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1-11 回収人

「さて、お前らの上の人間について話してもらおうか」


 剣を突きつけながら、男たちに言う。

 さっさと黒幕について教えてもらわないとな。


「……ッ!」


「おっと」


 男たちは口を開き、思いっきり噛もうとしていた。

 もちろん、口の中にある毒を。

 俺は真ん中の男の口の中に剣を突っ込む。

 幅が合わずに口の端が切れてしまっているが、気にする必要はないだろう。

 

「がふっ」


「げ……あっ……」


 他の二人は、毒を飲み込んでそのまま死んだ。

 血を吐きながら、床に倒れ伏す。

 仕方がない、一人生かせただけでよしとしよう。


「口開けろ」


「……」


 男が口を開く。

 俺は素早くそこに手を突っ込み、奥歯の上にある毒を掴んで引き抜いた。


「あがっ」


「こうなってたのか」


 弾力のある膜に包まれた紫色の液体。

 これが毒らしい。

 どうやら、一気に強く噛むことで破裂するようになっているようだ。

 便利なものを用意したもんだな。


「って、きたねぇなクソ」


 唾液のついた手のままでは不快感しかないため、男の服で拭かせてもらう。

 よし、そろそろ本題に入らせてもらうか。


「これでお前は自分から死ねなくなった。話してもらおうか? お前らの上司について」


「……」


「だんまりか。話してくれたら、そうだなぁ……牢屋でのお前の待遇を上げてやろう。釈放までの時間も短縮だ」


「俺たちの上司は、マンモン商会の会長だ」


「現金なやつめ」

 

 死ねないなら仕方ないってか。

 こちらとしては好都合だ。


「マンモン商会は、武器や防具、雑貨なんかも取り扱う大きな店だ……表では」


「表では、ね」


「裏ではクスリ、人身売買何でもござれだ。あの人は、金になるなら何でもやるんだよ。欲望に眼が眩んじまっているのさ」


「よくそんなやつについて行くな」


「初めは金になるから入ったんだ。けど徹底的に裏を見せない体制のせいで、裏切れば俺たちの家族が無事じゃ済まないんだよ。まあ……俺の家族は婆ちゃんだけだったし、それも三日前に死んじまったけど」


 なるほどな、裏切っても失う物がなくなったから、他のやつより口を閉じるのが遅かったんだ。

 しかし、これで何とか黒幕の名前は割れた。

 あとはこれを国に伝えて、処理してもらえばいい。


「情報感謝するぞ。んじゃ、拘束させてもらうから」


「おう……」


 男の身体を縛り、拘束する。

 もうすぐ回収人がやってくるはずだ。

 ここの始末は連中に任せよう。

 と思っていると、ちょうど俺の後ろから気配がした。


「うっひゃー、相変わらず散らかしますね! 処理する身にもなってくださいよ!」


「よりにもよって、回収人がお前の部隊とはな……」


 回収人たちは、すでに到着していたようだ。

 俺の横を、ちっこい影が走り抜けていく。

 オレンジ色のツインテールを振り回し、床に広がった血を使って絵なんか描き始めてやがる。

 俺はこいつのテンションが得意ではない。

 

「ククリさん! 猫描けました! 猫!」


「ああ、下手だな」


「それはそうと、猫描くって書くと、『猫猫』に見えて面白いですね!」


「お前は何を言っているんだ?」


 よく分からないが、俺の理解が及ばない領域の話ということは分かった。

 

「ククリ様、我らの部隊の隊長が申し訳ありません」


「あんたらが謝ることじゃない。俺もさすがに慣れたから、気にするな」


 俺の後ろに突然現れた、5人ほどの集団。

 全員が教会支給のローブを羽織り、フードで顔を隠している。

『教会関連事件処理担当回収部隊』、それがこいつらの正式名称だ。

 長ったるしいから、俺たちは回収人と呼んでいる。

 教会関係者が関わった事件や問題が解決した後、それの後始末をしてくれる連中。

 神出鬼没で、仕事が終わる頃には、現場に髪の毛一つ落ちていない。

 証拠隠滅部隊と呼ばれることもある。


「ちょっとククリさん!? このヒカゲちゃんにもっと構ってください!」


「うるせぇ! お前のテンションが名前と合ってねぇんだよ! むしろ日向なんだよ!」


「え!? 私が太陽のように眩しくて、その光のように暖かいなんて……お上手さんなんだから!」


「言ってねぇぇぇ!」


 斬り殺そうと剣を振り上げた俺を、他の回収人たちが慌てて止めた。

 頼む、この羽交い締めを解いてくれ。

 こいつに神の裁きを!


