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叛 逆 の R é s i s t a n c e  作者: Metropolis-Industries
1/1

Episode:0 フランスの華は可憐に散る

世界を革新しようとする運動は、その瞬間にではなく、未来に奉仕するものである。

             アドルフ・ヒトラー

・・・これは、夢だろうか。いや、夢にしては感覚がハッキリしすぎている気がする。一体ここはどこだろうか・・・

真っ暗闇の世界、目が暗さについていけていない。肌寒ささえ感じる。とりあえず立とうと床に手をやった。砂や石ころが転がっている。これはコンクリートだろうか。

なんとなく暗さに慣れてくると、ようやく少しだけ見えてきはじめた。周りに見えるのは瓦礫、瓦礫、そして瓦礫。どうやら倒壊寸前の建物の中のようだ。

一体なぜこんなところに・・・

突然、私の目の前に横たわっている血まみれの人が映った。顔は暗くてはっきりと見えないが、血に汚れた金髪がそれでも美しく輝いている。しかし、考えてみると、目の前に瀕死かもしくはもう死んでいる人がいるというのにやけに冷静なものだ。流石に慣れたか。

その時、自分も血まみれであることに気がついた。不思議と痛みは湧いてこない。やはり夢なのだろうか。

「…」

横たわっている女の人が何かを言おうとしている。はっと我に帰り、私はその人を助けようとした。助けるのが当然であろう。それなのに身体が動かない。全く言うことを聞かない。

「…それで…どう…するの…?貴女は…」

確かに彼女はそう言った。一体何をどうすればいいのだろうか?何もわからない自分だが、何故か勝手に言葉が出ていた。

「私は、私は…!」

言うことを聞かない身体が突然動き出した。勿論自分の好きなように動いたわけではない。むしろ逆だ。

私は彼女を助けるどころか、彼女に銃を向けていた。まさか、私は瀕死の彼女にとどめを刺す気なのか。そう思ったのだが、何故かこの時私は使命感に駆られた。『この女を、罪深きこの女を殺さなければならない』と。何が起こっているのか分からないが、彼女を殺す必要があるのだ。私にはその義務がある。

「…私はあなたのようにはならないわ。私とあなたは違う!断じて違う!生きて、必ずこの世界を終わらせる!あなたとは違うやり方で!誰も不幸にしないやり方で!!」

「…そう…それが…貴女…り方なのね…でも…無駄、よ…貴女は…抗えな…い…」

--貴女には…貴女では…絶対世界線には抗えない…

彼女がそう言った直後、私は彼女に向けていた銃の引き金を引き・・・



Mai.20th 1936

旧フランス第三共和国領 オート=ヴィエンヌ県

ビュシエール=ポワトゥヴィンヌ郊外


「…きろ、起きろ!」

夢の底から声が聞こえ、少女は飛び上がるように起きた。被っていたヘルメットが転げおちる。

「どうした?凄い汗だぞ?」

眼鏡をかけた男が少女に声をかけた。少女は汗だくだ。

「あぁ…おはようございます、クジョー。」

「クジョーじゃなくて九条だ、最後を伸ばすんじゃない。」

男が少女にタオルを渡した。綺麗に洗われたタオルなどではない。黒く汚れた雑巾のようなタオルだ。しかしないよりマシなのは確かであろう。

「しっかしよくもまあ…こんな…トーチカの中で体操座りして、しかも銃を抱き枕に爆睡できるものだな。感心するよ、お嬢には。」

「寝る場所を選ばずに寝れることは戦士としては最高ではありませんか?」

九条と呼ばれた男はフッと鼻で笑い、「そうかい」とだけ返した。

彼の名は九条誠。旧大日本帝国から旧フランスに渡ってきた。彼が腰に据えている拳銃は『マカロフPB/6P9』という。銃にしては反動が少なく、かつサイレンサー内蔵と扱いやすい。

そして少女の方だが、彼女に名前はない。あったのかもしれないが忘れてしまったようだ。彼女は幼い頃の記憶を完全に失っており、気がつけば、こうして銃を持って戦場を駆け回っていた。九条ら周囲からは「お嬢」と呼ばれている。少女の主装備は『カラシニコフAKML』。AK-47の改良型、AKMに暗視装置と大型のサイレンサーを装備したバリエーションタイプである。更に武骨な形の『トカレフTT-33』を腰に据えている。

