夢の中にて
本当にあった怖い話。
あなたにも起こり得るかもしれない、そんな話。
あれは、俺が小学生の頃の出来事だ。
ある日、俺は唐突に夢を見た。
それはなんの変哲もない、いや、そう言うと語弊があるが、それは置いておく。
俺は遊園地にいた。
その遊園地はどこか既視感のある、ただ、行ったことはないだろう場所だった。
その遊園地の広場らしき所に俺は立っていた。
周りには様々なアトラクション…。
空は青く晴れ渡り、まさに行楽日和といったところか。
メリーゴーランドは軽やかな音楽を奏ながらクルクル回り
少し遠目に見えるジェットコースターは勢いよく走り
更に遠くに見える観覧車は和やかに動いていた。
どこからか、美味しそうな良い匂いも漂ってくる。
そこにいるだけで、子供ならワクワクするような、浮き足立つような、そんな場所。
ただ俺は、これが夢だということが分かった。
遊園地としての絶対条件。「ソレ」がないだけで、ある種の恐怖すら感じるような。
人が一人もいないのだ。
(…でも、なんで遊園地なんだ?)
子供心ながらに、そう思ったことを覚えている。
なぜ?どうして?それを考えても一向にわからない。
体の自由は効かず、ただ棒のように立ち尽くす俺。
夢だとしても、動きのないそれは少しながらキツイものがある。
どれくらい経っただろうか。
俺は歩きだした。
ゆっくり、ゆっくり、体が勝手に前へ進んでいく。
不思議と恐怖はなかった。
ただ歩いているだけだから、当たり前かもしれない。
歩いている内も人は一人も見かけなかった。
お客さんも、係員も、誰一人としていない、致命的なその場所を、俺は一人歩いていく。
どれほど歩いただろう?目の前に、一つの建物が見えてきた。
それはサーカスのテントだった。
皆見覚えがあるかもしれない、ありふれたデザイン。
三角すいに、円柱を組み合わせた形状。
赤と白のストライプ。
入り口はカーテンのようになっていて。
開いているその中は、真っ暗な闇が広がるばかりで何も確認できない。
そのテントが目的地だったのだろう。
俺はそのテントの数メートル手前で立ち止まった。
俺の視線は、入り口から広がる闇に注がれている。
ここまでの俺の行動は、夢とはいえ謎過ぎて、まぁ、夢だからと納得する他なかった。
そして、「ナニカ」がこちらを見ていることに気がついた。
いつからそこにいたのだろう。
ピエロが入り口から顔を半分だけ出してこちらを覗いていた。
真っ白な顔。真っ赤なメイク。赤く丸い付け物をした鼻。典型的すぎる其の姿。
ソレと目が合い、俺は気づいた。
ソレには目がなかった。
物理的に、眼球と言うものがなかった。
その奥には、入り口の先と同じ闇が、広がるばかり。
(…!?)
さすがに、内心ゾワリとした気持ちの悪い感覚が、背中を無数の虫が這い回るような感覚が俺を襲った。
だが、俺の体は棒のように動かず、ソレから目を反らすことすらできない。
そしてソレは俺に手招きをして。
目が覚めた。
信じるかどうかはあなた次第ですが、俺はこれを全て見ました。