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少し、存在意義について語りたいと思う。  作者: ふきの とうや
第一章 shepherd's purse 後編
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プサン 1

「行くよコノハ!!!リュック背負ったね!!!」

「うんっ!!!」


 彼がアクセルを全開にし、バイクが発車しました。速度が上がると同時に一気に板を上っていき、宙へ飛び出します。訪れる、一瞬の浮遊感。舌をかまないよう口を閉じました。


 バイクは道路に着地、衝撃が車体から伝わってきました。しかしそれもわずかな間で、たちまちスピードが上昇していきます。


「なんだ!?」

「危ねっ」


 私の前にいた人々が、慌てて飛びのきます。通り過ぎると、私の背中に視線を感じました。当然です、見たことのない技術なのだから。

 しかし私たちの顔はヘルメットで隠されています。このままの状態でい続ければ、万が一にも身元がばれることはありません。


「このまま行くよ。じきに研究者たちが集まってくる」

「分かった」


 バイクは、門へと続く長い長い道に突入しました。人が少なくなったことで、より一層加速します。風を切って進む私たちの体。髪が後ろへ流れ、リュックとシートに挟まれたコートの裾が激しくたなびき音を立てます。

 しかし全速力でも門が近くなっている感覚はありませんでした。十数分で着く程度の距離ではないということです。


 そんなことを考えるうちに、辺りがにわかに騒がしくなり始めました。前に見えるたくさんの家のそれぞれから、人が通りに出てきます。私たちの背後でも声のさざめきが起こります。バイクの轟音は他に比類ないものです、気になるのは至極当然。


「デト君。そろそろ能力発動させるよ」

「分かった。まだ、全力じゃなくていいからね」


 そして、人が集まりだしたことで、その騒ぎを聞きつけ研究員がやってくるでしょう。そうなる前に、能力で少しでも生存確率を上げておこうという算段です。


 ふっ、と息を吐き、彼にしがみつきながら目を閉じました。元々研ぎ澄まされていた聴覚がさらに向上し、足音の数までもが曖昧ながら分かるようになります。動体視力も上がり、後ろへ消えていく人の顔の表情が、手に取るように分かるようになりました。しかしこれでも、彼の感覚の半分程度しか再現できていません。プサンを出るまで、能力は発動し続けなければなりません。能力の持続時間を延ばすための判断でした。


 そして、私の能力の別の特性。彼が感じていることを私も感じることができる、五感共有。生憎彼の背中で私は前方を確認することができませんが、この特性によってあたかも私が二人いるかのように二つの視点からの情報を得ることができます。


「後ろ確認して」

「了解」


 彼の要求に応え、私は首を捻り後方を見ました。未だ、研究員の姿は見えません。


 しかし、そう安心したのも束の間。


「研究員来た!あっ、待って前にもいる!」


 立ち並ぶ平小屋の間から、いくつか白衣姿を確認しました。そしてその瞬間、彼の視界の中にも同じ白衣が現れたことが、情報として頭の中に流れ込んできました。


「来たか·····」


 彼が小さくぼやきます。港はかなり遠く、門までの距離の四分の一くらいまで進んだ時点のことでした。


「待てお前たち!今すぐ止まれ!」


 そんな声が、私たちの前から後ろへと過ぎ去っていきました。もちろん止まるはずのない私たち。


「行け、あれを止めてこい」


 あちこちから風に乗って私の耳に届く威圧的な声。研究者たちの声でしょう。


 そしてとうとう、彼らが通りに出てきました。私たちの最大の懸念材料。研究所に人生を奪われた存在。人権を与えられず、世界の闇として生きる研究所の非道の象徴。研究所の最高戦力。


 死神の姿が、ちらほらとその姿を見せます。不健康そうな真っ白な肌と、それ以上に白い雪色の髪。彼と同じ、真っ赤な瞳。


「多分研究所の奴らは、まずは俺たちがどこでバイクを手に入れたか知りたがるはずだ。だから優先するのは俺たちを止めることで、殺そうとはしないと思う。俺たちの正体がばれた場合は分からないけどね」


 彼が小さく言いました。実際、研究員なら持っているはずの銃は、その黒い輝きを見せないでいました。


 そしてすぐに、そんな風に彼と喋る余裕もなくなりました。


 死神たちが、獣のように私たちに向かってきたのです。

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