「ふぅ」

「さて、よろしいかな?」

「ええ、ありがとうございます。」

少女がにっこりと笑う。その笑顔に、九条もつられてしまった。彼女の美しさにはやはり皆惹かれるものがあるだろう。彼女の瞳はコルシカ島の地中海のように青く、彼女の髪はトゥールーズの小麦畑のように黄金色に輝いている。並々ならぬ美しさを持っていた。・・・装備しているものの物騒さも並々ならぬものであったが。

トーチカの銃眼から朝日が入ってきた。時間だ。トーチカとトーチカを結ぶ塹壕から一人の兵士がやってくる。

「本部からミッションのゴーサインが出た!しっかりやってこいよ!」

「任せとけ」

「了解です!」

二人は頷きあい、颯爽と外へ飛び出た。

---地獄の果てに繋がる世界へと




    - 叛 逆 の R e s i s t a n c e -



Mai.16th 1936

オート=ヴィエンヌ県 リモージュ

アパート


『おはようございます、ラジオ10です。…連日お伝えしておりますように、昨日5月15日、フランス国主席フィリップ・ペタン暗殺未遂事件が勃発しました。これを受けて"メトロポリス・インダストリーズ"は本日未明、フランス国粋派の犯行であると断定し、国粋派の根強いブーシュ=デュ=ローヌ県に対して強力に介入を進めることを決議しました。その際の声明です…』

またこのニュースか。九条は窓から見える春の景色を見ながらため息をついた。昨日からどこのラジオ番組もペタン暗殺未遂事件の話ばかりだ。先ほどまで読んでいた新聞でも一面で大々的に報道されている。

九条はラジオを切り、窓をゆっくりと開けた。春の日差しが暖かい。少女はというと、いつものように男達に囲まれ、いつものように笑い話をしているようだ。時々男達の笑う声がどっと響いてくる。

ここリモージュは平和な地だった。少し前まで朝から晩まで砲声が聞こえてくる戦場のど真ん中であったが、九条ら"ラ・フランセーズ=レジスタンス"が完全に掌握し、現在ではその拠点として機能している。企業とフランセーズ=レジスタンスの戦いは今の所フランセーズ=レジスタンスの方が優位に立てており、オート=ヴィエンヌ県北部にまで前線を押し上げることに成功した。と言っても、フランスの大部分を支配していた"ルクレール社"が弱体化しているからに過ぎない。それよりも問題なのは、"ルクレール社"を潰しにかけ、フランスへの攻勢を強めている"メトロポリス・インダストリーズ"の方だ。あの世界企業が支配する地域では、殆どのレジスタンス運動が完全鎮圧されていると聞く。早急な対策を講じる必要があることは、九条だけでなくフランセーズ=レジスタンス全員が感じていた。

ぼんやりと外を眺めていると、誰かが戸を叩く音がした。音の主は九条の返事を待たずに戸を開ける。

「そろそろ来ると思っていましたよ、レオーネさん。」

まるまると太ったその男--アレクサンドル・レオーネは"フランス革命党"の党員だ。その党はフランスに残る唯一の政党として祖国復活を目指している。唯一の政党とはいえ、フランスを飲み込もうとする企業にとってはレジスタンス部隊と何ら変わりのないものではあるが。

「もう耳にしたかね、ペタンのことは。」

「ええ、昨日からラジオはその話ばかりです。」

レオーネはソファにドカッと座り込む。九条は彼に水を差し出した。

「本件を党は一切関知していなくてね。ブルム代表も我が党とは無関係であることを公式に発表した。我々としてはペタンの死は"吉報"ではあったが、な。」

その言葉に九条の顔は不服を表した。レオーネは気にもせず続ける。

「第一、奴の考える祖国そのものがおかしい。領土は企業どもに北半分を取られ、首都パリを取られ、それでもって奴のフランス国は"メトロポリス・インダストリーズ"の傀儡政権だ。しかもそのフランス国領内にさえ企業どもの支配圏が拡大しつつある。あれではフランスという国は存在しないこととなんら変わらん。そうだろう?」

