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8.溜め続けたヘイト。何時解き放つの? 後でしょ。

 血溜まりに這い寄り、その血に含まれる僅かな魔力を操作して結晶化させる。

 

 飴玉程の大きさで揃えた小さな塊をつまみ上げては口に放り込み舌先で転がす。コロコロ。

 

 僅かな魔力と言ったが、俺たちにとって僅かではあるが、奴等に取ってはあり得ない魔力量だったようだ。

 

 血と共にダダ漏れしていた彼の濃密な魔力は俺の魔力操作によってかなり薄まっている。

 


 前の奴等には途中からとなったが、徐々にその流出量を絞った。


 感じる魔力が少なくなった理由を自分達の魔力が高まったからだと断定し、疑いもしない姿には心の奥底で笑いが止まらなかった。

 

 

 魔力を奪い、超越したという勘違いと魔力過多によって全能感を得た奴等は彼を足蹴にし傷付けた。

 

「もう、コレ要らねーよな」と。


 業の深い婆は更なる魔導師輩出の為に彼等を諫めるが、死なない程度にしとけと嗤っただけだ。


 魔力を生み出す石ころ程度の認識と扱いだ。

 

 

 奴等の顔は確りとこの眼に焼き付けた。倍返し程度で済ますつもりはない。だが、それは今ではないとも冷静さも失っていなかった。

 

 

 もう一つ赤い結晶を口に運ぶ。コロコロ。

 

 魔力操作のために口に含んだのかと言うと、そう言う訳では無い。前回のヤツラに刻まれた舌の紋様によって口腔内での魔力操作も魔法詠唱も不可能となってしまっていた。

 

 答えは至極単純で流れ出てしまった自分の血でさえ惜しいほど、困窮している。空腹を少しでも満たそうとしたのと不足している栄養素を補っていたのだ。それでも幾つかは空腹に耐えて放置する。

 

 

 ***


  

 サッサッサッヒタッ。

 

 人の気配が消えて暫くすると、別の来訪者が現れる。

 

 

 餌に釣られて現れたのは鼠だ。

 

 

 後ろ足だけで立ち上がり周囲を見渡す見た目が少し変わった鼠。もしかしたら土竜の仲間かも知れない。便宜上、鼠と呼んでいるが正解は俺にはわからない。何せここは異世界だ。

 

 知識らしい知識を全く持たなかった彼に聞いても当然答えは出なかった。

 

 

 現れたのが虫でなかった事に安堵し、鼠だったことにニンマリと口角が上がる――この鼠は群れで行動する。

 

 最初に現れた鼠は先頭を行くリーダーで斥候を兼ねている。

 

 その斥候の前に転がる結晶は遅延式の試作。これは大量捕獲が狙えるぞと思うと涎が垂れそうになった。

 

 

 斥候が辺りを警戒するように鼻をひくつかせながら結晶にかじりつく。

 

 罠ではないと判断したのか「チュチュッ」と一つ啼くと、ソロリソロリと群の一団らしき小さな獣達が現れる。まぁ罠なんだけどな。

 

 空腹に耐えて転がしたままの結晶にそれぞれがかぶり付いた。

 

 事前に指定した効果が発動する。

 

 

 複数の青白い光がボッボッと仄かに揺らめくと一瞬にして丸焼きとなった多数の個体。じゅるり。

 

 身動きが取れない個体は麻痺毒のグループだろう。

 

 キョロキョロと辺りを忙しなく確認するリーダーをはじめとした何体かは魔力操作の効果を測る為の個体だ。

 

「ねえ、食べても良いんだよね?」

 

「ああ勿論だとも」

 

 此方の都合で申し訳ないが、俺達が生き延びる為の糧になってもらう。

  

 あらためて他の命を喰らい自らの命を繋ぐ事に赦しを乞うように「いただきます」と口にして丸かじりする。

 

 

 

 味気ない。

 

 

 味しない。

 

 

 

