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少し、存在意義について語りたいと思う。  作者: ふきの とうや
第一章 shepherd's purse 後編
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オーサカ 1

 翌日早朝、私たちはすぐにワカヤマを出ました。外国人居留区に研究員がやってくるより先に出たかったからなのですが、出国管理官には怪訝な顔をされてしまいました。しかし、難儀した入国とは異なり出国はあっさりできました。


 それから丸一日歩き続け、私たちはワカヤマの周りに広がる森の端まで来ていました。森に入った時と同じく突然植生が変わり、黒い岩に覆われた大地が広がっていました。木々はおろか草一本ありません。


 そこで野宿をすることにして、私たちは疲れた体を休めます。適当な太さの木を見繕って背もたれにし、ほっと息をつく彼。

 太陽が地平線に触れ、空が朱に染まります。無事に一日を終えられた安堵、そんなものを感じる光景でした。ゆっくりと、夜が近づいていました。


 そんな中、私はというと。


「うっ、お、おえおえおぇ」


 盛大に吐いていました。


「やっぱりやめた方がいいよ。かなり苦しそうだよ?」


 彼の心配そうな声が聞こえてきますが、私は横に首を振り、口を拭います。と、大きなめまいに襲われて頭を抱えました。頭が割れる勢いで痛みます。


 どうしてこんなことになっているかというと。


 ワカヤマからここまでくる間に、私の能力の話になったのです。彼の能力『シェパーズ・パース』は、私の血を口に含まないと発動しませんが、どうやら私の『フォアゲット・ユー・ノット』には発動の条件がないようなのです。


 その代わりと言いますか、私の能力による彼との感覚共有には限界があります。私の体が耐えられる範囲までしか彼の感覚に近づけないのです。まだ五感は何とかなりましたが、身体能力の方は体が制御できなくなってしまい使えそうもありません。


 しかし、ワカヤマで起こったことを考えると、いくら彼が守ってくれるとは言え自分で自分の身を守る手段は持っておくべきでした。そのためには、やはり私の能力は必要でした。


 彼の身体能力に私が耐えられるようになるためには、私が体を鍛えてベースの身体能力を彼に近づけるというのも一つの手段でした。しかし、研究所の無茶な要求に耐えられるように造られているはずの彼の体。どれだけ鍛えればいいのか予想ができません。


 なら、この痛みに慣れればもう少し耐えられるようになるんじゃないかと、そういう結論に至ったのです。私が何度も能力を使って体がその感覚に慣れれば、さらに体を強化できると、そう考えたのでした。


 とは言っても、わざと体を限界に追い込むわけですから、辛いことになるというのは至極当然でした。そんなことを彼が許すはずもなく。彼にはかなり渋られました。何を言っても首を縦に振ろうとしなかったのですが、私とデト君がずっと一緒にいるためだから、と言うと、どうにか了承してくれました。ただし、危険と判断したらすぐに中止することを条件に。


 そんなこんなで現在、本日三回目の能力使用中でした。未だにこの苦しみに慣れる気配はなく、彼がもの凄く不安そうな顔で私を見ていました。私は無理に笑顔を作ってみせます。

 しかし努力の甲斐があったのか、能力を使える時間は少しずつ伸びていました。この調子でいけば、彼と一緒に戦うことも空想ではないかもしれません。


 と、苦痛の波の狭間でそんなことを考えていた矢先に限界がきて、能力が切れました。ふっと力が抜けて私は思わずへたり込んでしまいます。


 歩み寄ってきた彼が私の背中をさすってくれます。しばらくすると脈が落ち着いてきました。


「ありがとう、もう大丈夫だよ」

「本当に?ならいいけど、もう今日は能力は使わないでおきなよ」

「うん······分かった」


 危険だと思ったからというよりは、彼に心配させすぎるのも悪いと思ったので、私は能力の使用を諦めました。

 気付けば、辺りはすっかり夜の装いでした。すでに星が空に満ちています。彼に口を拭ってもらい、私たちはお互いの気に入った木にそれぞれもたれかかりました。


「明日は早起きして涼しいうちに行こうか。最近暑くなくなってきたけど、この様子だと日光を遮るものがないからなるべく体力を削られないうちに行きたい」

「分かった。私の方が早起きしたらちゃんと起こすからね」

「いやあ、コノハより遅いことはないと思うなあ」

「そんなことないよ!ちゃん起きれるよ」


 どうかな、と彼は笑いました。どうやら機嫌は直ったようです。


「食糧もとれなさそうだし、しばらくは干しキノコかな」


 彼の独白に、私は不満を漏らします。


「さすがに飽きてきたなあ、他に何かないの?」

「諦めてとしか言えないな。あ、でも乾パンならあったと思うよ」

「あ、それは明日の夜に食べよう。ちょっと特別なディナーってことで」


 豪華じゃないけどね、と苦笑する彼。本当は彼と食べられればなんでもいいのですが、ちょっと彼を困らせたい、なんてことを考えてしまいました。それすらも、彼には見透かされていたような気がします。


 月明かりの下、私たちは夕食を終え、早めの就寝にしました。

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