表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

1-14 殺戮・上

 ルナの両手には、真っ白な銃が握られていた。

『セイクリッドD.E』、それがあの二丁の名前である。

 

「ひ、怯むな! 貴様ら!」


 銃の登場に身を引いた手下たちであったが、マンモンの声で気を取り直す。

 しかし、動揺は残っているようだ。


 銃という武器は、引き金を引くことで、先の尖った鉛玉を吐き出すことが出来る武器である。

 はるか昔、『チキュウ』と呼ばれる世界から来たという人間が、この世界に様々な形の銃を持ち込んだ。

 鋼鉄の鎧すら粉砕するその威力を見て、人々は自らの力で複製しようとした。

 ただ、複製出来たのは外見と弾だけで、実際に撃つことは出来なかったのだ。

 発射に必要な火薬が『チキュウ』の物とまったく異なっていたため、威力が出ない。

 それを問題視した昔の人間は、その火薬を他の道具で補うことにした。

 火の魔石である。

 小さな爆発を起こす魔石が組み込まれており、それを別の術式で一方向へ集中させた。

 これによって、本物の威力と同等の威力を出すことに成功。

 ただし、外見の造形、中の術式、弾の量産にとんでもない費用がかかり、大量生産をすることは出来なかった。

 今でも作られていることには作られているが、滅多に手に入れることは出来ない。

 教会は技術と財力の暴力で、かなりの量を確保しているけどな。


「そんなに離れていていいのですか? ただの的ですよ?」

 

 ルナが銃口を向ける。

 身構える手下たちをよそに、ルナは引き金を容赦なく引いた。

 爆音とともに、銃口から弾丸が発射される。

 次の瞬間、真正面にいた男の脳天に穴が空いた。

 

「立派なケツ穴が出来ましたね。おめでとうございます」


 ……平然とルナは笑っているが、あの銃を撃ったときの反動は尋常じゃない。

 威力に伴った反動が全身に伝わり、俺が使うと腕が跳ね上がる。

 しかし、ルナの腕は動いていない。

 反動すら感じさせない立ち姿だ。


「ち、近づけ! 接近戦で殺せ!」


 マンモンが腕をバタつかせて叫ぶと、手下たちはルナを取り囲むように移動しながら、距離を詰めてくる。

 俺には誰も目もくれない。

 ようやくやつらも聖女の恐ろしさを把握し始めたか。


「おおぉぉぉ!」


「囲んで叩くのはいい戦法ですね。多対一において、もっとも確実に勝利出来ます。しかし――――」


 左右から剣を振りかぶりながら、手下たちがルナに襲いかかる。

 もう手を伸ばして銃を撃つことが出来ない距離だ。

 このままなら、あっけなくルナは殺されるだろう。

 まあ、心配はしていないが。


「私に対してはあまりいい手だとは言えません」


 ルナは腕を交差する。

 すると手を伸ばさないままに、銃口を左右の男たちに向けることが出来た。

 引き金が引かれ、二人の男は脳天に穴を開けながら仰け反って倒れる。

 剣を振りかぶって真っ直ぐ近づいてくるやつなんて、ルナからすれば的がでかくなっただけだ。


「銃を奪え!」


 遠くでマンモンが叫ぶ。

 手下たちはそれに応じて、今度は三方向から襲いかかってきた。

 単純だが、そもそも銃は二丁しかないのだから、いい戦法だと思う。


「ふっ!」


 ルナは一息で左右の男たちの脳天を撃ち抜くと、正面から襲い来る男を見据えた。

 このままでは組み付かれる。

 そうなれば、袋叩き確定だ。

 ……そうならないから、ルナは聖女なんだけどな。


「え……」


 男は、素っ頓狂な声を上げた。

 ルナが、目の前から突然消えたからだ。

 

「上ですよ」


「ギッ」


 軽く地を蹴って宙を舞ったルナは、男の脳天に踵落としを叩き込んだ。

 そのまま地面に叩きつけられた男は、頭を陥没させて絶命した。


「な……その身体のどこにそんな力が……」


 ……この辺りで、聖女について説明しておこう。

『聖女』とは、表向きは神の使いとして、教会の力を広げていく役目を持っている。

 その裏側は、国が手を出すことが出来ない極悪人を武力で殲滅する、特殊部隊の隊長だ。

 護衛である俺も、その部隊に入っている。

 

「私はこの裏稼業のために、卵子精子の状態から改造が施されて作られた人間です」


 人体改造に人体改造を重ね、戦闘に特化するように作られた人間。

 それが、『聖女』である。

 細い体に見えても、その中にはありえないほどの筋肉が詰まっており、そこらの成人男性よりも力が強い。

 

 ――――そう、これだけ聞くと、いつも思うことがある。

『あれ? 俺いらないんじゃね?』……と。


 結論から言って、必要ではあるのだ。

 まず一般人は、聖女を普通の女性だと思っている。

 それが護衛もつけずに街を歩いていれば、不審がられてしまう。

 あと、ここからもっとも重要な点。

 

「ギャ!」「ぶっ」「っ……」「あっ」


「遅い弱い使えない! あなたたち、もう少し気張ってください」


 囲んでいたはずの男たちが、みるみる倒れていく。

 頭に穴を開け、地面に血溜まりを広げた。

 ……もっとも重要な点、それは――――。


「っふふふふっふふふふふふ!」


 この女が暴れるのを、押さえる役目である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