プサン 2
四つん這いになった死神たちが、肉食獣のように目を爛々と輝かせて迫ってきました。人間では出せないはずの速さで走ってきます。涎をまき散らすその様が、私には少し哀れに思えました。
しかし速いとは言っても、バイクに勝るはずもありません。後ろから走ってくる死神たちの姿は、どんどん小さくなります。だから、注意するべきは前方にいる死神たち。
まず二体が、私たち目がけて飛び掛かってきました。しかしバイクの速さを見誤ったのでしょう、二体は私たちが通り過ぎた後で互いと衝突し、鈍い音を立てて地面に落ちました。ちらりと確認すると、一体は首が折れてこと切れていました。もう一体は肩の骨が突き出してしまっていましたが、まだ私たちを追おうとしています。ところが後からやってきた別の死神たちに踏みつぶされました。
前に向き直ると、一体の手が彼の腕に触れようとするところでした。すかさず彼の手がハンドルから離れ、死神の腕を払いました。結果、その死神は追い払えましたが、一瞬バイクが傾きました。バイクに乗っているのは私たちだけではありません。私たちが生きるために必要なものが全て入ったリュックによって、バランスを取るのが難しくなっています。
私は彼が死神たちに対応するのは危険だと判断しました。
「デト君、死神は私に任せて」
そう告げて、私はコートを、袖をリュックの肩ベルトに通したまま脱ぎ、袖を胴に巻き付け結びました。そして、彼の背中を頼りに立ち上がります。ちょうどそこで前から飛んできた死神を、顔を殴って吹き飛ばします。
私は体を捻り、リュックのチャックを開けて中をまさぐりました。お目当てのものはすぐに見つかります。私は能力をさらに解放し、それをリュックから引き出しました。その、透き通った青い姿が露わになります。
「お願い、サクヤちゃん」
鞘を抜き去り、リュックに入れて、チャックを閉じました。私はまた前に向き直ります。
コノハナサクヤを使うと、私の間合いが広がり、彼の分まで戦うこともできるかもしれません。
そこからさらに、死神たちの数が増えました。いかにも本能のままという風に迫ってきます。
一番初めに間近に来たのは、右側から来た私よりも幼そうな少年。その首に赤い筋を入れてもなお、しばらく動いていたようですが、すぐに見えなくなりました。
次に左側から来た長身の死神の首を掴みます。前から跳んできた別の死神の顔に顔をぶつけて、放りました。
今度は右から同時に二体やってきました。一体の頭部に刃を突き刺し、そのままの勢いで腕を振り下ろし、その死神の体を地面を這うようにやってきた死神に叩きつけました。
勢いよく突き刺してしまったため、コノハナサクヤが頭部から抜けません。都合よく、後ろから強引に飛びかかろうとする死神がいたので、腕を払って再び死神の体と体をぶつけて対処しました。その際の遠心力で、死神の頭部がずるりとコノハナサクヤから離れました。
唐突に、左脚に違和感を感じました。見れば、一体の死神が私の脚に噛みついていました。離されまいと、手が私の脚を掴みます。訪れる、筋肉が骨ごと引きちぎられるような鋭い痛み。すかさずコノハナサクヤを左手に持ち替え、死神の首を斬りました。しかし失敗し、傷は浅くなりました。血が噴き出し、私の体にかかります。ところが死神の力は弱まるどころか、むしろ一層強くなりました。
私は今度こそ首を深く斬りつけ、彼の肩を掴んで脚を振りました。死神の体が後方へごろごろと転がっていきます。
「大丈夫、コノハ?」
「まだ大丈夫。前だけ気にしてて」
そうは言うものの、私の脚にできた噛み跡からは血が線を引いていました。死神が掴んでいた部分にかすかに薄紫色が残っています。
しかしそうしていつまでも左脚ばかり気にしてもいられません。右側で音がして振り返ると、死神の体が間近にありました。咄嗟にその顔に肘を当てがいます。死神自身の勢いによって想像以上の破壊力になります。顔が潰れる感覚がありました。おそらくもう目は見えていないはずなのに、地面に倒れたその死神はまだもがいていました。
その姿に思わず目を背け、前を見ると、真正面から跳んできた死神の姿がありました。驚きと焦りで頭が真っ白になります。
「伏せてっ!!!」
彼の言葉で我に返り、私は慌ててシートに座り体を縮めました。私たちの頭上を、死神の体が通り過ぎていきます。
私はすぐさま頭を上げました。そして見つけました。バイクの進む方向に死神が一人、倒れ伏してこっちを見ているのを。
すかさず彼の視界を確認します。彼はまだ、上体を起こしていませんでした。前にいる死神に気づいていません。
このままだと、衝突する。
「デト君!!!」
それは、門までの道の半分を進んだ時点でのことでした。