「…そうでしょうか?僕はペタン閣下のおかげでパリが焼かれずに済んだものと思っていますが…」

その言葉を聞いた途端、レオーネはコップを机に叩きつけた。

「バカを抜かすなクジョー君!さっきも言ったが、パリはメトロポリス社の手中にあるのだ!それでパリを護れただと?日本人の君にはフランス人の心は読めんだろうが、あんな売国奴を許すフランス人はいない!」

九条は黙るしかなかった。実際、ペタンのことをパリの守護者と考える人間はほぼいないに等しい。ペタン閣下の決断を称賛したいが、残念ながら九条にはフランス人の思いを覆す権利はない。少し沈黙があって、

「…それで、今回はどのような要件で?」

と聞いた。

「…うむ、君の銃『マカロフPM』だが、注文通り本国に頼んでサイレンサー内蔵型にしておいた。『マカロフPB/6P9』だ。」

レオーネはスーツケースを開け、その銃を取り出した。九条はそれを受け取り、早速構えてみた。

「サイレンサーを装備してもさほど重さが変わっていませんね。重心もそのままだし、こいつは使いやすい。さすがはソ連製ですね。」

「彼女の装備も新調してもらった。前まで使っていたAKMに暗視ゴーグルとサイレンサーを取り付けている…まあ、こちらのサイレンサーは大型化してしまって少し重くなったがね。」

「ありがとうございます。お嬢は怪力ですからね、その点は問題ないでしょう…それにしても、"ソヴィエト"はいつもいい仕事をしてくださる。いつも気になるのですが、あそこは何故企業の手が入らないのですか?」

レオーネはそれを聞くと大笑いした。

「クジョー君、支援してくれているところの事情くらいは知っておくべきだよ。まあいいこの際だ、よく聞きなさい。」

レオーネは煙草に火をつけ、本国について話し始めた。彼の言う本国とは"ソヴィエト社会主義共和国連邦"である。国家が消滅したこの世界において、"フランス国"のような企業傀儡政権国家は数多い。しかし、ソヴィエト社会主義共和国連邦は唯一、企業の傀儡ではない本当の国家として現在も存続していた。ソヴィエトだけ企業に飲まれなかった理由は、企業が巨大化する前から社会主義を確立していたからだ。いくら巨大化した企業でも、資本主義の概念が通じないソヴィエトに手を出すことだけはできなかった。ただでさえ自分の支配地域においてレジスタンス運動が止まない中で、ソヴィエトに侵攻することは自殺行為だ。企業にとってソヴィエトは、本当の国家は大変な脅威であった。

フランセーズ=レジスタンスではソヴィエトの力を大いに借りている。九条や少女の持つ武器や、兵站、戦略、防諜などは全てソヴィエト頼りだ。また、"フランス革命党"はソヴィエトと直接の関係を持っていた。フランセーズ=レジスタンスがソヴィエトから支援を貰う時は、必ずフランス革命党を通じている。

「それで、代金の方なんだが…」

レオーネが吸いきった煙草を窓から放り投げた。

「ちょっと君と彼女に頼みたい事がある。今回はそれが代わりだ。」

「…どのような?」

「人質の救出だ。ビュシエール=ポワトゥヴィンヌは知っているな?」

「ルクレールの支部がある所ですね。今は確か第62部隊が攻勢をかけているはずです。」

「そうだ。その支部内に本国の要人が囚われているらしい。全くルクレールも愚策に出たものだ…さておき、クジョー君と彼女にはその要人の救出を頼みたい。本国もルクレールに攻勢をする準備ができたらルクレール本社を徹底的に叩くつもりでいる。しかし、その間に要人に何かあってはいけない。だから君達に頼むことになった。」

「第62部隊にやらせれば良いのでは?」

「ダメだ。あの荒くれ部隊アウトローでは人質の命がいくつあっても足らん。それに、ルクレールは人質を今にも殺す勢いだ。第62部隊の突入より前に潜入する必要がある。」

「分かりました、では、そのように。」

レオーネは和かにうんうんと頷き、

「では失礼するよ。」

と部屋を出て行った。九条は彼の退室を見ると、すぐに準備にかかった。カバンに手をやった時、独り言のようにぽつんと呟いた。

「そうだ…お嬢呼びもどさないと…」


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