではないけど、連携魔法ならいくらでもあるね」
「連携魔法?」
「うん、ホラ、おなじみの眠らせて相手をボコボコにするとか、そういう奴さ」
「なるほど」
「後は現実に実行しているのを見た事はないけど、私が考えた事があるのは、使役魔法と先ほどの自爆魔法の組み合わせかな?」
「それは何ですか?」
「魔法大全に使役魔法で作る、アイザックやジャベックというのが、魔法を使う事が可能だと言うのは書いてあっただろう?」
アイザックとジャベックというのは、確か高位と中位のゴーレムの事だったよな?
「はい、え?まさか・・・」
「そのまさかさ、ジャベックを大量に作って、それに全て魔法力全攻撃を使うように仕組むのさ」
「そんな・・・」
ゴーレムなんてただ腕力を振るうだけでも数体いれば厄介そうな代物だ。
それが群れをなして自爆攻撃を仕掛けてくるのを想像して、俺はまさにゾッとした。
「これは凄いよ?
何しろ次から次へとゴーレムが自爆攻撃を仕掛けてくるんだ。
大抵の者はひとたまりもないだろうね。
まあ、もしこんな攻撃を仕掛けてくる相手がいたら逃げた方がいいね」
「確かに・・・」
「だがこの攻撃に関しては安心して良いよ。
ジャベックを作れる魔道士は少ないし、魔法力全攻撃をできる魔道士はもっと少ない、そしてそれをゴーレムに使わせる事の可能な魔道士など本当に数えるほどだ。
ましてやそれを数多のゴーレムに備え付けて攻撃しようなんて事をそもそも考える者がいない。
タロスは魔法が使えないし、使い捨てだけど、アイザックやジャベックは使いまわしが基本で、使い捨ての道具ではないからね。
だから思いついて実行しようとしても不可能に近いだろう」
「それを聞いて確かに安心しました」
不可能に近いと聞いて俺もホッとした。
まったく、そんな常識はずれな攻撃をされたらたまったものではない。
「まあ、他にも意外な組み合わせがあるのは間違いないけど、私もそこまでこの問題を深く考えた事はないので、後はわからないな。
君が転生してからゆっくり考えたら、凄い組み合わせを思いつくかも知れないよ?」
「なるほど、そう言えばこの世界では魔法の才能とかは当然あって、人によって違いますよね?」
「そうだね。
才能のステータスって言うのがあるよ」
「才能のステータス?」
「そう、知力や体力、魔力、素早さなんかの才能の値だね。
これは生まれた時から死ぬまで変わらないし、この値によって、生物の能力が左右されると考えて間違いはない。
人間の最頻値は体力、知力など全ての種類がほぼ15で、最高値は99だけど、今までにはいない、標準は10から30くらいだね。
数字が大きくなるほど才能が高くなるけど、実在確率は少なくなる」
「つまり才能の数値が高くなるほど、それぞれの能力も高くなる、と?」
「基本的にはそうだけど、何もしなけりゃ、どんな能力も0のままだよ?
例えば魔法の才能値が10の人間と30の人間がいたとしても、10の人間が物凄く努力して魔法を覚えれば、30の人間が何もしない場合はもちろん、大した努力をしなければ、結果として10の人間の能力の方が上回るさ」
なるほど、才能も大事だが、それに自惚れていれば、ダメになるって話ね。
要は昔話のウサギとカメみたいな話って事か。
「わかりました。
ではこれだけは先に言っておきますが、転生する場合は私の魔法の才能は上の方にしておいてください。
少なくともその世界にある魔法を全て使える事ができる位には」
せっかく魔法がある世界に好きに転生できるのに、魔法が思う存分に使えなくては面白くない。
そこはぜひお願いしたい所だ。
「では、君の魔法の才能はその世界では一番になるようにしておくよ」
「それはぜひお願いします。
その才能値というのは何種類あるんですか?」
「知力、体力、力、敏捷性、魔力、魔法感覚、格闘感覚の7つだね」
他はわかるのだが、魔力と魔法感覚というのの違いがわからない。
「魔力と魔法感覚って、何が違うんですか?」
「魔力は最大魔法量の才能だね。
これが大きいほど、最大魔法量が大きくなる。
魔法感覚というのは魔法を覚える才能みたいな物だね。
これが大きいほど難しい魔法も覚えるのが早いし、あまり小さいとロクに魔法を覚えられない」
「つまり極端な話、魔力が大きいのに魔法感覚が0だったら魔法量はたくさんあるのに、全然魔法が使えないって事ですか?」
「そうだね」
うわ!それは悲惨だ。
「逆に魔法感覚が優れているのに、魔力が極端に小さい場合は、難しい魔法は覚えられても、もしそれが大量に魔力を消耗する魔法だったら使えないという事もありえるという事ですか?」
「その通り、通常は魔力と魔法感覚はだいたい似たような数字で生まれるんだけど、実際にそういうアンバランスな数値で生まれてしまう不幸な場合もごくまれにあるよ」
これまた悲しい話だ!
