イニスちゃんの『恋愛事情』
あたしはイニス。小さな街にある飲食店でフリーターをしている。
素直になれないイニスは「恋」をしていた。
同じ飲食店でバイトをしている男の子、O君。
イニスより二歳年上であまり自分から話そうとしないイニスにとってO君の存在は大きかった。
バイトが被る度に嬉しい気持ちを抑えながら働いていたし、少しでも可愛く思われたいがために得意ではなかった化粧も覚えた。
そんなイニスに試練を与えるかの様な出来事が起こったのだ。
「えっ彼女さん、出来たんですか」
それは本当に突然の事だった。
たわいもない会話をO君としていた時、普段はしない恋愛話になり彼女が出来た事を知ったイニスは一瞬固まるが直ぐに平静を装う。
なんで、こうもタイミングが遅いんだろうか。
去年の夏頃は自意識過剰かもしれないけど良い雰囲気だったはずなんだ。
近場だが二人で出かけたりもした、連絡だって常に取り合っていたし……
あぁあたしが一方的に「好き」だったから良い方に思考されていたのかと思う他なかった。
『あたしだって好きなんですよ!どれだけ片思いしてると思ってるんですか!』
なんて強い女性だったら良かったのかな。
「じゃあもう一緒にライブとか行けませんね」
好きなアーティストのライブによく一緒に行ってた。
これからは行けなくなるのか、考えが全部マイナスな方向に持っていかれそうな時、意外な答えが返ってきた。
「それは行く。知り合いで好きなアーティスト被ってるのイニスぐらいだからな」
「いやいや、良くないですよ彼女さん嫌がりますよ」
「決定事項だ。」
一瞬だがニヤッとした自分を呪いたい気分だ。こんな事を思っちゃいけないのにまだ繋がりが持てると喜ぶ自分がいた。
でもなんでだろう。
普通は彼女が出来ると女関係切ったり、連絡取らなくなったり、素っ気なくなったりするのにO君はいつもと変わらないんだ。
「O君がそれでいいなら……」
「なんだよ嫌なの?」
「え、嫌ではないですよ、」
嬉しいのについつい微妙な反応をしてしまう。可愛げのないイニスは心では
『ダメでしょ素直にならなきゃ!』
「いや、あれでいいのよ!」
『ダメよ!嬉しいって気持ちを伝えなきゃ分からないもの』
「うるさいうるさい!」天と悪が葛藤していた。
数ヶ月後……
O君とバイト上がりが被ったイニスはO君が駅まで送ってくれる事になった。
あの日以来、イニスはO君と恋愛話をすることはなく。むしろイニスから気持ちとは裏腹にO君を避けるようになった。
彼女持ちを好きになる哀しさ、振られて楽になればいい、何度告白をしようとした事か、思いばかりが先走る。
「さっむいな〜」
「寒いですねマフラー持ってくればよかった。」
「俺の貸そうか。」
またこの人は何かを言ってるんだ。
毎回言うが彼女持ちでしょ?こう一々、期待させられちゃうから怖い。
無自覚で女たらしなんだ。きっとそうだ一番タチが悪い。
「いや遠慮しますよ」
「なんだよ寒いだろ?」
「寒いですけど……大丈夫です。」
イラッとした気持ちをこらえ微笑んで見せた。
もうこんな気持ち嫌だ。嫌だ
「……そっか。ほらよ」
「えっわゎ!」
O君は少し悩んで自分の手で持っていたホッカイロをイニスにくれた。投げてきたから少し驚いたけどお礼を言って受け取った。
なんでどうしてあたしに優しいんだろう。
「なぁ……嘘だって言ったらどう思う」
「え?」
嘘?何が嘘なんだろう
突然、訳の分からない事を行ってくるO君を見つめる
「いや、だから嘘……彼女が出来た事が嘘なんだ」
「……なっな〜んだそうだったんですねぇ」
あぁやばい。驚きすぎて声が裏返りそうだ。嘘をつく必要があったからついたんだろうなとは思う。
「引いたよな。でも俺の話聞いてくれるか?」
O君の問いかけにイニスは今声を出したら涙が溢れそうでコクンと頷くのが精一杯だった。
「俺、イニスが好きだ。でもイニスは俺の事を恋愛対象に見てないと思ったんだ、それを友人に相談したら彼女出来たとか嘘ついて反応みたらってそいつに言われて、咄嗟に嘘ついた。直ぐに後悔した、イニスが俺を避けるようになったし今日だって久しぶりだ。」
「そ、そりゃ避けますよ……。彼女持ちを好きでいるのって辛いんですよ苦しいんですよ!それが嫌で振られて楽になりたいとかこのまま諦めた方が良いのかなって考えたりするんですよ。」
ーーギュッと涙をこらえるイニスを抱きしめたO君は言う。
「好きです。まだ気持ち残ってたら俺と付き合って下さい」
とうとうこらえてた涙を流し「はい」と微笑んだ。