 「耳が少しきこえなくなったことがあったけど、しばらくしたらなおったよ」と彼が言ったので、そのうちこの味覚障害も治るのだろう。


 が、久しぶりの新鮮な食事がコレではと落胆する。

 

 

 料理は見た目も大事と彼に説いていたのだが、やはり一番は味だ。

 

 毛皮に覆われたままの姿で丸かじりするよりも、こんがりと綺麗な焼き色が付いたものを食すことにしたのは俺の精神衛生上必要な措置だった。

 

 

 

 *

 

 

 

 青白い炎が一つ上がる。

 

「おぉまだ行けるようだな」

 

「これも食べて良いんだよね?」

 

「良いけど、ちゃんと数は数えてるんだよな?」

 

「ごめん。ちゃんとかぞえるよ?」

 目の前の鼠が食い物になったとたんに彼のカウントが止まっていた。


「ひゃくいち、ひゃくに、ひゃくさん……」

 百十まで来たところで地面に一本線を引く。

 

「……もぐご、もぐろく、もぐしち……」

 

 咀嚼しながら数える彼に代わって俺が数え始める。

 

「……107、108、109、110」

 彼の書いた線の横に更に一本付け加える。

 

 

 縦に四本並んだところで五本目を横線として引く。

 

 正の字でも良かったのだが、もっと直感的に分かりやすいだろうとして冊に似た表記で五の塊として教えていた。

 百を付けて一から十を数えているのは一定のリズムでカウントするためで、一度慣れればかなりの精度で十秒数えることが出来るようになる。

 

 彼に足し算と大きい数を教えるついでに、餌として消化された結晶がどの程度の間、魔力操作が効くのか試しているのだ。

 

 ある程度の期間魔力操作は効くのだが、永続では無いのが残念だったし、それが俺を慎重にさせている。

 

 もしも、個人の魔力が永永遠に識別可能であったならば、俺達の血を啜りに来る奴等を既に内側から燃やしているか、爆殺していただろう。

 

 今となっては簡単にこの世とおさらばさせてやろうなんて気は更々ない。少なくとも人としての意識を保ったまま、彼と同じ体験をさせるつもりだ。

 

 

 

 秒数のカウントは全く意味が無いかも知れない。現実的に考えれば体格差や胃腸の強靭さの違いの影響度の方が強いだろう。

 

 それでも止めないのは、人らしさが出来上がりつつある彼に多少なりとも我慢や継続して行う事の大事さを知ってもらいたいのだ。もぐもぐしながら数え続けるのを許すのは大甘かも知れないが。

 

 

 *

 

 

「こいつも無理か……」

 

 食糧へと変わらず鼠が逃げ出す。


 逃げ出した鼠がキュイッと一鳴きすると、左と右へと二つに分かれる。

 

「よし! こいつは掛かった」

 

 鼠が対象を切断する効果を与えた結晶に触れたのだ。

 

 少し大きめの結晶に警戒してその脇に隠すように埋め込んだ罠に上手く掛かってくれた。

 

 魔力が世界の理と言うのは間違いで無いと改めて感心する。

 

 真っ二つに分かれた一体の鼠は血も流れ出る事もなく綺麗な断面を保ったまま絶命している。

 

 その小さな身体の更に小さな胃を震える指先で押し開いて調べる。グロ注意。

 

 結晶は無かった。

 

 消化されたら俺の魔力として認識されなくなると分かった。

 

 期待していた結果には成らず残念ではあるのだが、落胆はしない。

 

 出来る事だけでなく、出来ない事を正しく把握しなくては此処から出ることは出来ないと考えて居たから。

 

 未だに魔力値MAGが0の俺は万能ではないのだ。

 

 ††††††††††††††††††††

 HP: 12


 STR: 15

 VIT: 8

 DEF: 4

 DEX: 10

 AGI: 7

 INT: 32

 MIN: 21

 MAG: 0


 スキル: 魔力操作

 ††††††††††††††††††††

 

 

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