「お、お気持ちは分かりますが、ククリ様! お止めください!」


 気持ちは分かるんかい。


「はぁ……はぁ……頼むから早く仕事を終えてくれ……そこで縛ってあるのは国の衛兵の方な」


「えー? じゃあ『お願いします! ヒカゲちゃん!』と――――」


「死ぬか?」


「きゃあこわーい! 怖いから仕事しちゃおー! ほらみんなやるよ!」


『御意』


 俺は頭痛を訴え始めた頭を振った。

 これだから、ヒカゲが回収担当になったときは疲れるのだ。

 顔を上げると、そこにはもうヒカゲたちはいない。

 転がっていた死体や、血の跡も、すべて消えていた。

 相変わらず、手際だけは一番いい。

 それが何とも言えない複雑な感情を抱かせる。

 

「はぁ、こりゃ明日は俺たちの足で国のお偉いさんに報告だな」


 回収人は、情報伝達まではやってくれない。

 この件の親玉は分かった。

 さっさと報告して、国の方から処理してもらおう。


 ――――そう言えば、何か忘れているような……。


「……そろそろ私を助け出してもらっていいですか?」


「あ」


 ルナをすっかり忘れていた。


◆◆◆ 

 結局、ルナを助けだして外に出た頃には、日が昇り始めていた。


「……ずいぶんと、ヒカゲと仲いいみたいですね」


「あ? どこをどう見たら仲良く見えるんだよ。どちらかと言うと犬猿だろ」


 大変心外だ。

 出来ることなら会いたくない人間ランキングの、三位以内に余裕で入っている。

 

「へぇ、そうですか。まあ関係ないですけど」


「何を拗ねているんだ?」


「別に、拗ねてませんよ」


 そう言って、ルナは俺から視線を逸らす。

 何か気味悪いな、こいつ。

 それより――――。

 

「その首の跡……大丈夫か?」


「……これですか? 問題ないです。あまり支障はないので、十分動けます。それに、聖女がこんなもので動けなくなることはないと知っているでしょう?」


 クスリを打たれた跡のように見えるが……まあ、確かにそんな心配するだけ無駄か。

 今は仕事を済ませることに集中しよう。


「役人のもとへ行きますよ。早く報告を済ませて、支部回りに戻ります」


「はいよ」


 朝っぱらだから馬車はないが、今から向かえば昼前にはつくだろう。

 そうすれば俺たちの仕事は終わりだ。

  

 ――――と、思っていたんだが。


「はぁ……まさか国の方でも手が出せないとは……」


「想像以上にマンソン商会が大きかったと言うことでしょうね、おそらくあの役人、買収されていますよ」


 西地区でもっとも大きな建物である役人の勤め先から、俺たちは外に出た。

 俺たちの雰囲気は暗い。 

 

「『マンソン商会は生活になくてはならない団体です。証拠でもあるんですか?』って何食わぬ顔で言うんだもんな……仲間が吐いたって言っても取り扱わない。もう完全に取り込まれてやがる」


「……ここはマンソン商会へ直接行ってみましょうか」


「は?」


 ルナは顎に手を当てながら言った。

 もう親玉のところへ行く気か。

 

「よく考えれば、私たちはその商会のことについてほとんど知りません。ここらで本人から話を聞いてみましょう」


「おいおい、あまりに大胆すぎないか? 誤魔化されたら?」


「嘘をついているかどうかなんて、目を見れば分かります。まずはあの部下が漏らした情報の裏付けがしたいのです」


「……まあ、それしかないか」


 裏付けさえ出来れば、教会の方でどうとでもなる。

『事故』にでもしてしまえばいい。


「今日の予定は決まりましたね」

 

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