58話 クルセイジャーイエロー
「がつがつはふはふ……むしゃむしゃっ!」
目の前で大量のカレーが消えていく。
隣では積み重なった皿が既に十枚を超えて、栄一がキッチンまで運んでいる。
「ぷはぁ……」
「それで、いい加減満足したか?」
「お代わり!」
「いい加減にしろ!」
ガツンと食堂に甲高い金属音が響く。
ついお玉でぶん殴ってしまったが、我は悪くないと思う。
色々と話を聞きたい事があるというのに、このクルセイジャーイエローこと、天野・雷黄はカレーの匂いで目覚めてからずっとこのままカレーを食べ続けていたのだ。一人でお代わり20回はやり過ぎだ馬鹿。
炊飯ジャーを開けば米がもうない。もう一つの炊飯ジャーは炊き待ちだ。
「し、仕方ないではないか。かれこれ一か月以上カレーを食べてないんだぞ!」
「だからといって食いすぎだ」
「あの……イエローさん。流石に食べすぎです」
「うぐ……じゃあ最後に一杯だけ」
「パンで我慢しろ」
流石に中学生の美月に言われて食べ過ぎたと自覚したのか、渋々と最後の一杯を要求してくる雷黄。いや、そこは食べ終わるのが普通だろう。どれだけカレー狂いなんだコイツは。
仕方なしにルーを注いでライスの代わりにパンを手渡すと雷黄は多少落ち込みながらもルーとパンを綺麗に平らげ、両手を合わせた。
「ご馳走様でした。はー……食べた食べた。腹六分目だ」
「まだ入るのか。ほら、これでも飲んでおけ」
食後用に用意していたラッシーを差し出すと、一気に飲み干して満足そうに腹をさすっている。あれだけ食べたというのに腹が膨らみもしてないとは恐ろしいな。
「食べ終わったなら話と行きたいところだが、構わんか? というか話してもらうぞ絶対に」
「ああ、これだけ世話になったんだ。話すとも。……その前に聞きたいんだが……お前さん誰だ? 魔法少女組じゃなさそうだし、この世界の子か?」
「……我が判らんのか。この姿じゃ当然だな」
戦闘中の記憶もないようだ。まぁ、あったら食事も通らないだろう。カレー以外。
「イエローさん、信じられないと思いますけど……この人はアダムさん。『ゲセルシャフト』総帥のアダムさんですよ」
「は? いやいや、ムーンの嬢ちゃん冗談がきついぜ。これがアダム? ないない。こんな美少女がアダムなんてありえない」
うむ、それに関しては同意する。我とて今の身体が我だと言われても当事者でない限りは信じる事が出来る訳がない、というか信じたくない。
「信じられないだろうが、本当だ。我はアダム。ゲセルシャフトの総帥であり、貴様らの敵だった者だ」
今の我が出せる最大の威圧を叩きこむと、雷黄は咄嗟に飛び退き片手に握った獲物の切っ先を我へ向ける。
うむ、格好つけてる所悪いがそれ、スプーンだぞ。
ふっと威圧を解除すると、傍にいた美月が深く息を吐いていた。
「イヴさん……いきなりは心臓に悪いので止めてください」
「む、すまんな。だが、これで我がアダムだったという証拠にはなるはずだ。そうだろ、クルセイジャーイエローよ」
「……ああ。このバカみたいな圧力はお前以外に出せるとは思えない。だが……何でそんな姿になってるんだ?」
「これには込み入った事情があってな。これに関してはお前たちも無関係ではいられんから聞いてもらうぞ」
雷黄にこれまでの出来事を一から順に説明した。
あの戦いで敗北してから、この身体で蘇り、偶然リンを救い、クサナギ国を助け、ウケラノス帝国女王と一戦交え、エッケザックス国を正式に譲りうけて新興国『パンゲア』を樹立。そしてトライデント連合王国と共に『ティルファング共和国』を奴隷解放の大義名分の名の下に戦争を仕掛けた。
「……なるほど。そこで俺と出会ったという訳か。というかだな、二か月も無いというのにプリズム・ムーンが誑し込まれたとか、国を一つ立ち上げたとか色々あり過ぎて頭が付いていかないんだが」
「確かに怒涛の一か月でしたね……。って、イエローさん私は誑し込まれてなんかいませんよ!」
「半ば我がだまし込んだ形だが、あれがこいつにとってはその場では最良の選択だった」
「だが、それはお前たちにとっても最良の選択だったんだろう。全く、悪い奴らだ」
「悪の組織だからな」
美月は衣食住に加えて我の庇護を得られる。我は魔法少女の手駒を得られ、間近で情報を手に入れる事が出来る。互いにWINーWINの関係だ。
「我の事は話した。次は天野雷黄……いや、この場合はクルセイジャーイエロー。お前の事を話してもらうぞ」
「ああ。厄介なのから解放してくれた上に治療やら飯やら世話になったんだ。洗いざらい全部話す……といってもあまり話せることは少ないんだがよ」
