記憶
親友が姿を消した。
私の一番の親友。彼女は天然で、ふわふわしていて、作っているのかと思うほどにかわいい、完璧な人間。
私とは住む世界が違う。でも、私と仲良くしてくれた。
一緒に映画を見に行った。
一緒にご飯を食べた。
彼女の家に遊びに行った。
彼女がいる毎日はとても楽しかった。
でも、今は違う。
一週間も学校に来ていない。家に行ってみても、家族に話しを聞いても何もわからない。
私は私が思っていた以上に彼女のことが好きだということを気づかされた。
それは「恋」と呼べるくらいに。
彼女がいなくなってからの毎日は何か大きなものが欠けていて、退屈でつまらなかった。
今までのように朝起きて、学校に行く用意をして、学校に行って、授業を受ける。いつもと違うのは、学校の帰りに彼女を探しに行くということだけ。
そう、私は毎日彼女を探しに行っている。けれども、彼女を見つけるどころか、彼女の痕跡すら見つからない。見つからないんじゃないか。そんなことは思いたくない。だけど、そう思っているひとはたくさんいる。
たとえば、彼女、そして私が日々通っていたこの教室。教室の隅には彼女が使っていた机といすがある。でも、そんな机を気にする人なんていない。邪魔だと思っている人さえいる。どうせ帰ってくるわけなんてないと。
私はその言葉を聞いたとき、どうすることもできない感情に襲われた。その時、私はその言葉を発した人間に手を上げていた。そのことがきっかけで私はこのクラスから孤立してしまった。
私は真の意味で一人になった。
その日から数日が経ったある日、私は学校に行かなくなった。そんな中でも、私は彼女を探しに出かける。
彼女はもういないかもしれない。そんなことは彼女のことを毎日のように探している私が一番わかっている。
でも、私には彼女しかいない。私はすべてを失った。だから今の私には彼女の面影を探す。それしかない。
そんな時にも、世間は私に味方しない。私はどう見ても未成年だ。未成年の女が街を歩いている。
そのしているうちに私は「学校に行かないで街に出て遊んでいるニート」といううわさが流れた。それはクラスメイトにも伝わったようで、街で私を見ると、ヒソヒソと何かを話し出す。
そんな日常に慣れてはいけないのはわかっているが、私はそんなことに興味がなかった。
私が今、興味を持っていること、それは彼女という存在だけだった。
毎日、毎日、毎日。私は彼女を探した。時にはこの街だけではなく、隣の街。もっと遠くにも彼女を探しに行った。そこでも私は視線を集める。
じきに私は食事がのどを通らなくなった。私はやせていく。異常なまでに。私は前よりも視線を集めるような見た目になった。
視界が歪む。
めまいがする。
ふらふらする。
目の前のすべてが灰色に見えた。
それでも私は彼女を探す。
そんなある日、私は遠くの街まで彼女を探しに行った。そこで私は彼女を見た。それは一瞬だった。でも私には彼女は彼女だと分かった。
私はその人を追った。けれども、遅すぎた。私はいつの間にか走る体力もなくなっていた。
次の日、私はまたこの場所に来た。彼女がいるかもしれない。
そう思える、かすかな希望だけで私の見る世界は色を取り戻した。
私はその場所でまった。どれくらいの時間がたったか、それすらもわからないくらいに。
「あ、あの。大丈夫ですか?」
そんな声が私を現実に引き戻した。その声は"彼女"の声だった。
私は声のするほうに顔を向ける。そうすると、そこには彼女がいた。
確かに私が知っている彼女とは違う。ところどころが破けているパーカーにジーパンという私が知っている彼女からは想像もできないような服装。
でも、そこにいるその人は私が何日も何か月も探し続けた彼女、その人だった。
私は彼女の名前を呼ぶ。そうすると、前の彼女がしていたようにいつもの笑顔を浮かべ、「そうだよ、久しぶりだね」という。そして、私が「も~、ずっと探してたんだから。」そう返す。
そう思っていた。でも違った。
彼女が私に向けたそれは「困惑」という単語がぴったりな表情だった。
そして、ハッとした彼女はいつもの笑顔を浮かべ、こういう。
「すみません、誰かと間違ってると思いますよ?」
そんな彼女の顔を見て、私は絶望に襲われる。
もちろん彼女に私を陥れようとしているなんてことはないはずだ。
私が石のように固まっていると、彼女は続けてこう言った。
「あっ、もしかして、私のこと知ってる?」
話を聞いてみると、彼女はある日を境に記憶がないのだという。
そのある日とは、彼女がいなくなった日だった。
そして、彼女は今、ホームレスとして生活をしているのだという。
彼女は私にこう言った。
「でも、少しだけ覚えていることがある」
私がそれは何かと問うと彼女はこういう。
「事柄じゃない、一つの感情」
「それは何?」
「自分のことが嫌いで嫌いで仕方がないということ。そして、周りの人間を心の底から憎んでいるということ」
その周りの人間とやらに私は含まれるのかどうか、そんなことはわからないし、わかりたくもない。
でも、私にはわかった。含まれている。
なぜかはわからない。
けど、思い返せば記憶を失う前の彼女は笑顔の中になにかがあった。今、目の前にいる彼女が浮かべる笑顔とは決定的に違う何かが。
それはきっと、"疲れ"なんだと思う。彼女は幼少時からかわいかった。それゆえに、周りの期待にこたえなくては。そう思っていたんだろう。
そして、あの日限界が来た。限界を超えた彼女は、今の彼女になってしまった。
そんなことを考え、暗い表情を浮かべている私に彼女は言った。
「でも、私には自分が嫌いとか、他人が憎いとかはわからない。」
だって、こんなにも自分のことを気遣ってくれるいい友達がいて、毎日一緒に学校?で勉強をしてたんだって思うと、すごいうらやましい。
そして、数週間が経ったある日、すっかり元気になった私は今の彼女と一緒に学校に行く。
予定ではもう少し長くする予定だったのですが、私の気力が持ちませんでした。