1話 悪の終わり
ニチ朝タイム更新です
『世界征服』それは数多の悪の組織が掲げる野望であり、夢であった。
西暦二千年を過ぎたある日、人類は大きく歴史が変わる瞬間を目の当たりにする。
常人を凌ぐ力を持った者達が、突如世界中に現れたのだ。
火、水、風、雷といった自然現象を多彩に操る者、新幹線を人力で受け止める者、鋼より硬い身体を持ち弾丸すら通さない鋼の身体を持つ者、動物のような力を得る者など様々だ。
世界の人達は彼らの事を畏怖と恐怖の意味を込めて彼らをこう呼称する『怪人』と。
怪人たちは様々な力を持ち、世界中を混乱の渦に陥れた。
力を得れば、人は振るわずにいられない。初めて玩具を手に入れた子供が無邪気に遊ぶように怪人と称される者達は力を振るう者達が多発した。
その中には当然、その力に溺れ、犯罪に走る者達も大勢いる。
金欲しさから、装甲車も砕く拳で銀行強盗に走る者。
虎の力を得て、同級生を生きたまま引き裂いた学生。
炎を操り対抗組織を焼き尽くすマフィアなど様々な犯罪が世界中で発生する。
治安を守るべく、軍や警察が動くも怪人達には手も足も出ず、圧倒的な力の前に蹴散らされる。
鋼の肌には弾丸も通じず、虎の素早さの前には人は反応すら出来ず引き裂かれ、炎に至っては物理的な攻撃は全く効果が無かった。
怪人が現れた事に呼応するように、とある者達が姿を現わす。
悪魔の様なヘルメットと、全身を覆い隠すようにスーツを身に纏い怪人と同様、又はそれ以上の力を持って人々を守る者。
独自の科学技術により力を得て平和を守るべく戦いに身を投じる五人組の姿。
異世界の侵略から、この世界を守るべく異世界の力を受け継ぎ『魔法』を駆使して戦う少女。
人々は彼らをこう呼称する『ヒーロー』。
怪人達が表立って現れる以前より、怪人や異世界からの侵略者と戦ってきた者達だ。
怪人が表に現れた今、ヒーローもまた表舞台に登場する。
こうして|ヒーロー〈正義〉と|怪人〈悪〉の戦いは切って落とされる。
ヒーローと怪人の戦いは一進一退を繰り返し、名の無きヒーローが死に、気高き怪人が打ち滅ぼされた。
ヒーローは自分達の身を守り、力を結集しようと連合を組みはじめ、怪人もまた、己を身を守る為に最も強い怪人を頂点とする組織を組んだ。
戦いは激しさを増すが、互いにとある共通点だけ存在した。
彼らは無用な被害を出す事を好まなかった。
力のまま暴れまわり、欲望のまま貪るのは獣に劣る畜生であると連合を纏めるリーダーと、組織を収める各首領が強く言い聞かせていたからだ。
中には当然、反発し無駄に暴れまわる者達もいる。
最たるものは異世界からの侵略者達だ。
彼らにとって侵略先の民は獲物でしかなく、好き勝手に暴れまわるが、怪人とヒーロー両方に狙われ真っ先に狩られていた。
ヒーローと怪人達の戦いは、拮抗を極めながらも徐々に、天秤が傾く。
ヒーローの中に、逸脱した力を持つ者達が現れたのだ。
彼らの手により、組織の幹部が打ち取られ、ついには率いる首領でさえ倒される組織も出始めた。
一度傾いた天秤は覆しようもなく、悪の組織は日に日に追い込まれていく。
悪の組織も残り一つとなり、その組織も連合の手により滅びに瀕していた。
亜空戦艦『ゲゼルシャフト』。
唯一残った悪の組織『ゲゼルシャフト』の本拠地である。
空間の狭間に存在する戦艦の内部で、正義と悪の最後の戦いに終止符が打たれようとしていた。
『ゲゼルシャフト』首領、アダムは六芒星が描かれたカードをベルトに差し込むと、背中から六枚の羽が展開される。
限界を超えた力だったのだろうか、全身を覆うスーツにヒビが入り、頭部を隠しているヘルメットがはじけ飛ぶ。
長い銀髪が暴力的な風ではためき、赤い目は力に飲み込まれまいと絶望の中でも強い意志を宿らせている。
「おおおぉぉぉ!!」
アダムが雄叫びを上げると、ひび割れた変身スーツから漆黒の光が溢れ、背中の六枚の翼が輝く。
白と黒の力の渦が右腕に集まり、床材を踏み砕かんばかりに足を踏みしめて、右腕を突き出す。
対するは、悪魔の如き変身スーツを身に纏った『デモンロイド』、聖騎士戦隊クルセイジャーのリーダー『クルセイダーレッド』、三代目魔法少女プリズマープラネット『プリズムソレイユ』。
数多くの死線を乗り越え、アダムまでたどり着いた歴戦の勇者達だ。
デモンロイドのキックが、クルセイダーレッドの聖剣が、プリズムソレイユの杖から渾身の全てを掛けた一撃が放たれる。
「デットエンド・ブラストォォォ!!」
「デモンスマッシュ!!」
「ゼクス・カリバァァァアアア!!」
「ぶちぬけぇええええ!!」
一つの力に三つの力がぶつかり合い、一瞬アダムが三人の力を押し返すも、彼らは諦めることは無かった。
アダムが背負っているように、彼らも多くの者を背負っていた。
見えない力が後押しするかのように、徐々にアダムが押し負け始め、ついに。
「ぐっおおおぉぉっ……!!」
アダムは光の渦に飲まれ、地面を抉りながら壁へと激突する。
三人の放った技の威力は凄まじく、頑丈な外壁すら貫いた。
光が収まると、壁があったと思われる位置にアダムが力無く倒れていた。
変身スーツも完全に破壊され機能を停止し、六枚もあった翼は全て散り、アダムから大量の血が流れ床を赤く染めていく。
助かることは無いというのは誰の目から見ても明らかだった。
それでもアダムは力を振り絞り、腕に力を入れて起き上がろうとする。
「てめえっ! まだっ!」
「待て、ソレイユ。あいつはもう……」
アダムが起き上がる様子を見てソレイユが食って掛かろうと勢いづくが、クルセイダーレッドがそれを止める。
どさりと音を立ててアダムは再び崩れ落ちる。
もはや限界だったのだ。
アダムは判っていた。この亜空戦艦『ゲゼルシャフト』に攻め込まれてた時点で敗北は免れないだろうと。
それでも、逃げる事はしなかった。悪に悪なりの矜持がある。
この決戦から逃げてしまえば、それは自分達に付き従ってきてくれた怪人、戦闘員達に合わせる顔が無い。
(もはや……これまでか。皆よ。すまぬな……)
薄れゆく意識の中、アダムは先に旅立った同胞達に詫びながら、うっすらと瞳を閉じていく。アダムが最後に見た光景は、全てを飲み込む光だった。
――西暦20XX年。四月一日。最後の怪人組織『ゲゼルシャフト』消滅。そのニュースは世界中へと駆け巡る。――孤高のヒーロー『デモンロイド』、聖騎士戦隊クルセイジャー『クルセイダーレッド、ブルー、イエロー、グリーン、ブラック』三代目魔法少女プリズマープラネット『プリズマ・ソレイユ、プリズマ・スターズ、プリズマ・ムーン』総勢九名の最強と呼ばれたヒーロー達の消失と共に――