3.経った日と角願い。
「ボエエエー」
吐き気混じりの不快な目覚め。
口の中に広がる酸味に堪えきれず申し訳ない。そう、俺の口腔内に広がるのは丁寧な単語で言えば吐瀉物の風味。はっきり言えばゲロ味。ゲロ不味い。
もちろん、百の味ある豆を食った覚えもなく、何かの拍子に寝ゲロでもしたのだろうかと危惧もしましたが、そう言うわけでは無さそうなので安心です。身動き取れない状態で吐瀉物が喉に詰まったら死んじゃうもんね。
それよりも大変な事態です。どれだけ日付が替わったか把握できないまま、少なくともここ数日――数日経っているとは思うが定かではない――同じ体勢のままなのです。
努力を重ねてみましたが、身体を動かす事は叶わないのです。
頸椎辺りに異常があるのではと一瞬絶望しました。
が、しっかりと寝沿べっている感覚に気付きました。やっほーい。感覚は有るのです。
一先ず、視覚、味覚、嗅覚、触覚は無問題。
時折聞こえるカサカサ音が空耳でなければ聴覚も問題無いはず。
ただ、このカサカサ音の正体については誰がなんと言おうと解き明かさないつもり。
真実は明かされぬ限り、その答えは幾千幾億の可能性を産み出すのだ。
とまあ、ひとり明るく振る舞ってみるものの心が折れそうです。
うつ伏せの状態は正直しんどい。
感覚的にキヲツケの状態で俯せ。
もう少し、絶妙なバランスを保っている頭部が左に傾けば、横向きに成れるそうってところ。
このバランス維持能力を鑑みるに平たい顔族ならぬ平たい額族なのかも知れない。
高いか低いかは抜きにして鼻の偉大さにマジ感謝。コレ無かったら窒息してる。
ただ、額は物凄ーく痛い。微妙に傾いているのに、ちょうどオデコの中心辺り。
おじゃる文化真っ最中の日ノ本の国に降り立った、生まれは不遇、あらゆる神の子と歌われたユニバースな皇子張りに角でも生えているんじゃ無いかと思うほど。
出来ればちょっとで良いから伸びて欲しい。ほんの先っちょで良いから。(二話連続二回目)
ちょっとで横向きに成れるはず。
そう、横向きたい。
あーー横向きたい!
何故って? カサカサが近づいてるんだよ。
やっぱ、気になるじゃん。アレで無い事だけは確かめたいじゃん!
ほら、俺、もの凄ーく良い子にしてますよ女神様。(カサ)
変則型ではありますが、五体投地そのままに数日間も貴女への祈りを捧げているんですよ。(カサカサ)
出逢いは最悪だったかも知れませんが、あんな態度取ったのも死んでしまって気落ちするよりはと、明るくおどけて見せただけなんです。(ジーーー)
俺、どちらかと言うと同性好きなんで女性の胸元に興味なんてありませんですし。(カサカサ)
と、盛大な嘘を心の声で叫んだが鼻も伸びない。(カサカサ)
ゼの付く爺様よりは、結ばれないと分かっててもおにゃのこ居る立ち方を希望します。伸びろ! (カサカサ)角! (カサカサ)
鼻伸びるより(カサカサ)角でしょ! (カサ) 角! (カサカサ)
鬼とか呼ばれても美味しいおやつやお茶用意してお家で待っちゃうよ。
頼むから伸びて……(カサカサ)
迫り来る恐怖に耐えきれず、俺は自ら意識をそっ閉じした。
思慮を重ねれば必ず上策が出来上がると言うわけではない。