「何故だ?」
「あれに乗り移られてから記憶があやふやなんだよ。思い出そうとしてももやがかかったようにどうも思い出せなくてな。悪い」
アンノウンに乗り移られたショックで記憶に混濁が起きたか。一般人ならともかく、こやつらならばと思ったがそう都合よく行かんか。
「だが、一緒に飛ばされたアイツらの事なら思い出せる」
「本当か!?」「本当ですか!?」
思わず我と美月の声が重なる。美月にとっては大事な友人達に関する話だ。食いつくのも当たり前だな。
我の場合は―ーあ奴が公国の手に落ちたか否かでこれからの指針に大きな影響が出る。
ヒルダは8人中4人は逃したといった。雷黄が覚えているのであれば、逃された奴らの事が判る。
「一緒に飛ばされたのはレッド、ブラック、そしてプリズム・ソレイユだ」
「光ちゃん……!」
デモンロイド――『黒井浅木』はいなかったか。だが、ソレイユやレッドが敵の手に落ちているのはかなり痛い。
奴らはクルセイジャーやプリズム・プラネットのリーダーを務めているだけあって強い。
更にブラックまでいるとあれば……デモンロイドが公国の手に落ちるという最悪は免れたが、次点で最も悪い状態だ。
「雷黄。レッド達は」
「……判らない。俺やブラックが目が覚めた時には既に全身を拘束されて身動き一つ取れなくされていた。そのまま女神像の前に連れて行かれて、このざまだ。……だが、あれは絨毯に描かれた模様は魔法陣だった。間違いない」
クルセイジャー達も共闘関係でプリズムワールドと縁を結んでいる。その時に魔法陣を見たのだろう。
その魔法陣でアンノウンを宿したという訳か。これが祝福のタネか。確かに、知らない人間が見れば女神像により新たな力を得たと思うだろう。だが、その実は寄生されていたという落ちだ。
「これが俺が知る全部だ。レッド達がどうなったかわからないが、多分俺と同じように―ー」
「アンノウンを宿されたとみて間違いないか。クルセイジャーイエロー、話してくれてありがとう」
「世話になったんだ。これぐらいはな」
雷黄はひらひらとスプーンを振るいながら手を振り、喋りつかれたのかコップの水を飲み一息つく。
そして再びじっと我を見つめる。その目は真剣そのものだった。
「でだ、ここからが頼みがある」
「何だ、言ってみろ」
大体の予想は付く。こいつは忘れない。そういう奴だ。
「俺をここで雇ってほしい。記憶はないが、公国にはやり返さなきゃ気が済まない。レッド達の事もだが……俺はこの手で人の命に手を掛けた。ヒーローである俺が……だ!」
「罪滅ぼしのつもりか?」
「自己満足ってのは理解してる。だが、このまま公国の好き勝手にしたら俺達みたいな奴が増えるんだろう。それだけは何としてでも防がなきゃならない」
自分で自己満足って言い切る所は本当にヒーローらしいと思う。クルセイジャーは正義の為などとは言わない。
全ては護りたい人々の為に動く。それがクルセイジャーの騎士道精神。そしてそれは仲間も含み、その為ならば―ー。
「雇ってほしいというのであれば、貴様も我の配下となる。それでもいいか?」
「ああ。怪人となれと言えばなってやろう。だから頼む」
我の問いに即答し、頭を下げる律儀さ。
うむ、想いきりの良い奴は好きだぞ。怪人にはせぬが、その心意気だけは受け取ろう。
「我が組織では、働かざる者食うべからずだ。食った分、たっぷりと働いてもらうぞ。クルセイジャーイエロー」
「っ……! 判った。これから宜しく頼むぜ、アダム……じゃなかった、イヴさんよ」
「イヴで良い」
くっくっく、自ら配下となるか。思わぬ収穫だがこれで二人目のヒーローが我が組織の手の内に落ちた。
暫定にだが、公国の手に落ちていないヒーロー達も判った。
クルセイジャーからはブルーと、グリーンが。プリズムプラネットのプリズムブルーが、そして我が宿敵たるデモンロイドがこの世界のどこかにいる。
「あの、イヴさん」
「判っている。ソレイユも、スターズも必ず見つけ助け出す」
「お願いします……!」
これから忙しくなるだろうが、こちらの手は依然より増えた。これより我らのターンだ。
「あ、ところで部下になったんだからカレーのお替りは」
「もうない。残りは皆の分だ!」
「そんなー」
ええい、何処までカレー狂いなのだお前は! しまらんではないか!
今日はここまで!
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それでは、次の日曜にまたお会いしましょう。




