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少し、存在意義について語りたいと思う。  作者: ふきの とうや
第一章 shepherd's purse 後編
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オーサカ 5

「何を仰るんですか。研究員ですよ、私たちは」

「いいや、違うな。そもそもお前が白衣を着ていないことで気づくべきだった。赤い目の人間がいれば自動で研究員とナズナに判断させるようにしたのは失敗だったか」


 どうにか取り繕おうとする私ですが、もはや国王は私たちを信じる気はないようでした。ますます焦る私の背中を、彼がぽん、と叩きました。愛おしい、彼の優しい手。真っ白になっていた私の頭が、はっと澄み渡っていきます。


「仕方ないよ。コノハは頑張った」


 彼の励ましで少し落ち着きを取り戻したものの、体を流れる嫌な汗が服に張り付いて気持ち悪さを感じ始めました。ねっとりとした嫌な空気が私の肌を撫でます。一方で彼は、低い声で国王に問いました。


「もしあなたを脅迫したら、俺たちをここにいさせてくれるのかな」


 すると国王はふ、と笑って答えました。その目が、爛々と輝きます。


「やってみるがいい。私の心臓の鼓動が止まった瞬間この塔は崩壊する」


 嘘だ、と言いたかったものの、これまでのオーサカの摩訶不思議な物体の数々を考えてみればあり得る話です。


 もはや打つ手なし。どうにかオーサカを出て、別の都市を目指すしかない。あきらめるしかなく。


 しばらくじっと止まったままの私たちでしたが、諦めに近い決心をして私は、


「行こっか、デト君」


と彼に声をかけました。応えるように彼が頷きます。彼もやはり、少し悲しそうな顔をしていました。


 振り返り、部屋を出ようとする私たち。扉の前に控えていたナズナが、扉を開けます。何だ、自分で開けられるんじゃないか、と私は少し呆れました。そして、そんな些細な気持ちなど忘れてしまうほどの巨大で雑多な感情。不安、やるせなさ、憤り、哀しみ。混ざり合い、濁流となって押し寄せた感情が、私の心を埋め尽くしたのです。


 そうして、肩を落とし扉の外へ足を踏み出そうとした時。


「待て」


 焦ったような、上ずった声が私たちの背中に投げかけられました。てっきりすぐに追い出されるのかなと思っていた私は、少しびっくりして足を止めます。

 何事かと国王を見ると、国王は腰を浮かせ、狼狽えた様子で私たちを見つめていました。


「今、『デト君』と言ったか?」


 唐突の国王の問い。その意図を捉えあぐね、押し黙る私たち。構わず、国王は言葉を継ぎます。確信のようなものを秘めた、それでいて不安のようなものを抱き、はやる気持ちを抑えられない、という様子でした。


「お前の名前は何だ」


 じっと彼の方を凝視する国王。しかしそんな風に問われると、不信に感じない訳がありません。私たちの口はますます堅く閉ざされました。数秒待ち、国王は痺れを切らして早口で告げました。


「お前は零村デトラだな。最初の成功体の」


 零村デトラ。それは彼の名。私の愛する人の名前。しかし、国王から発せられたその響きは、私にはどうにも怪しく感じられました。彼が自ら自分を零村デトラと名付けたのは、研究所を脱した後。その後彼に関わろうとしなかった研究所が、彼の名前を知っているはずはありません。トーキョーにいた彼の情報を調べたとしても、彼が人造人間であることは知りえないはずなのです。


 怪しがる私たちを見て、国王は取り繕うように言います。


「気が変わった。お前たちのオーサカ滞在を許可しよう。研究所について、私の知りうること全てを教えてやる」


 国王の、突然で突飛な提案に戸惑う私たち。意に介する様子もなく、国王は続けて言いました。確信を持った口調で。


「私は、第七代オーサカ国王である、と同時に、反研究所組織、世界解放軍リベレーターの議長である」

「リベ······レーター······?」


 聞いたことのない言葉の響きは、異質なものとして私の耳に留まり続けました。国王が静かに頷きます。


世界解放軍リベレーターだ。お前たちの味方だと考えてくれればいい」

「と、言われても······」


 口ごもる私。国王は今度は、私の方をじっと見つめました。


「それで、お前の名は?」


 私は答えていいものか分からず、彼の顔を窺いました。彼も彼で神妙な面持ちでいましたが、ゆっくりと頷きます。私は恐る恐る答えました。


「えっと······柊コノハです」

「柊コノハ、か。柊家の一人娘。反逆者の子供。初の成功体と反逆者の娘が出あうとはな。こんな偶然もあるものか。世の中、何が起こるか分からんな。さて」


 一人で話を進めてしまう国王。取り残された私たちは、国王の口が止まってくれたことに少しく安堵します。


「何から聴きたい」


 とりあえず話を聞いてみよう、とは思ったものの、こんな風に訊かれると咄嗟に尋ねられないのが常というもの。案の定言葉に詰まる私でしたが、さすがと言うべきか、彼が代わって訊いてくれました。


「何故俺のことを知ってる?それに、コノハのことも知っているようだが」


 すると国王はふむ、と呟き、語り始めました。


「そうだな。やはりあいつのことから話すのがいいか。お前たち、花の装飾の付いた青い短剣は持っているか?」

「コノハナサクヤのことか?持っているが······」

「それをお前たちに売った男こそ、お前を密かに守り続けた協力者だ」


 そう言って、国王はにやりと笑いました。

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