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少し、存在意義について語りたいと思う。  作者: ふきの とうや
第一章 shepherd's purse 前編
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カナガワ 7

 食事を終えた私たちは、間もなく港へと向かいました。道を挟んで海と対面した建物をのぞいていきながら歩いていくと、おじさんの商会の看板が掲げられた建物が見つかりました。彼が迷いなくその中に入っていき、慌てて私も追いかけます。

 中はたくさんの木箱や樽が置かれており、恰幅のいい男の人たちがせわしなく動き回っていました。その中に荷馬車のおじさんを見つけ、私たちは人をかき分け近づきました。

 私たちに背を向けていたおじさんの肩を叩くと、おじさんは驚いたようすで振り向き、私たちの姿を認めました。


「ああ、もうきたんだね。出港まではあと一時間ぐらいあるから、客室ででも待っているといいよ」

「ということは、無事話はついたんだ」

「ああ。ただやっぱり、お嬢さんはあまり甲板には出られないと理解してほしいとさ」

「そうか。何か手伝えることは?」

「勝手が分からない人に下手に手伝われると、むしろ時間がかかるから待っていてくれ、って船長は言っていたよ。客室は奥に入ってすぐのところにある」


 おじさんが指さしたところからは、廊下が続いており、そこに部屋があるようでした。


「わかった、ありがとう」

「ありがとうございます」


 私たちはペコリと頭を下げて、部屋へと足を進めました。


 そして見つけたのは、重厚な渋い色の木の扉。たかが部屋のドアにも、丁寧に気が配られているのがよく分かりました。

 彼がノブをひねり、私も一緒に中に入ると、黒く光沢を帯びた立派なソファーが向かい合ってあり、その中央に透明のテーブルが置いてありました。天井のおしゃれなライトが、部屋を煌々と照らしています。


「なかなか豪華だなあ」


 そう言いながら、リュックをそばに置いて、彼はどかっとソファーに座りました。私は、この部屋に私がひどく似合わないような気分になって、体を小さくして座りました。向かいあう私たち。

 突然、こんな部屋が用意できる商会の船が一体どんなものなのか気になってきました。果たして自分が乗っていいものか、少々不安になったのです。


「ねえデト君。私たちが乗るのってどんな船なのかな」


 彼にそう尋ねると、彼はうーん、と唸り、首をかしげました。


「まあ、大きいのは間違いないと思うよ」


 そう、答えてくれました。やっぱりか、と呟く私に、彼がさらに続けて言います。


「審判の日の後、研究所が世界の復興に尽力したのは、周知の事実だけどね。どうも、生き残った技術者を研究所が確保して、専門的な知識とか技術の独占をしているみたいなんだ。その上で、まずは各都市国家の生活と経済の安定を目的に動いたから、船とか、審判の日以前にはあったっていう車?みたいな、長距離移動手段は発達しなかった。それでも、知識はあるから、昔の再現がなされるのは早いんだけど、資源の枯渇っていう問題もあるからね。多分、俺たちが乗るのは普通の帆船じゃないかな。これだけ大きい商会だと、蒸気船っていうこともあるかもね」


「蒸気船?」


 聞きなれない言葉に、今度は私が首をかしげます。うん、と頷いて、彼が教えてくれます。


「蒸気で車輪を動かして動くんだ。かなり速いらしい。ただ、蒸気船を造るのに十分な鉄とか、そういったものは手に入りにくいしね。トーキョーには、昔トーキョータワーっていう塔があったみたいだけど、貴重な鉄資源だから、ってことで取り壊されてしまったみたいだよ」


 私は、トーキョーにいた時に、窓から遠くにかすかに望んだ大きな塔を思い出した。


「あれ?塔ならまだあったと思うけど」

「うん。あれは、スカイツリーっていって、トーキョータワーとはまた別ものだよ。トーキョーのシンボルではあるけれどね」


 なるほど、と私は頷きます。彼が話を続けます。


「どうも、昔はモーターっていうので動くものもあったみたいだけど、やっぱり知識はあるけど造れないっていうのが現状かな。とにかく、今のところ蒸気船が最新鋭の船だよ」

「へええ。よく知ってるね」


 感嘆から、私はそう言葉を漏らしました。彼の博識さに、私は改めて驚くばかりでした。そして、そんな私の反応に照れたのか、彼は言い訳をするように、


「昔のこと知るのが好きだからね」


と言いました。


 そんな風にして、彼といろいろなことを話し、話し疲れた頃。扉が、コンコンとノックされました。


「はーい」


 彼が扉に呼びかけると、扉がガチャリと開き、荷馬車のおじさんが顔をのぞかせました。


「お待たせ。準備ができたらしいから、ついてきて」


 おじさんの言葉で、私たちは立ち上がりました。巨大なリュックを背負った彼に続いて、私は部屋を出ていきました。


 商会の建物を出て、おじさんの後を歩いていく私たち。相変わらずの喧噪の中、左手に広がる海が、日の光を反射して輝いているのが、とても印象的です。そんな海を眺めながら、歩んでいくと、間もなく、商会のものと思しき船が見えてきました。


「うわあ、大きい!」


 思わずそう叫んで、私は思わず口を塞ぎました。周りから微笑みが向けられ、私は恥ずかしさで自分の無邪気さを呪いました。


「珍しいかい、お嬢さん?あれが、私たちの商会が誇る商船さ」


 そこにあったのは、三本マストに帆が張られた、とても巨大な木造船、帆船でした。その、日の光を浴びて佇む姿は、とても力強く感じられました。

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