「なるほど・・・」
確かに魔法を使える能力はあるのに魔法量が足りないのは悲しいし、逆に全然魔法を覚えられないのに、魔法量だけは無駄にあるというのもやはり悲しい。
「他に質問はあるかい?」
「ええ、根本的な問題なんですが、そもそも「レベル」って何ですか?」
「ああ、アースフィアのような魔素がエネルギーとして使用可能な世界では、人間や生き物の物質構成は単なる肉体だけでなくて魔素の部分も含むんだ。
君たちの世界でオカルト風に言えば、アストラル体とかコーザル体と言えばいいのかな?
いや、それだとあまりに非科学的な説明になりすぎるな、忘れてくれ。
その魔素の部分の構成をアースフィアではマギア体と呼んでいる。
このマギア体が鍛えればどんどん強くなっていき、魔法の扱いやその最大容量も増えていく。
もちろん個人の才能の差によるけどね。
それが通常の肉体にも作用して激しく肉体が強化されるのさ。
当然、普通の肉体も訓練すれば強化されていくわけだけど、魔素での強化はそれとは比較にならないし、上限がないに等しい。
純粋な人間の肉体ではどんなに鍛えても1tの岩は持ち上げられないが、マギア体であれば、レベル200位になれば、それも可能だ。
だから君のいた世界と違って、アースフィアでは魔素の部分のマギア体を鍛えた者がどんどん肉体的にも魔力的にも強くなっていく。
高度に鍛え上げた者ならば、それこそ一人で一つの街を壊滅させる事も可能だ。
そのマギア体の上がり方を「レベル」と表現しているのさ。
これは通常の生活でも多少鍛えられるから普通に生活していても多少は上がる。
具体的に言うならば通常の生活をしていれば20歳になる位までにはだいたいレベル10から12位までにはなる。
しかしそれ以上は特殊な鍛え方をしなければだめだ。
その一番手っ取り早い方法が魔素で構成されている魔物を倒す事になる。
後は魔法を何回も使うのもそうだね。
そしてマギア体が強化されて魔素で飽和する状態がレベル1000だ。
レベルは1から1000までの段階に分けられているが、これは私がアースフィアを作った時に便宜的にそうした。
各自のステータスを見られるようにしたのも私さ。
しかしレベル1000は理論的に存在するだけで、現実には存在しない。
ちょうど君たちの世界で物体が光の速度を超えるのが不可能だったり、同じく物体が絶対零度になれないのと同様に、どんなにレベルをあげても1000にはならない。
だから現実的なレベルは999が限界だと思って間違いがない。
それですらレベル998の人間が999になろうとしたら一体どれ位の時間がかかるかわからない・・・それこそ何億年・・・何兆年かかるかも知れない。
したがって現実的なレベルの限界は大体800から900程度までって事さ。
レベルというのはそういう物だよ」
「なるほど、わかりました。
それとアースフィアで一番強力な金属ってなんですか?」
俺は自分の武器や鎧を頼むためにそれを知っておきたかった。
「それは一般的にはオリハルコンと、その上位金属のゴルドハルコンだね。
両方とも魔法との愛称も良く、ほとんど不滅の金属で、加工も難しいのでアースフィアでもこの金属の品物は非常に貴重だ。
魔素を吸収する系統の金属なので、オリハルコンは紅く、ゴルドハルコンは黄色に常時光っている。
使い手によっては魔力を吸収して、激しく光り輝くよ。
この2つがアースフィアでは最も強力な金属とされている。
特にゴルドハルコンで切れない物など一つしかない」
「切れない物がある?何ですか?それは?」
「非常に特殊な金属で、青い色の光を放つブルネティアンという金属がある。
これはアースフィアでもっとも強靭な金属だが、知名度は0に近いし、剣や盾が少数存在するが、加工が不可能な金属だし、自然界には産出しないので、現状で存在する物だけだね。
ほとんど知られていないし、おそらく君がそれを実際に目にすることもないんじゃないかな?」
「自然に産出しないし、加工が不可能?どうしてそんな物で武器が存在するんです?」
「それは私がアースフィアを作った時に気まぐれで、作ったからさ」
「なるほど、その金属で私の武器や鎧を作っても構いませんか?」
「そうだね、あまりたくさんは作られると困るけど2・3個なら構わないよ」
「わかりました。その三つ以外に強力な金属って、どういうのがありますか?」
「オリハルコンより少々劣るが、鋼の数百倍は強い、アレナックという金属がある。
これは基本無色透明で少々軽いが、かなり強いよ、鋼の鎧なんてスパスパ切れる。
あとはアダマンタイトにオリカルゴールドとミスリルシルバーかな?
アダマンタイトは少々重いが、耐熱耐冷効果が高い。
オリカルとミスリルは軽くて魔法との相性が良いので、よく魔法製品にされる事が多いね。見栄えも金や銀に似て錆びないので、贈答品や家宝の武器なんかにもよく使われるね。
但しオリカルゴールドは本物の金よりもはるかに高くなるね」
「なるほど」
「うん、これでだいたいわかったかな?
それでまた考えるかい?」
「そうですね。ではもう少し考えさせてください」
「わかった」
そう言うと神様は再び消えた。