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少し、存在意義について語りたいと思う。  作者: ふきの とうや
第一章 shepherd's purse 後編
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オーサカ 8

「でも、なんでヴィリュイスクなんだ?オーサカの近く、いやそもそもオーサカに本部を置いてはいけなかったのか?国王、貴方はどうやらそのリベレーターとやらの中でもかなり重要な役職のようだが、そんな貴方が何故不当な条件に屈しているんだ」


 彼がふと、そんなことを国王に尋ねました。すると、国王の顔がみるみるうちに暗くなりました。言いづらそうに国王は答えます。


「本部がヴィリュイスクにある理由は簡単だ。旧ロシア、特にヴィリュイスク周辺は審判の日に起きた災害の被害が比較的小さかった。その結果、研究所の支援をそれほど受けずとも存続できた。それゆえ、研究所が独裁的支配を行なう世界の現状に懐疑的だったのだ。そんな彼らを恐れ、研究所はこれまで幾度となく制裁という名の処置を施してきた。それが却って、研究所と旧ロシアの数ヶ国との対立を決定的にしたのだ」


 一息で話してしまうと、国王は深く息を吐きました。


「私が、というよりは我がオーサカが不当な条件を呑まされているのは、単純に私が研究所を恐れているからだ。私は殺されるのが怖いのだ」

「怖い?」


 彼が少し冷やかすように言いました。


「研究所を潰すという大それた理想を抱いた、貴方のような豪胆な方が、研究所を恐れるのか」

「零村デトラ。お前は研究所というものを何も理解していない。お前が賢いというのは嘘だったのか?」


 国王に言われ、彼はむっとして口をつぐみます。ついでに私もむっとして国王を鋭く見返します。


「私とて、できることなら研究所に抗議したい。私は国王だ、国民を守る義務がある。だがな。私は第七代オーサカ国王だ。つまり、審判の日以降オーサカには私を除き六人の王がいたのだ。その全員が抗議しなかったと思うのか?我が国の保有する唯一の資源である鉄は研究所にのみ販売が許され、他国との貿易材料はない。食糧も資金も何もかも研究所との取引で取り入れるしかない。そんな状態で国民全員の生活を保障できる訳がない。オーサカの人口は減り続け、今や無人の街とまで言われるようになった。そんな状況をだれ一人として止めようとしなかったとでも?」


 徐々に感情が昂っていく国王の圧によって、私は思わず押し黙りました。そんな私とは対照的に、彼が静かに口を開きます。


「殺されたのか?六人全員」


 国王は、ゆっくりと頷きました。目を伏せてまた話し出す国王。


「そもそも国王などと言っても、国王になるかどうかに血筋などは関係なく、研究所と関わりがあるかどうかで決まる。私は元々研究所に雇われていた技術者だ。


 だが、研究者は研究にのみ専念するべきだという考えがあるからか、研究者が国王になることはなかった。それが悲劇を招いた。研究所と関わりがあると言っても所詮普通の人間、国を第一に考える。不当な条件を突きつけられれば反抗もする。研究所は、言うことを聞かなかった王はすぐに殺した。そして私の代になったわけだ。


 無論、私も初めは抵抗を試みたこともあった。だが、世界解放軍(リベレーターの議長となり、簡単には死ねない立場になった。そして何より、妻を殺された」


「何?」


 私たちは目を見張りました。淡々と語る国王の口から、まさかそんなことを聞かされるとは予想だにしていなかったのです。

 国王は努めて平静に語り続けました。


「議長となってすぐのことだった。書類を整理していた私のもとに部下が慌てた様子でやってきた。連絡を受けた私が塔の下へ下りると、磔にされた妻の死体があった。誰の仕業かは結局分からずじまいだったが、私にはそれが、研究所による警告だと思えた。次はお前だというメッセージのように感じたのだ」


 国王が、長い長い溜息をつきます。


「妻の死体は、西の小さな丘の頂上に埋めた。昔はナズナが咲く美しい丘だった。今は工場の下だがな。オーサカはもう、ナズナも生えない荒んだ街になってしまった」


 私は、ちらりと扉の前の人型物体を見ました。彼女(彼?)の名前はナズナ。国王に作られたと言っていました。研究所に対する、国王の些細な抵抗なのでしょうか。あるいは、ただ愛する人を忘れないために作られたのか。真意は分かりませんが、国王の話を聞いてから見ると、少し愛おしく思えました。


 なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして、申し訳ない気持ちになる私。彼も同じようで、哀しみが表情に表れていました。

 そんな私たちを見てどう思ったのかは分かりませんが、国王は一転して明るい口調で話し始めました。


「まあ、これも一つの教訓と考えることもできる。『愛し合う二人は死に別れる。』これは御伽噺なんかじゃ当たり前のことだ。

 見たところ、どうやらお前たちはお互いを想い合う仲らしい。ならばくれぐれも用心せよ。まずは自分が生き残ることを考えるのだ。相手のために死のうなどとは思うなよ」


 軽快に話す国王でしたが、その目は至って真剣でした。国王に対し、彼はふっと笑って答えます。


「俺が死ぬなんてことはまずない。それにコノハは俺が全力で守る。どっちも死なないさ」


 彼の言葉を聞き、たちまち渋面になる国王。しかし、しばらく黙っていたかと思うと諦めたように首を振りました。


「その言葉をどれだけの思いで言ったのかは知らんが、まあいい。部屋に案内しよう。研究者がこの街にやってくるまでの一週間、オーサカ滞在を許可する。ナズナについていくといい」


「ありがとう、オーサカ国王陛下」

「ありがとうございます」


 そして、私たちは王の部屋を後にしました。

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