1-15 殺戮・下
聖女は身体のみでなく、精神的な面も戦闘に合わせて育てられた。
そのため獰猛であり、凶暴だ。
時たまやり過ぎてしまうことすらある。
それを押さえるのも、護衛である俺の役目だ。
ならばもっと護衛を増やすべきだという意見もあったが、夜行動するときに目立ってしまうのと、単純にルナの邪魔になってしまうということから、やはり一人がベストということになった。
「あ……」
俺がボーッと戦いの様子を見ていると、ルナを囲んでいた連中の数が半分程度になっていた。
しかし、銃弾には限りがある。
これだけの人数を減らすには、最初から込められている弾などすでに撃ち尽くしてしまっているはずだ。
ルナは自分の銃から弾丸が発射されないことを確認すると、ため息を吐く。
やつは、敵陣のど真ん中で武器を失ってしまった。
「今だ!」
手下の誰かが叫ぶ。
次の瞬間、手下たちは一斉にルナに襲いかかった。
良い判断だ。
普通のガンマンと呼ばれる連中ならば、これで詰みである。
しかし、ルナの場合は違う。
「ライト、レフト、『セイクリッドS.G』」
ルナは小声で何かをつぶやいた。
同時に、持っていた『セイクリッドD.E』を目の前の男たちに投げつける。
「ギャ!」
「がっ」
それを顔面に受けた二人の男は、仰け反って地面に転がった。
しかし、依然危機はそのまま。
男たちはすぐそこまで迫っている。
すると、連中をかき分けるように、『棺桶』の中から何かが射出された。
それは真っ直ぐルナのもとへ飛んでいき、それぞれやつの両手に収まる。
『セイクリッドD.E』よりもはるかに銃身が長く、使用する弾の経口も違う二丁の銃。
名を、『セイクリッドS.G』。
「火を吹け――――」
ルナはそれを左右に向け、引き金を引いた。
D.Eと比べても桁違いの爆音とともに、銃弾が放たれる。
ばら撒くという形で――――。
「は?」
マンモンが驚くのも無理はない。
手下のさらに半数が、声も出せずに吹き飛んだのだから。
散弾と呼ばれるこの銃は、引き金とともに散らばる銃弾を放つ。
それの破壊力は計り知れず、複数人をまとめて吹き飛ばしてしまうほどの威力だ。
当たった人間は瞬く間に肉片と化し、命を失う。
運良く命を落とさずとも、もはや立つことすら出来ない身体になるだろう。
「ひっ……」
仲間が肉片になったのを見て、他の連中を足を止める。
それが一番の悪手だというのに。
「さようなら」
再びの爆音。
飛び散る血と肉片の中、立っているのはルナとマンモンと大男、そして生き残った数人の男のみ。
生き残った数人と言っても、見たところ三人ほどだ。
「ゆ……許してください……」
「だーめです。お仕事ですから」
三人は逃げ出そうと動くが、セイクリッドS.Gを逆向きに持ち替えたルナによって、頭をかち割られる。
鈍器と化したS.Gから血を滴らせ、ルナはマンモンの方に顔を向けた。
「あとは、あなたたちだけですね」
「て、鉄腕! 私を守れ! やつを殺せ!」
「ああ」
鉄腕と呼ばれた大男は、マンモンへの射線を隠すように、ルナの前に立った。
立ち姿から、もうほかの手下たちとは桁違いの実力者だと分かる。
しかし、別に心配することもない。
その程度のことを、ルナが把握していないはずがないからだ。
「ライト、『セイクリッドD.E』。レフト、『セイクリッドS.G』」
ルナは両手のS.Gを投げ捨て、再びつぶやく。
すると、棺桶から大きさの違う銃が二つ、ルナの手元に向かって排出された。
キャッチしたルナはすぐさま銃口を鉄腕に向け、引き金を引く。
どちらも同時に発射されたことで、無数の弾丸が鉄腕に向かって行った。
「ぐっ!」
鉄腕はその巨大な腕で身体を覆うと、何とか銃弾を弾ききった。
頑丈な造りになっているようだ。
鉄腕はそのままの体勢で、ルナに向かって突進してくる。
「うおぉぉぉぉ!」
芸のない一直線突進。
身体を鋼鉄の腕で隠しているため銃弾は効かないが、ルナがかわせないほどのものでもない。
ひらりと避けると、ルナは鉄腕に銃を突きつけた。
「チェックです」
「まだだぁ!」
「ッ」
鉄腕は振り返りながら、その腕で裏拳を放つ。
ルナは後ろへ跳んでかわすことが出来たが、代わりに鉄腕に当たるはずだった弾丸は地面に着弾した。
裏拳を放った鉄腕は、突進の勢いそのままに地面を転がる。
体勢を立て直して着地したルナは、その足への衝撃で一瞬狙いをつけるのが遅れた。
「死ねッ!」
鉄腕はその隙を狙っていたらしい。
その鋼鉄の腕をルナに向け、叫んだ。
次の瞬間、鋼鉄の腕は、男のもとから離れていた。
火を吹きながら、圧倒的な破壊力とともにルナに向かっている。
拳を飛ばす。
完全に意表を突かれて、その身に受けていたな……俺だったら。
「面白い攻撃です……が!」
ルナは足を突き出すと、その足の裏で鋼鉄の腕を受け止めてしまった。
大きな音が鳴り、少し地面が揺れる。
鋼鉄の腕にルナの足がめり込み、形を変えていることから、当たればタダでは済まない威力があったのは間違いない。
ルナの身体の方が頑丈だったみたいだけどな。
「な……に……」
大男の方は言葉を詰まらせている。
何というか、相手が悪かったとしか言いようがない。
勢いを失った鋼鉄の腕が、地面に落ちた。
「ざーんねん」
唖然としている男の脳天に、風穴が空く。
セイクリッドD.Eからは煙が出ていた。
本当にあっさり殺すな……。
「では、最後はあなたですね」
「ま、待ってくれ!」
マンモンは尻もちをつきつつも、腕だけで何とか後ずさっている。
必要はないと思ったが、俺はその後ろへ移動して退路を塞いだ。
「ひ、ヒィ!」
これでもうこいつの逃げ場はない。
ルナはゆっくりと近づき、マンモンの前に立った。
「遺言をどうぞ」
「助けてくれぇ! 死にたくない! どうか命だけでも――――」
「醜い遺言ですこと。まあ、クソ罪人にはお似合いの最期です」
「あ……」
D.Eが、マンモンの頭に押し付けられる。
「どうか、この汚らしい罪人に神のご慈悲がないことを祈って――――」
引き金が引かれた。